だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
 二階の入り組んだ廊下の突き当たり。その扉の向こうからしゃがれた叫び声が聞こえて来た。

「それがあの雇いの用心棒共が商品を逃がしたようで!」
「貧民街の乞食共が余計な真似を……ッ」
「いや待ってください、そもそもあの用心棒共には檻の鍵は渡してない筈! 食料の配給は檻の隙間から出来ていた訳だから、ガキ共が脱走出来てるのはやっぱりおかしいっす!!」
「じゃァなんだってんだ!? どうやってあいつ等は脱走したんだ!!」
「それはっ……!」

 私がその会話に聞き耳を立てていると、来た道の方からバタバタといくつもの足音が聞こえて来た。
 急いですぐ側の部屋に身を隠し、扉の隙間を開けて様子を窺っていると、

「ボス! 地下の檻に壊されたような跡はありませんでした!」

 先程地下に続く道の前ですれ違った男達が、檻に関する報告をしに来たらしい。……やはりこの先がここの管理を任されている男の部屋で間違い無さそうだ。
 男達の不可解な報告を聞いて、ボスと呼ばれたしゃがれた声の男は、更に声を荒らげた。

「誰だ鍵持ち出した奴ァ!! こんな不祥事があの豚子爵にバレたら俺まで処罰を受けるだろうがッ、何してくれてんだテメェ等!!!!」

 ドンッ! と机に拳を叩きつけたような音が叫び声と共に聞こえてくる。何とも聞くに堪えない醜悪で無様な本音だった。

「いいかテメェ等、死にたくねぇならさっさとガキ共を一つ残らず回収して来い! さもなくば殺す!!」
「はっ、はいぃ!」
「わかりましたッ」

 男の怒号に追い出されるように、数名の男達が血相変えて部屋を飛び出してきた。そのまま、また同じ道を駆け抜けてゆく。
 こっそり廊下に出て、奥の部屋に近づいてみる。扉は開いたままだったのでそのまま中を覗き見る事が出来た。
 ……部屋はそこまで広くないわね、偉そうな机と椅子に無駄に高級そうな長椅子。その長椅子に怒りを露わにして座っている男が、恐らくここの管理者のボスとやらだろう。

「ふざけんなよどうやって逃げ出しやがったあのクソガキ共……ッ!」
「お、落ち着いてくださいボス。どうせすぐ連れ戻されますから……」
「用心棒共も大した事ないだろうし大丈夫だろうさ、ボス」

 ボスとやらは酒瓶《ボトル》片手に忙しなく貧乏ゆすりをしている……相当ストレスが溜まっているらしい。
 そんな男のご機嫌取りに躍起になる男が二人側にいる。
 一人が酔っていて、二人は油断している……これなら制圧出来るかもしれない。
 緊張と不安で早鐘を打つ心臓を深呼吸をしてなんとか落ち着かせる。そして、私は覚悟を決めて部屋の中へと飛び込んだ。
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