だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「この度は、私《わたくし》の我儘にお付き合い下さり心より感謝申し上げます。我が帝国の盾たる皆様とこうして一戦交えたこの日の事は決して忘れません。とっても楽しかったです、ありがとうございました!」
王女は年相応に笑った。その喜びが本心からのものであると誰も疑いようがない、眩しい笑顔。それは、皇族らしい振る舞いでも、フォーロイトらしい振る舞いでもない……彼女自身の言葉と笑顔だった。
その言葉は、堅物や偏屈や変人揃いの騎士達の心にもあっさりと届いてしまった。このような言葉を贈られたのは初めてなのか、騎士達は一様に黙り込む。
「……王女殿下にそこまで仰っていただけるとは、騎士冥利に尽きるというもの。こちらこそ、王女殿下と剣を交えた事は決して忘れません」
しかしその中で一人。モルスが、つられてはにかみながら返事した。
「一つ、王女殿下にお伺いしたい事があるのですが、構いませんか?」
「別に構いませんよ」
「王女殿下は、一体どのような方から剣を学ばれたのですか? 私の動きも捉えられていた様ですし……気になってしまって」
モルスとしてはやはりこれが疑問だったようで、ド直球にアミレスへとそれを問うた。
どう答えようかとアミレスは顎に手を当てて考える。
(師匠が精霊って事は言えないしなあ……でも人間って言って納得して貰えるような感じでもないでしょう? 私の剣術は師匠直伝のエクストリーム無流派だから…………)
エクストリーム無流派とは。
しかし、どうやらアミレスにも彼女の剣術がただの人間が教えるような内容のものではないという自覚はあるらしい。多分、最近自覚したのだろう。
そもそもアミレスがモルスの動きを捉えられたのはエンヴィーの動きに慣れていたからだ。年を重ねるごとにエンヴィーが無茶で馬鹿げた動きをし、アミレスを翻弄して来たものだから……元々戦闘に関する才能が突出していた彼女が異常な成長を遂げるのも無理はない。
一度エンヴィーの速度に慣れてしまうと、ただの人間の動きなんて大抵は捉えられるようになるというものだ。
ちなみに、マクベスタも近頃はエンヴィーの動きに少しづつ追いつきつつある。マクベスタもまた、天性の才能を持ち合わせていたのだ。
「……あまり詳しい事は話せないの、ごめんなさい。ただ一つ言える事があるとすれば、人間ではない……とだけ」
「人間ではない……成程。道理で見た事の無い剣筋な訳だ。突然質問などして申し訳ございません、王女殿下」
「いいえ、これぐらいは全然構いませんわ。きちんと答えられなくてごめんなさいね」
当たり前のように、ごめんなさいと謝罪の言葉が出るアミレスに騎士達は僅かな違和感を抱いた。
「──王女殿下。私達は国に仕える騎士です。貴女方の臣民です。私達相手に、そのように謝罪の言葉を吐かないで下さいまし」
モルスの忠言に、アミレスは表情を消した。それはこれまでの数年間で幾度となく言われてきた言葉だった。
だがアミレスはこれを正そうとはしなかった。何故か、ここだけは譲ろうとしなかったのだ。
「まぁ、そうよね。皆そう言うわ。皇族らしくしろって……でも、私みたいな人間はこうする事でしか誠意を伝えられないから。だからこれだけはきっとやめられないの──……ごめんね」
年相応の眩い笑顔とは対照的な、機械的な作り物の微笑み。なんて事ないように、全く気にも留めてないとばかりに、アミレスは『ごめんね』と繰り返した。
(…………まただ。また、王女殿下はごめんと口にした。何故、あの皇太子殿下と皇帝陛下の御家族であらせられる王女殿下が……こんなにも、普通の少女に見えてしまうんだ)
モルスは酷い錯覚を覚えた。
当たり前のように謝罪をし、些細な事で喜び笑う。彼女自身が、そんな皇族らしからぬ振る舞いをしているのだから、そう見えてしまってもおかしくはない。
「王女──……っ」
「主君、そろそろセレアード氏との約束の時間です」
「もうそんな時間? お忙しい所にお邪魔してしまい、申し訳なかったわ。では私《わたくし》はこの辺りで」
モルスがもう一度声を掛けようとした時。アルベルトがわざとらしく声を被せて来た。
その手には懐中時計が握られており、この後の予定を告げる言葉だったので、アミレスは即座に王女モードに切り替え、優雅に一礼してバタバタと部屋を後にした。
騎士達の中にはアミレスに対する様々な違和感が残り、それを解消する手立てもないまま取り残される。
が、その時。
「……──これ以上、王女殿下に踏み入るな。あの御方はとても繊細で、我々が容易に触れてはならない存在なのだ」
「……──主君について詮索しようとするのであれば、命は無い」
これまで沈黙を貫いていた二人が去り際に忠告してゆく。
戦闘中よりも遥かに強い殺意と重い気迫に気圧され、騎士達は一切の反応を取る事さえ出来なかった。
「私達、は……とんでもない方々と相見えたようだな」
アミレス達が去ってから少し経って零されたモルスの呟きに、一同は静かに首肯した。
「ねぇ二人共。さっきは騎士団の人達に何て言ってきたの?」
部屋を出て少し歩いてから、アミレスはおもむろにイリオーデ達に質問を投げかけた。
アミレスが先に部屋を出たのだが、その時二人は一度立ち止まって騎士達に何かを告げてから追いかけるように部屋を出て来たのだ。
この質問にイリオーデとアルベルトは一瞬目配せし、
「王女殿下同様、楽しかった……と」
「ご自愛くださいと伝えました」
ニコリと口角を上げて答えた。
勿論嘘である。この二人、ついに主に対して平然と嘘をつくようになった。
「あっ……私が長々と喋ってた所為で二人が挨拶する暇も無かったもんね。ごめん〜!」
「お気になさらないで下さい。あの一言で私は十分ですので」
「ワタシも、これ以上は特に言いたい事も無いので」
「そうなの? ならいいんだけど……」
そうやって、三人は明るく話しながらセレアードとの約束へと向かったのだった。
王女は年相応に笑った。その喜びが本心からのものであると誰も疑いようがない、眩しい笑顔。それは、皇族らしい振る舞いでも、フォーロイトらしい振る舞いでもない……彼女自身の言葉と笑顔だった。
その言葉は、堅物や偏屈や変人揃いの騎士達の心にもあっさりと届いてしまった。このような言葉を贈られたのは初めてなのか、騎士達は一様に黙り込む。
「……王女殿下にそこまで仰っていただけるとは、騎士冥利に尽きるというもの。こちらこそ、王女殿下と剣を交えた事は決して忘れません」
しかしその中で一人。モルスが、つられてはにかみながら返事した。
「一つ、王女殿下にお伺いしたい事があるのですが、構いませんか?」
「別に構いませんよ」
「王女殿下は、一体どのような方から剣を学ばれたのですか? 私の動きも捉えられていた様ですし……気になってしまって」
モルスとしてはやはりこれが疑問だったようで、ド直球にアミレスへとそれを問うた。
どう答えようかとアミレスは顎に手を当てて考える。
(師匠が精霊って事は言えないしなあ……でも人間って言って納得して貰えるような感じでもないでしょう? 私の剣術は師匠直伝のエクストリーム無流派だから…………)
エクストリーム無流派とは。
しかし、どうやらアミレスにも彼女の剣術がただの人間が教えるような内容のものではないという自覚はあるらしい。多分、最近自覚したのだろう。
そもそもアミレスがモルスの動きを捉えられたのはエンヴィーの動きに慣れていたからだ。年を重ねるごとにエンヴィーが無茶で馬鹿げた動きをし、アミレスを翻弄して来たものだから……元々戦闘に関する才能が突出していた彼女が異常な成長を遂げるのも無理はない。
一度エンヴィーの速度に慣れてしまうと、ただの人間の動きなんて大抵は捉えられるようになるというものだ。
ちなみに、マクベスタも近頃はエンヴィーの動きに少しづつ追いつきつつある。マクベスタもまた、天性の才能を持ち合わせていたのだ。
「……あまり詳しい事は話せないの、ごめんなさい。ただ一つ言える事があるとすれば、人間ではない……とだけ」
「人間ではない……成程。道理で見た事の無い剣筋な訳だ。突然質問などして申し訳ございません、王女殿下」
「いいえ、これぐらいは全然構いませんわ。きちんと答えられなくてごめんなさいね」
当たり前のように、ごめんなさいと謝罪の言葉が出るアミレスに騎士達は僅かな違和感を抱いた。
「──王女殿下。私達は国に仕える騎士です。貴女方の臣民です。私達相手に、そのように謝罪の言葉を吐かないで下さいまし」
モルスの忠言に、アミレスは表情を消した。それはこれまでの数年間で幾度となく言われてきた言葉だった。
だがアミレスはこれを正そうとはしなかった。何故か、ここだけは譲ろうとしなかったのだ。
「まぁ、そうよね。皆そう言うわ。皇族らしくしろって……でも、私みたいな人間はこうする事でしか誠意を伝えられないから。だからこれだけはきっとやめられないの──……ごめんね」
年相応の眩い笑顔とは対照的な、機械的な作り物の微笑み。なんて事ないように、全く気にも留めてないとばかりに、アミレスは『ごめんね』と繰り返した。
(…………まただ。また、王女殿下はごめんと口にした。何故、あの皇太子殿下と皇帝陛下の御家族であらせられる王女殿下が……こんなにも、普通の少女に見えてしまうんだ)
モルスは酷い錯覚を覚えた。
当たり前のように謝罪をし、些細な事で喜び笑う。彼女自身が、そんな皇族らしからぬ振る舞いをしているのだから、そう見えてしまってもおかしくはない。
「王女──……っ」
「主君、そろそろセレアード氏との約束の時間です」
「もうそんな時間? お忙しい所にお邪魔してしまい、申し訳なかったわ。では私《わたくし》はこの辺りで」
モルスがもう一度声を掛けようとした時。アルベルトがわざとらしく声を被せて来た。
その手には懐中時計が握られており、この後の予定を告げる言葉だったので、アミレスは即座に王女モードに切り替え、優雅に一礼してバタバタと部屋を後にした。
騎士達の中にはアミレスに対する様々な違和感が残り、それを解消する手立てもないまま取り残される。
が、その時。
「……──これ以上、王女殿下に踏み入るな。あの御方はとても繊細で、我々が容易に触れてはならない存在なのだ」
「……──主君について詮索しようとするのであれば、命は無い」
これまで沈黙を貫いていた二人が去り際に忠告してゆく。
戦闘中よりも遥かに強い殺意と重い気迫に気圧され、騎士達は一切の反応を取る事さえ出来なかった。
「私達、は……とんでもない方々と相見えたようだな」
アミレス達が去ってから少し経って零されたモルスの呟きに、一同は静かに首肯した。
「ねぇ二人共。さっきは騎士団の人達に何て言ってきたの?」
部屋を出て少し歩いてから、アミレスはおもむろにイリオーデ達に質問を投げかけた。
アミレスが先に部屋を出たのだが、その時二人は一度立ち止まって騎士達に何かを告げてから追いかけるように部屋を出て来たのだ。
この質問にイリオーデとアルベルトは一瞬目配せし、
「王女殿下同様、楽しかった……と」
「ご自愛くださいと伝えました」
ニコリと口角を上げて答えた。
勿論嘘である。この二人、ついに主に対して平然と嘘をつくようになった。
「あっ……私が長々と喋ってた所為で二人が挨拶する暇も無かったもんね。ごめん〜!」
「お気になさらないで下さい。あの一言で私は十分ですので」
「ワタシも、これ以上は特に言いたい事も無いので」
「そうなの? ならいいんだけど……」
そうやって、三人は明るく話しながらセレアードとの約束へと向かったのだった。