だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「すみません、力加減を間違えて思い切り斬ってしまいました。立てますか?」
「すまない、手を借りさせてもらおう……っと、え? 握れない……?」
「あ、やべっ」
「やべ??」
「あはは〜……お気になさらず。ちょ〜っと待ってて下さいね〜〜!」
モルスが恥ずかしそうにアミレスの手を借りようとするも、まるで水をすくい上げるかのようにその手はどろりと溶けて握る事は出来なかった。
(ええとこれどうやって解除するんだっけな、え〜っと、そうだ! 確か──)
「我が身は現《うつつ》の人なれば!」
独りでにそう宣言すると、放出され辺りを漂っていたアミレスの魔力が再び彼女の元に収束し、器に水を注いだかのように、不透明で不定形だった彼女の半身が元通りの人間らしい肉体に戻る。
(よしよし、これで元通り!)
ふぅ、と肩を撫で下ろすアミレスをモルスはぽかんとしながら眺めていた。
その視線に気づき、彼女は「すみませんもう大丈夫です!」と慌てた様子でモルスに手を貸した。
手を貸すと言っても、アミレスは体力のほとんどを使い果たした状態。なので実質モルスが自力で立ち上がったようなものだ。アミレスの補助はもはや形だけである。
「あの、背中……大丈夫ですか?」
「これぐらい魔獣や魔物の討伐では当たり前ですから問題ありませんよ。寧ろ、折角の王女殿下より与えられた傷が、後二週間もすれば治ってしまうのが惜しいぐらいですとも」
「あら。お上手ですね。そうやっていつも女性を虜にしてるんですか?」
「虜? 何の事です?」
(うっそでしょ、これ天然ものなの……? うちのシャルといい勝負してるわね)
爽やかな笑顔でサラリととんでもない言葉を吐く天然っぷりに、アミレスは恐れ慄いた。
その後治療に向かうと告げたモルスと別れ、疲労困憊でイリオーデ達の元に戻ったアミレスは「勝ったよー」と片手でピースを作っていた。
「お疲れ様です、主君。とても素晴らしい戦いでした。ワタシも、いっそう身が入るというものです」
「そっか、次はルティなのね。想像以上に強かったからきっと楽しめると思うよ。無理はしないよう頑張って来てね」
「はっ、主君の活躍に恥じぬ戦いをして参ります」
アルベルトは侍女服を翻し、アミレスとすれ違うように闘技場に向かっていった。その背を見送るアミレスに、イリオーデが手に持っていた木製水筒を「お飲み下さい」と手渡す。
ありがとうとそれを受け取り、アミレスは並々と入っていたお気に入りの果実水で喉を潤した。
ちなみにこの水筒、この長旅の為だけにわざわざシャンパー商会に頼んで作ってもらった試作品であり、まだ保温保冷機能はないものの飲み物を入れる容器としての役割は十分に果たせている。
実はこれ、アミレスの勝負が終わった際にアルベルトからイリオーデに『これ、主君に渡しておいて』と頼まれていたものなのだ。
アルベルトは次にすぐ勝負があるので、自分で渡している暇がないと、仕方無くイリオーデに任せたらしい。
「お疲れの所、このような疑問をぶつけるのもいかがなものかと思いますが……よろしいでしょうか?」
「どうしたの急に?」
水筒の蓋を閉じながら、アミレスはイリオーデを見上げた。
まるで夜空を丁寧に描き上げたようなその瞳を見つめ、イリオーデはゆっくりと口を開く。
「……先程の、最後の魔法。あれは一体……何だったのかと気になってしまって」
それは誰もが抱く疑問だった。あの時アミレスは完全に姿を消し、突然姿を現した。その間、アミレスの気配や魔力というものが全く感じられなかったのだ。
正確にはそれ自体は感じられたものの……まるで辺り一面に浸透するかのごとく、四方八方から彼女の気配を感じられた。
その為、姿を消したアミレスがどこにいるか、特定不可能だったのである。
「ああ、あれね? どう説明したらいいのかしら……私自身の肉体を魔力で水に変えて、辺りに放出した魔力に染み込ませたの」
「……成程?」
イリオーデの頭をもってしても、少し難解だったようだ。
「えーと……私自身の肉体を強く記憶しておいて、一度全身を魔力で塗り替えるの。魔力で作った体に置き換える感じかな。その上で、前もって私の魔力を辺りに放出しておく事により、魔力で作った肉体を世界そのものに浸透させる事が出来て……まあその、つまり、あの水の剣みたいに自分の体を水で作ったって事よ」
諦めた。説明が難しかったのか、アミレスは説明する事を途中で放棄した。
(私だってよく分からないままこの魔法を使ったんだから、仕方無いよね)
何とも虚しい自己弁護である。
そもそも何故よく分からないまま未知の魔法を使えるのか。その度胸は一体どこから?
(師匠曰く、私の記憶力と、魔力との親和性が成せる技らしいけど……それ以上の事はあんまりよく聞いてなかったのよね。仕事忙しくて)
アミレスは苦笑いと共に肩を窄める。決して笑い事ではない。
「……この頭が馬鹿であるが故に、王女殿下のお言葉を理解する事が出来ず恥じ入る思いです。王女殿下が精霊のように御自身の体を自然と同化させ、一時的に我々に視認出来ぬように成られたという事は分かったのですが…………」
「いやもう九割理解出来てるわよそれ」
申し訳なさそうに口を切ったものの、イリオーデは何故か概要を理解していた。これには思わずアミレスもツッコんだ模様。
二人がこうして話す間にも、アルベルトVS蒼鷲騎士団の戦いは盛り上がりを見せていた──……なんて事はなく、ほとんどアルベルトの独壇場となっていた。
「すまない、手を借りさせてもらおう……っと、え? 握れない……?」
「あ、やべっ」
「やべ??」
「あはは〜……お気になさらず。ちょ〜っと待ってて下さいね〜〜!」
モルスが恥ずかしそうにアミレスの手を借りようとするも、まるで水をすくい上げるかのようにその手はどろりと溶けて握る事は出来なかった。
(ええとこれどうやって解除するんだっけな、え〜っと、そうだ! 確か──)
「我が身は現《うつつ》の人なれば!」
独りでにそう宣言すると、放出され辺りを漂っていたアミレスの魔力が再び彼女の元に収束し、器に水を注いだかのように、不透明で不定形だった彼女の半身が元通りの人間らしい肉体に戻る。
(よしよし、これで元通り!)
ふぅ、と肩を撫で下ろすアミレスをモルスはぽかんとしながら眺めていた。
その視線に気づき、彼女は「すみませんもう大丈夫です!」と慌てた様子でモルスに手を貸した。
手を貸すと言っても、アミレスは体力のほとんどを使い果たした状態。なので実質モルスが自力で立ち上がったようなものだ。アミレスの補助はもはや形だけである。
「あの、背中……大丈夫ですか?」
「これぐらい魔獣や魔物の討伐では当たり前ですから問題ありませんよ。寧ろ、折角の王女殿下より与えられた傷が、後二週間もすれば治ってしまうのが惜しいぐらいですとも」
「あら。お上手ですね。そうやっていつも女性を虜にしてるんですか?」
「虜? 何の事です?」
(うっそでしょ、これ天然ものなの……? うちのシャルといい勝負してるわね)
爽やかな笑顔でサラリととんでもない言葉を吐く天然っぷりに、アミレスは恐れ慄いた。
その後治療に向かうと告げたモルスと別れ、疲労困憊でイリオーデ達の元に戻ったアミレスは「勝ったよー」と片手でピースを作っていた。
「お疲れ様です、主君。とても素晴らしい戦いでした。ワタシも、いっそう身が入るというものです」
「そっか、次はルティなのね。想像以上に強かったからきっと楽しめると思うよ。無理はしないよう頑張って来てね」
「はっ、主君の活躍に恥じぬ戦いをして参ります」
アルベルトは侍女服を翻し、アミレスとすれ違うように闘技場に向かっていった。その背を見送るアミレスに、イリオーデが手に持っていた木製水筒を「お飲み下さい」と手渡す。
ありがとうとそれを受け取り、アミレスは並々と入っていたお気に入りの果実水で喉を潤した。
ちなみにこの水筒、この長旅の為だけにわざわざシャンパー商会に頼んで作ってもらった試作品であり、まだ保温保冷機能はないものの飲み物を入れる容器としての役割は十分に果たせている。
実はこれ、アミレスの勝負が終わった際にアルベルトからイリオーデに『これ、主君に渡しておいて』と頼まれていたものなのだ。
アルベルトは次にすぐ勝負があるので、自分で渡している暇がないと、仕方無くイリオーデに任せたらしい。
「お疲れの所、このような疑問をぶつけるのもいかがなものかと思いますが……よろしいでしょうか?」
「どうしたの急に?」
水筒の蓋を閉じながら、アミレスはイリオーデを見上げた。
まるで夜空を丁寧に描き上げたようなその瞳を見つめ、イリオーデはゆっくりと口を開く。
「……先程の、最後の魔法。あれは一体……何だったのかと気になってしまって」
それは誰もが抱く疑問だった。あの時アミレスは完全に姿を消し、突然姿を現した。その間、アミレスの気配や魔力というものが全く感じられなかったのだ。
正確にはそれ自体は感じられたものの……まるで辺り一面に浸透するかのごとく、四方八方から彼女の気配を感じられた。
その為、姿を消したアミレスがどこにいるか、特定不可能だったのである。
「ああ、あれね? どう説明したらいいのかしら……私自身の肉体を魔力で水に変えて、辺りに放出した魔力に染み込ませたの」
「……成程?」
イリオーデの頭をもってしても、少し難解だったようだ。
「えーと……私自身の肉体を強く記憶しておいて、一度全身を魔力で塗り替えるの。魔力で作った体に置き換える感じかな。その上で、前もって私の魔力を辺りに放出しておく事により、魔力で作った肉体を世界そのものに浸透させる事が出来て……まあその、つまり、あの水の剣みたいに自分の体を水で作ったって事よ」
諦めた。説明が難しかったのか、アミレスは説明する事を途中で放棄した。
(私だってよく分からないままこの魔法を使ったんだから、仕方無いよね)
何とも虚しい自己弁護である。
そもそも何故よく分からないまま未知の魔法を使えるのか。その度胸は一体どこから?
(師匠曰く、私の記憶力と、魔力との親和性が成せる技らしいけど……それ以上の事はあんまりよく聞いてなかったのよね。仕事忙しくて)
アミレスは苦笑いと共に肩を窄める。決して笑い事ではない。
「……この頭が馬鹿であるが故に、王女殿下のお言葉を理解する事が出来ず恥じ入る思いです。王女殿下が精霊のように御自身の体を自然と同化させ、一時的に我々に視認出来ぬように成られたという事は分かったのですが…………」
「いやもう九割理解出来てるわよそれ」
申し訳なさそうに口を切ったものの、イリオーデは何故か概要を理解していた。これには思わずアミレスもツッコんだ模様。
二人がこうして話す間にも、アルベルトVS蒼鷲騎士団の戦いは盛り上がりを見せていた──……なんて事はなく、ほとんどアルベルトの独壇場となっていた。