だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「おいおいどうしたんだレオ。水を得た魚のように活き活きとして」
「えっ?! いやっ、別に、何……でもないよ?」
「ハッハッハ、お前本ッ当に嘘つくの下手くそだな! ワシ等の誰よりも頭がいい癖に」
「頭がいいって、記憶力が少しいいだけだよ……というか嘘なんてついてないから!」
「嘘つけ、お前どう考えても活き活きしてただろ。なんだァ〜? お前まさかアミレス王女殿下にお熱なのかァ?」
「おねッッ!? 伯父様ぁ〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
「ダァーハッハッハッハッ!! 顔真っ赤だぞレオ!」

 両親の目の前でからかわれ、レオナードは耳まで真っ赤にしてログバードに詰め寄った。ログバードは非常に楽しそうに大口を開けて笑い、子供のようにレオナードを煽りイジる。

「お義兄さん、それぐらいで……レオもそんなに恥ずかしがらなくていいじゃない。お母さんとお父さんだって、帝都に行ってから貴方に想い人が出来ていた事ぐらい気づいていたわよ?」
「〜〜ッ?!」

 ヨールノスの包み込むような優しい眼差しがレオナードに向けられる。ヨールノスの言葉に賛同するように、セレアードはこくりと頷いた。
 そして、レオナードは更に顔から火が出そうな程に顔を赤くさせて、羞恥に体をわなわなと震えさせた。

「もうっ! お母様も伯父様もあんまりお兄様をからかわないでください! お兄様は初めての思春期なんですよ!」
「うっ」
「それにしても、レオの初恋の相手がアミレス王女殿下なんて……相手は唯一の王女よ……?」
「うぅっ」
「風の噂によると、アミレス王女殿下は婚約者すらもお望みではないそうだ。残念だったな、レオ」
「うぐぅっ」

 妹と母と伯父より立て続けに精神的攻撃を受けたレオは、先程までの赤面っぷりが嘘のように顔色を悪くして、

「……別にいいだろぉっ、片想いしてるだけだしぃいい!」

 錯乱した目に涙を浮かべ、部屋を飛び出した。

「あっ、待ってくださいお兄様ーーー!」

 その後を追うようにローズニカも走り出す。そんな仲のいい兄妹の背を見送り、大人達はふっ……と息を漏らす。

「青いねェ」
「あまりレオをいじめてやらないでくれ、兄さん」
「そうですよ、お義兄さん。レオは純粋なんだから……」
「お前達がそうやってすぐあいつを甘やかすから、あいつはあんなうじうじした辛気臭い性格に育ったんだ」
「……っ」
「仰る通り、です……でも、私にはあの子を愛してあげる事しか出来ないんです。それが、私に出来る唯一の償いだから」

 途端に暗くなる、セレアードとヨールノスの顔。そこには深い懺悔のようなものが滲み出ていた。
 弟夫婦までもが辛気臭い顔をし始めたので、はぁ……と大きな息をついて侍女から葉巻を受け取り、それに火をつけてログバードは椅子の背もたれに体を預けた。

「ふぅ……いつになったら、あいつは自分の才能を自覚するんだろうなァ。このままだと宝の持ち腐れだぞ」

 ログバードはレオナードの未来を憂いた。訳あって本来の才覚を全く発揮出来ないでいるレオナードを、ログバードなりに心配していたのだ。
 レオナードはディジェル領の民として致命的な欠陥を持つと同時に、テンディジェル家の者として圧倒的な才能を持って生まれた。
 しかしその致命的な欠陥によってレオナードは塞ぎ込み、己を卑下し、そして才能を自覚出来てすらいなかった。
 どう考えても宝の持ち腐れなこの状況。しかし、彼等ではレオナードの心を理解してやれなかった。寄り添えなかった。
 それ故に、ログバードは切に願う。
 レオナードが、その重い足枷をいつか外せる日が来る事を。

(ワシはこのヘタレな弟よりもずっと……お前こそ大公に相応しいと思ってるんだぞ、レオ)

 口から煙を吹き出して、今頃妹に慰められているであろうレオナードを思い、ログバードは瞳を細めた。
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