だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
251.暗躍はお手の物です。
大公領に到着した日の夜は、特産品などを用いたご当地グルメのご馳走を振舞っていただき、実に楽しい晩餐となった。
どうやらフォーロイト家が大した護衛もつけずに大公領に来る事は別に珍しい事ではないようで(私の場合は王女だから、あんなにも口うるさく言われたのだろう)、私の連れが二人だけな事にもテンディジェル家の方々は理解を示してくれた。
というか、あの真剣勝負を見てもう、こりゃ確かに三人だけで大丈夫だな! と思ってくれたらしいのだ。何かやってる事が旅に出る前と同じ気もするんだけど……やはり力が全てを解決するのね。
現大公や、セレアード氏の奥さん──つまり、此度の内乱の原因の一つでありレオナードの母親である人とも挨拶した。
本当にいい人そうだった。セレアード氏も奥さんを心から愛しているようだったし…………彼等二人を取り巻く環境が少しでも違えば、きっとこれからも末永く幸せに暮らせるんだろうな。そう、思ってしまった。
だがゲームではそれが叶わず、内乱が発生した。彼等がどれだけ愛し合っていても。この地は、人々はそれを許せなかったんだ。
本当にやるせないったらありゃしない。
だからこそ私達でこれから起こる最悪の結末を食い止め、彼女等に幸せを届けるんだ。
「……──ルティ、イリオーデ。疲れてるだろうけどここからが本番よ」
月と夜空は暗雲に覆われ、外は吹雪に見舞われる。
暖炉の火が弾ける音が心地よい、静かな夜の部屋にて。
イリオーデとアルベルトを呼び出して計画始動の合図を告げる。これから二人にも、勿論私にもやる事があるのだ。
わざわざ着替えて呼び出しに応じてくれたアルベルトに、まずは指示を出す。
「ルティは打ち合わせ通り、例の地点でスコーピオンと合流して情報を共有してきて。スコーピオンの顔は割れてるわよね?」
「は、頭目のヘブン含め百名近い構成員全ての顔と名は頭に入っております」
「よし。それじゃあ今から頼むわ。合言葉は『鏡よ鏡、世界で一番悪辣なのは誰?』よ」
ちなみにこの合言葉はカイル発案だ。この後にヘブン側の『それはお前だよ』みたいな言葉が続く予定の、謎の合言葉。
「委細承知。帰還と報告は何時頃を目安にすればよろしいでしょうか?」
「そうね……私も作業があるから今日は遅くまで起きておくつもりだし、二時頃までには戻って来てちょうだい」
「畏まりました」
深く背を曲げて、いつもの執事服に身を包むアルベルトはどぷんっと影の中に飛び込んで消えた。
さて次は、とイリオーデの方を向き彼にも指示を出す。
「イリオーデは今から城内を偵察してきてちょうだい。各時間帯における兵の配置とかを、夜間勤務の兵士からそれとなく聞いて割り出してほしいの。多分、私が気にしているとか言えば怪しまれずに聞き出せると思うし……原因を追及されても、はぐらかせると思うわ。もしもの時は差し入れと偽って泥酔させてやればいいわ」
これはランディグランジュの名を持つイリオーデの方が怪しまれないと踏んだので、彼に頼む事としたのだ。
こくりと頷いてまず一つ目の命令を理解した彼に、立て続けで申し訳無いがもう一つ命じる。
「後は……そうね、兵の配置を調べるついでに城壁を見てきてくれる? 内乱でどうあの防壁を突破するのか、疑問が残るから。もしかしたら城主でさえも知らない抜け道とかがあるのかもしれない。だからその有無を確かめてくれると助かるわ。これについては内乱発生前までに分かればいいから」
「承知致しました。ランディグランジュの名を使ってでも成し遂げてみせます」
「それは心強いわ。でも、あくまでも無理はしないでね」
「お心遣い痛み入ります」
そう言って頭を小さく下げた後、イリオーデは口をもごもごとさせていた。
それに「どうかしたの?」と反応すると。
「王女殿下はこの部屋におられるのですね?」
「え?」
「私も、ルティもお傍を離れるので……少し心配で」
ああその事ね。
「この後は少し作業をしてから寝るつもりよ」
「そうですか、ならば安心です。もし何かあればすぐお呼び下さいませ」
そう言って、イリオーデはこの吹雪の中わざわざバルコニー伝いに自室へと戻って行った。間違ってもこんな時間に私の部屋に出入りする姿を見られたくないらしい。
どうやらフォーロイト家が大した護衛もつけずに大公領に来る事は別に珍しい事ではないようで(私の場合は王女だから、あんなにも口うるさく言われたのだろう)、私の連れが二人だけな事にもテンディジェル家の方々は理解を示してくれた。
というか、あの真剣勝負を見てもう、こりゃ確かに三人だけで大丈夫だな! と思ってくれたらしいのだ。何かやってる事が旅に出る前と同じ気もするんだけど……やはり力が全てを解決するのね。
現大公や、セレアード氏の奥さん──つまり、此度の内乱の原因の一つでありレオナードの母親である人とも挨拶した。
本当にいい人そうだった。セレアード氏も奥さんを心から愛しているようだったし…………彼等二人を取り巻く環境が少しでも違えば、きっとこれからも末永く幸せに暮らせるんだろうな。そう、思ってしまった。
だがゲームではそれが叶わず、内乱が発生した。彼等がどれだけ愛し合っていても。この地は、人々はそれを許せなかったんだ。
本当にやるせないったらありゃしない。
だからこそ私達でこれから起こる最悪の結末を食い止め、彼女等に幸せを届けるんだ。
「……──ルティ、イリオーデ。疲れてるだろうけどここからが本番よ」
月と夜空は暗雲に覆われ、外は吹雪に見舞われる。
暖炉の火が弾ける音が心地よい、静かな夜の部屋にて。
イリオーデとアルベルトを呼び出して計画始動の合図を告げる。これから二人にも、勿論私にもやる事があるのだ。
わざわざ着替えて呼び出しに応じてくれたアルベルトに、まずは指示を出す。
「ルティは打ち合わせ通り、例の地点でスコーピオンと合流して情報を共有してきて。スコーピオンの顔は割れてるわよね?」
「は、頭目のヘブン含め百名近い構成員全ての顔と名は頭に入っております」
「よし。それじゃあ今から頼むわ。合言葉は『鏡よ鏡、世界で一番悪辣なのは誰?』よ」
ちなみにこの合言葉はカイル発案だ。この後にヘブン側の『それはお前だよ』みたいな言葉が続く予定の、謎の合言葉。
「委細承知。帰還と報告は何時頃を目安にすればよろしいでしょうか?」
「そうね……私も作業があるから今日は遅くまで起きておくつもりだし、二時頃までには戻って来てちょうだい」
「畏まりました」
深く背を曲げて、いつもの執事服に身を包むアルベルトはどぷんっと影の中に飛び込んで消えた。
さて次は、とイリオーデの方を向き彼にも指示を出す。
「イリオーデは今から城内を偵察してきてちょうだい。各時間帯における兵の配置とかを、夜間勤務の兵士からそれとなく聞いて割り出してほしいの。多分、私が気にしているとか言えば怪しまれずに聞き出せると思うし……原因を追及されても、はぐらかせると思うわ。もしもの時は差し入れと偽って泥酔させてやればいいわ」
これはランディグランジュの名を持つイリオーデの方が怪しまれないと踏んだので、彼に頼む事としたのだ。
こくりと頷いてまず一つ目の命令を理解した彼に、立て続けで申し訳無いがもう一つ命じる。
「後は……そうね、兵の配置を調べるついでに城壁を見てきてくれる? 内乱でどうあの防壁を突破するのか、疑問が残るから。もしかしたら城主でさえも知らない抜け道とかがあるのかもしれない。だからその有無を確かめてくれると助かるわ。これについては内乱発生前までに分かればいいから」
「承知致しました。ランディグランジュの名を使ってでも成し遂げてみせます」
「それは心強いわ。でも、あくまでも無理はしないでね」
「お心遣い痛み入ります」
そう言って頭を小さく下げた後、イリオーデは口をもごもごとさせていた。
それに「どうかしたの?」と反応すると。
「王女殿下はこの部屋におられるのですね?」
「え?」
「私も、ルティもお傍を離れるので……少し心配で」
ああその事ね。
「この後は少し作業をしてから寝るつもりよ」
「そうですか、ならば安心です。もし何かあればすぐお呼び下さいませ」
そう言って、イリオーデはこの吹雪の中わざわざバルコニー伝いに自室へと戻って行った。間違ってもこんな時間に私の部屋に出入りする姿を見られたくないらしい。