だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
248.ようこそ、ディジェル領へ3
「して、時に王女殿下。此度は何故各騎士団の腕の立つ者をご所望になられたのでしょうか?」
紅の団長さんが疑問を提起する。どうやらセレアード氏から詳しい説明を受けた訳ではないようだ。
「皆様に集まって頂いたのは、恥ずかしながら私《わたくし》の我儘によるものなのです」
「我儘……?」
「はい。実は私《わたくし》も剣を持つ人間でして……でも、この長旅であまり剣を振れず、少し体が鈍ってしまったのです。なので皆様に、私《わたくし》共が感覚を取り戻すお手伝いを頼もうかと思ったのです。身勝手で申し訳ございません」
「そんなとんでもない! かのフォーロイト家の御方と剣を交えるなど、我々臣民にとって光栄の至りでございますとも。その申し出、我が紅獅子騎士団は喜んで受けさせていただきます」
「本当ですか? ありがとうございます」
すると紅の団長さんが蒼の団長さんと黒の団長の方を向いて、「お前達はどうなんだ?」と彼等の答えを引き出してくれた。二人の団長さんは少し間を置いてから小さく頷き、これにて三つの騎士団の団長が手合わせしてくれる事になった。
その後は早かった。とりあえず誰と誰が手合わせをするか……という話になり、人数も丁度いいので私達がそれぞれ一つずつ騎士団のお相手をする事を提案すると、流石に先方はぎょっとしてこちらを見ていた。
まあ、余興のようなものですから! と適当に言いくるめて私達はプチ作戦会議を再度開く。
その結果。私が紅獅子騎士団、イリオーデが黒狼騎士団、アルベルトが蒼鷲騎士団と戦う事に。
そして更に、私達は得物ではない武器で戦う事にした。理由としては、正体を隠すつもりではいるものの……計画実行の際に戦い方などで正体がバレてしまう恐れがあるからだ。
なので各々の得意武器ではなく、慣れない武器で殺さない程度に全力で潰しにかかる。そういう作戦となった。「慣れない武器なら、うっかりやりすぎる事も無いでしょう」というアルベルトの発案だった。
ちなみにそれぞれの武器はこの通り。私が魔法時々短剣(アルベルトから借りた)で、イリオーデはなんと両手剣(アルベルトから借りた)、アルベルトは両手に長剣《ロングソード》の二刀流となった。
私達三名のうち一人が子供、それも王女な事と一人が侍女な事から、彼等は少し躊躇いがちだったが……。
「遠慮なさらないで。やるからには何事も真剣勝負、そうでしょう? この戦いでどれだけ負傷しようとも私《わたくし》は貴方達を一切責めません。寧ろ、それだけ弱い私《わたくし》自身を責めるでしょうから」
にこやかに宣言すると、紅の団長さんがハッとしたように目を丸くし、すぐさま勇ましい騎士団長の顔つきへと変貌した。
さて、最初は私の戦いだ。全部同時にやっては大変な事になる恐れもある。なので私VS紅獅子騎士団、アルベルトVS蒼鷲騎士団、イリオーデVS黒狼騎士団の順番で簡単な手合わせをする……という形に落ち着いた。
レオナードやローズニカさんも見てる事だし、ちょっと張り切っちゃおうかな!
髪をポニーテールに結わえ、私は気合いを入れて眼前の相手を見据えた。
♢♢
闘技場の中でも主賓のみが座る事を許される、一際目立つ観客席にて。レオナードとローズニカは固唾を飲んで闘技場を眺めていた。
「お兄様、どうするんですか? このままだと王女殿下が本当に紅獅子騎士団と戦う事になってしまいますわ!」
「どうする、って言われても……王女殿下がそう決めたのなら俺達にはどうにも出来ないよ」
「あんなにも繊細で儚いお体で、あんな屈強な騎士達の相手をするなんて……っ!」
(どうせこうなるって分かってはいたけど、ローズもあっさりと彼女に一目惚れしたなあ)
レオナードは苦笑し、アミレスに熱視線を送りながらも顔を青くするローズニカの横顔を見つめる。
時は少し遡り、アミレス一行がセレアードの案内で闘技場に向かった後。その場に暫し取り残された二人は、きゃあきゃあと乙女のように騒いでいた。
『お兄様っ! 何ですか、何なのですかあの方は! 本当に私達の理想そのものっ、というか小説の中からそのまま出てきたようなお姫様は!!』
『だから言っただろう、きっとローズも一目惚れするって。本当に俺達の理想と完全に一致するよね……俺も、初めて見た時なんかもう、言葉を完全に失ってただただ見蕩れていたからな』
興奮気味にローズニカはレオナードに詰め寄った。
しかし、レオナードは喜色を隠そうともせずヘラヘラとしている。相当、アミレスにもう一度会えた事が嬉しいようだ。
『目が覚めるような美人とはあの方のような人の事を言うのでしょうね……あの天使のような微笑みが目に焼き付いて離れませんわ!』
『分かる、分かるよ……俺もあの時そうだったから』
『言動の全てが儚くも凛々しく、まさに妖精のお姫様とでも形容すべき可憐で神々しい方でしたわ!』
『うんうん。特にあの透き通るような銀色の髪……月明かりに輝くあの髪が本当に綺麗だったんだ』
『月明かり……ですって……そんなの最強の組み合わせじゃないですか! お兄様ばっかりずるいです羨ましいですぅーっ!』
ポカポカポカ、とローズニカがレオナードにじゃれつく。レオナードは締りのない顔で『いいだろう〜』と自慢するばかり。その様子を見た彼等の侍女は、(またか……)と慣れた光景に顔色一つ変えなかったとか。
そんな感じで見事兄妹揃って理想の人への一目惚れを果たした訳で。二人はこれから始まるアミレスと紅獅子騎士団の戦いに気もそぞろだった。
この兄妹は忘れていた。かの少女がただ儚いだけの少女なのではなく──……氷の血筋の人間である事を。
「では王女殿下、そちらからどうぞ行動して下さいませ」
「あら、いいのかしら? ではお言葉に甘えさせていただくとするわ」
紅獅子騎士団団長、モルスが先攻を譲ると、アミレスはニコリと笑って数歩後退った。
紅の団長さんが疑問を提起する。どうやらセレアード氏から詳しい説明を受けた訳ではないようだ。
「皆様に集まって頂いたのは、恥ずかしながら私《わたくし》の我儘によるものなのです」
「我儘……?」
「はい。実は私《わたくし》も剣を持つ人間でして……でも、この長旅であまり剣を振れず、少し体が鈍ってしまったのです。なので皆様に、私《わたくし》共が感覚を取り戻すお手伝いを頼もうかと思ったのです。身勝手で申し訳ございません」
「そんなとんでもない! かのフォーロイト家の御方と剣を交えるなど、我々臣民にとって光栄の至りでございますとも。その申し出、我が紅獅子騎士団は喜んで受けさせていただきます」
「本当ですか? ありがとうございます」
すると紅の団長さんが蒼の団長さんと黒の団長の方を向いて、「お前達はどうなんだ?」と彼等の答えを引き出してくれた。二人の団長さんは少し間を置いてから小さく頷き、これにて三つの騎士団の団長が手合わせしてくれる事になった。
その後は早かった。とりあえず誰と誰が手合わせをするか……という話になり、人数も丁度いいので私達がそれぞれ一つずつ騎士団のお相手をする事を提案すると、流石に先方はぎょっとしてこちらを見ていた。
まあ、余興のようなものですから! と適当に言いくるめて私達はプチ作戦会議を再度開く。
その結果。私が紅獅子騎士団、イリオーデが黒狼騎士団、アルベルトが蒼鷲騎士団と戦う事に。
そして更に、私達は得物ではない武器で戦う事にした。理由としては、正体を隠すつもりではいるものの……計画実行の際に戦い方などで正体がバレてしまう恐れがあるからだ。
なので各々の得意武器ではなく、慣れない武器で殺さない程度に全力で潰しにかかる。そういう作戦となった。「慣れない武器なら、うっかりやりすぎる事も無いでしょう」というアルベルトの発案だった。
ちなみにそれぞれの武器はこの通り。私が魔法時々短剣(アルベルトから借りた)で、イリオーデはなんと両手剣(アルベルトから借りた)、アルベルトは両手に長剣《ロングソード》の二刀流となった。
私達三名のうち一人が子供、それも王女な事と一人が侍女な事から、彼等は少し躊躇いがちだったが……。
「遠慮なさらないで。やるからには何事も真剣勝負、そうでしょう? この戦いでどれだけ負傷しようとも私《わたくし》は貴方達を一切責めません。寧ろ、それだけ弱い私《わたくし》自身を責めるでしょうから」
にこやかに宣言すると、紅の団長さんがハッとしたように目を丸くし、すぐさま勇ましい騎士団長の顔つきへと変貌した。
さて、最初は私の戦いだ。全部同時にやっては大変な事になる恐れもある。なので私VS紅獅子騎士団、アルベルトVS蒼鷲騎士団、イリオーデVS黒狼騎士団の順番で簡単な手合わせをする……という形に落ち着いた。
レオナードやローズニカさんも見てる事だし、ちょっと張り切っちゃおうかな!
髪をポニーテールに結わえ、私は気合いを入れて眼前の相手を見据えた。
♢♢
闘技場の中でも主賓のみが座る事を許される、一際目立つ観客席にて。レオナードとローズニカは固唾を飲んで闘技場を眺めていた。
「お兄様、どうするんですか? このままだと王女殿下が本当に紅獅子騎士団と戦う事になってしまいますわ!」
「どうする、って言われても……王女殿下がそう決めたのなら俺達にはどうにも出来ないよ」
「あんなにも繊細で儚いお体で、あんな屈強な騎士達の相手をするなんて……っ!」
(どうせこうなるって分かってはいたけど、ローズもあっさりと彼女に一目惚れしたなあ)
レオナードは苦笑し、アミレスに熱視線を送りながらも顔を青くするローズニカの横顔を見つめる。
時は少し遡り、アミレス一行がセレアードの案内で闘技場に向かった後。その場に暫し取り残された二人は、きゃあきゃあと乙女のように騒いでいた。
『お兄様っ! 何ですか、何なのですかあの方は! 本当に私達の理想そのものっ、というか小説の中からそのまま出てきたようなお姫様は!!』
『だから言っただろう、きっとローズも一目惚れするって。本当に俺達の理想と完全に一致するよね……俺も、初めて見た時なんかもう、言葉を完全に失ってただただ見蕩れていたからな』
興奮気味にローズニカはレオナードに詰め寄った。
しかし、レオナードは喜色を隠そうともせずヘラヘラとしている。相当、アミレスにもう一度会えた事が嬉しいようだ。
『目が覚めるような美人とはあの方のような人の事を言うのでしょうね……あの天使のような微笑みが目に焼き付いて離れませんわ!』
『分かる、分かるよ……俺もあの時そうだったから』
『言動の全てが儚くも凛々しく、まさに妖精のお姫様とでも形容すべき可憐で神々しい方でしたわ!』
『うんうん。特にあの透き通るような銀色の髪……月明かりに輝くあの髪が本当に綺麗だったんだ』
『月明かり……ですって……そんなの最強の組み合わせじゃないですか! お兄様ばっかりずるいです羨ましいですぅーっ!』
ポカポカポカ、とローズニカがレオナードにじゃれつく。レオナードは締りのない顔で『いいだろう〜』と自慢するばかり。その様子を見た彼等の侍女は、(またか……)と慣れた光景に顔色一つ変えなかったとか。
そんな感じで見事兄妹揃って理想の人への一目惚れを果たした訳で。二人はこれから始まるアミレスと紅獅子騎士団の戦いに気もそぞろだった。
この兄妹は忘れていた。かの少女がただ儚いだけの少女なのではなく──……氷の血筋の人間である事を。
「では王女殿下、そちらからどうぞ行動して下さいませ」
「あら、いいのかしら? ではお言葉に甘えさせていただくとするわ」
紅獅子騎士団団長、モルスが先攻を譲ると、アミレスはニコリと笑って数歩後退った。