だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
実はこれ、腕が鈍った事も事実ではあるのだが……それ以上に大事な目的があるのだ。
まず一つ。ディジェル人と呼ばれる特殊な人々の戦闘能力がどれ程のものなのかを見定める事。
二つ目。少しでも計画決行時に皆の負担を減らす為、前もって腕の立つ者を負傷させておく事。
実に汚いやり方ではあるが、私はこの計画において誰一人として死傷者を出させないと決めた。だからなりふり構ってられないのだ。
その為にも、セレアード氏には『皇族だとか関係無しに真剣勝負してくれる方をよろしくお願いします』と頼んでおいた。これで、きっとかなりの実力者が真剣勝負をしてくれる筈。
真剣勝負ならば──、ついうっかり私達が相手に大怪我させても問題無いからね!
「人が集まって来ましたね。臣民の分際で王女殿下を見下ろすなど不敬も甚だしい」
「建物の構造に文句つけちゃ駄目でしょう……でも確かに、観客が増えてきたわね。そんなに物珍しいのかしら、外部の人間って」
「正確には主君が珍しいのだと思います。今代のフォーロイト一族は遠出を好まないと有名ですから」
観客席を見上げて話す。アルベルトの解説のおかげで観客のお目当てが私だと分かり、皇帝とフリードルがこれまで如何程に遠出をして来なかったかを理解してしまった。
「あぁ……成程ね……私は数年前まで外出を禁止されてただけで、遠出自体は好きなんだけどなぁ」
ずっと狭い世界に閉じ込められてるより、外の世界に出て好きな事をしたい。この気持ちは、何もおかしなものではない筈だ。
そう、思った瞬間。
頭に粗いノイズが走る。
『───ねぇ、■■。外には何があるの?』
『───うーん……色々? かく言う■も外の事はあまり詳しくなくてな…………色々、としか答えられない。ごめんよ、■■』
狭い格子窓の隙間から、空を眺めていた。
鳥や自然や、人々の声が聞こえて来る外の世界に、憧れていた。
着物だけじゃなくて、本やゲームで見るような普通の洋服に憧れていた。
目が穢れてしまうと、外では何も見せてもらえなかった。何も触れさせてもらえなかった。
何も、何も無い。何も知らない私に、私《・》をくれたひとがいた。
たくさんの宝物をくれたひとがいた。知識を、趣味を、思い出をくれたひとがいた。
優しい声と、優しい笑顔の、たったひとりの、私……の──。
「……──アミレス王女殿下! 大変長らくお待たせしました。ディジェル領の誇る三つの騎士団、『紅獅子《あかじし》騎士団』『蒼鷲《あおわし》騎士団』『黒狼《こくろう》騎士団』よりそれぞれ三名ずつ実力者を連れて参りました」
「っ、ああ……どうもありがとうございます」
セレアード氏の声によって、私の意識は現実に引き戻された。
……何だったんだ、今の映像……いや、記憶は。もしかして私の前世の記憶? 全然覚えてないのに、どうして今急に?
私がアミレスになって、彼女の閉塞的な生活に特に戸惑わなかったのは…………元々そうだったから、なの?
「この度はお忙しい中急な呼び出しに応えて下さり、感謝しますわ」
気を取り直して、営業スマイルで私から挨拶する。
「いえいえ! 王女殿下直々のお呼び出しとあれば当然馳せ参じますとも。私は紅獅子騎士団団長のモルス・バンディンスです。こちらは副団長のザオラースと団員のカコンです」
「紅獅子騎士団副団長のザオラースです。王女殿下にお会い出来て光栄です」
「カコンです、よろしくお願いします!」
まず最初に名乗ったのは随分と爽やかで勇ましい印象を受ける男性、紅獅子騎士団の団長さんだった。見るからに女性にモテそうな見た目だ。
副団長さんと団員の方も同様で、爽やかな印象が強い。
「俺は蒼鷲騎士団団長、ムリアンです」
あら、眼鏡男子だわ。やけに睨んで来るけど私何かした?
「すみません〜〜! うちの団長目付きがすっっっごく悪くて! 決して王女殿下に文句があるとかではありませんので!! あっ、自分は蒼鷲騎士団副団長のセファールと申します。こちらはうちの期待のエース、ラナンスです」
「ラナンスです。麗しの王女殿下にお会い出来て恐悦至極です」
蒼鷲騎士団の団長さんを押し退けるように現れたのは副団長さん。なんと蒼の団長さんは目付きが悪いだけらしい。うちのディオみたいなものね。
そしてなんと女性騎士まで出てきた。しかもめっちゃ美人。かっこいい……! うちで言うクラリスみたいなものよね、本当にかっこいいなぁ、女性騎士って。
「……黒狼騎士団団長のバルロッ……」
「王女殿下〜〜っ! いやぁお会い出来て光栄です! 実物は想像を遥かに超える美しさでもう……っ、僕はこの熱いハートを撃ち抜かれたような気分ですよ!!」
「あの副団長ぉ!? まだ団長が名乗ってすらいないんですけどもうちょい抑えてくださぁい!!」
また随分と個性豊かな人達が現れたものだ。黒狼騎士団というクールな名前からは想像つかないような、個性で殴る感じのインパクトの強さね。
「……改めて。黒狼騎士団団長のバルロッサだ」
「黒狼騎士団副団長のエストでーす☆」
「副団長補佐のような立場のナァラです……副団長がたいへんご迷惑をおかけしました……」
チャラい。チャラいぞこの副団長。しかも団長は孤高の一匹狼感がある。個性豊かとは思ったけど豊かすぎるでしょこの騎士団。めっちゃ面白いじゃん。
一通り自己紹介を聞いて思った。確かに腕の立つ者を、と頼んだけれど……まさか大公領の誇る三大騎士団の団長と副団長が勢揃いするなんて!
ちらりとイリオーデとアルベルトの方を見てみると、二人共何故かにこやかに微笑み返して来るだけ。まるで、『こいつ等全員殺っていいんですよね?』とでも言いたげな、そんな背筋が凍る笑みだ。
まず一つ。ディジェル人と呼ばれる特殊な人々の戦闘能力がどれ程のものなのかを見定める事。
二つ目。少しでも計画決行時に皆の負担を減らす為、前もって腕の立つ者を負傷させておく事。
実に汚いやり方ではあるが、私はこの計画において誰一人として死傷者を出させないと決めた。だからなりふり構ってられないのだ。
その為にも、セレアード氏には『皇族だとか関係無しに真剣勝負してくれる方をよろしくお願いします』と頼んでおいた。これで、きっとかなりの実力者が真剣勝負をしてくれる筈。
真剣勝負ならば──、ついうっかり私達が相手に大怪我させても問題無いからね!
「人が集まって来ましたね。臣民の分際で王女殿下を見下ろすなど不敬も甚だしい」
「建物の構造に文句つけちゃ駄目でしょう……でも確かに、観客が増えてきたわね。そんなに物珍しいのかしら、外部の人間って」
「正確には主君が珍しいのだと思います。今代のフォーロイト一族は遠出を好まないと有名ですから」
観客席を見上げて話す。アルベルトの解説のおかげで観客のお目当てが私だと分かり、皇帝とフリードルがこれまで如何程に遠出をして来なかったかを理解してしまった。
「あぁ……成程ね……私は数年前まで外出を禁止されてただけで、遠出自体は好きなんだけどなぁ」
ずっと狭い世界に閉じ込められてるより、外の世界に出て好きな事をしたい。この気持ちは、何もおかしなものではない筈だ。
そう、思った瞬間。
頭に粗いノイズが走る。
『───ねぇ、■■。外には何があるの?』
『───うーん……色々? かく言う■も外の事はあまり詳しくなくてな…………色々、としか答えられない。ごめんよ、■■』
狭い格子窓の隙間から、空を眺めていた。
鳥や自然や、人々の声が聞こえて来る外の世界に、憧れていた。
着物だけじゃなくて、本やゲームで見るような普通の洋服に憧れていた。
目が穢れてしまうと、外では何も見せてもらえなかった。何も触れさせてもらえなかった。
何も、何も無い。何も知らない私に、私《・》をくれたひとがいた。
たくさんの宝物をくれたひとがいた。知識を、趣味を、思い出をくれたひとがいた。
優しい声と、優しい笑顔の、たったひとりの、私……の──。
「……──アミレス王女殿下! 大変長らくお待たせしました。ディジェル領の誇る三つの騎士団、『紅獅子《あかじし》騎士団』『蒼鷲《あおわし》騎士団』『黒狼《こくろう》騎士団』よりそれぞれ三名ずつ実力者を連れて参りました」
「っ、ああ……どうもありがとうございます」
セレアード氏の声によって、私の意識は現実に引き戻された。
……何だったんだ、今の映像……いや、記憶は。もしかして私の前世の記憶? 全然覚えてないのに、どうして今急に?
私がアミレスになって、彼女の閉塞的な生活に特に戸惑わなかったのは…………元々そうだったから、なの?
「この度はお忙しい中急な呼び出しに応えて下さり、感謝しますわ」
気を取り直して、営業スマイルで私から挨拶する。
「いえいえ! 王女殿下直々のお呼び出しとあれば当然馳せ参じますとも。私は紅獅子騎士団団長のモルス・バンディンスです。こちらは副団長のザオラースと団員のカコンです」
「紅獅子騎士団副団長のザオラースです。王女殿下にお会い出来て光栄です」
「カコンです、よろしくお願いします!」
まず最初に名乗ったのは随分と爽やかで勇ましい印象を受ける男性、紅獅子騎士団の団長さんだった。見るからに女性にモテそうな見た目だ。
副団長さんと団員の方も同様で、爽やかな印象が強い。
「俺は蒼鷲騎士団団長、ムリアンです」
あら、眼鏡男子だわ。やけに睨んで来るけど私何かした?
「すみません〜〜! うちの団長目付きがすっっっごく悪くて! 決して王女殿下に文句があるとかではありませんので!! あっ、自分は蒼鷲騎士団副団長のセファールと申します。こちらはうちの期待のエース、ラナンスです」
「ラナンスです。麗しの王女殿下にお会い出来て恐悦至極です」
蒼鷲騎士団の団長さんを押し退けるように現れたのは副団長さん。なんと蒼の団長さんは目付きが悪いだけらしい。うちのディオみたいなものね。
そしてなんと女性騎士まで出てきた。しかもめっちゃ美人。かっこいい……! うちで言うクラリスみたいなものよね、本当にかっこいいなぁ、女性騎士って。
「……黒狼騎士団団長のバルロッ……」
「王女殿下〜〜っ! いやぁお会い出来て光栄です! 実物は想像を遥かに超える美しさでもう……っ、僕はこの熱いハートを撃ち抜かれたような気分ですよ!!」
「あの副団長ぉ!? まだ団長が名乗ってすらいないんですけどもうちょい抑えてくださぁい!!」
また随分と個性豊かな人達が現れたものだ。黒狼騎士団というクールな名前からは想像つかないような、個性で殴る感じのインパクトの強さね。
「……改めて。黒狼騎士団団長のバルロッサだ」
「黒狼騎士団副団長のエストでーす☆」
「副団長補佐のような立場のナァラです……副団長がたいへんご迷惑をおかけしました……」
チャラい。チャラいぞこの副団長。しかも団長は孤高の一匹狼感がある。個性豊かとは思ったけど豊かすぎるでしょこの騎士団。めっちゃ面白いじゃん。
一通り自己紹介を聞いて思った。確かに腕の立つ者を、と頼んだけれど……まさか大公領の誇る三大騎士団の団長と副団長が勢揃いするなんて!
ちらりとイリオーデとアルベルトの方を見てみると、二人共何故かにこやかに微笑み返して来るだけ。まるで、『こいつ等全員殺っていいんですよね?』とでも言いたげな、そんな背筋が凍る笑みだ。