だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
 さてそれじゃあ作業をしようと、鞄から書類を取り出して机の上に並べ作業に取り掛かった。それに少し時間を取られたが、まだアルベルトに伝えた二時までは時間がある。
 ふむ……どうしたものか。既に寝る気満々で着替えていたけど、このまま別の作業にも着手しよう。
 元々私は、いついかなる襲撃があろうと対応出来るよう、寝巻き(ネグリジェ)らしい寝巻き(ネグリジェ)を着ないタイプだった。
 だってあれ動きずらいもの。そんな私が出先の泊まりで着ているのは膝にかかる大きさの、ワンピースみたいな大きいシャツ。その下には素足を隠す為のニーソックス。

 基本誰の目も無いから、着替えるのを完全にサボっているだけである。
 ニーソックスの上にお気に入りのズボンを履き、ヒールブーツを履いて、厚手のローブを羽織っては魔石灯《ランタン》片手に城内を散策する。
 これの目的そのものは城内構造の把握だ。ちなみに、こんな事をしている姿を誰かに見られても『中々寝付けなくて……』と言い訳するつもりでいる。
 マッピング等は見られたら流石に怪しまれるので、それはまた後でやるつもりだ。なのでここからは完全に記憶力勝負となる。

 薄暗く寒い廊下を一人で歩く。
 私がしなくてはならない事は今から五日以内にこの城内を具体的な構造を全て把握し、地図に起こす事。それを計画で城内に入るメンバーに共有し、少しでも計画失敗の可能性を減らす事だ。
 地図を書く事自体は数年前にも一度やったし、あれから色々と勉強し知識をつけたからあの時よりもっと効率的にきちんとした、この世界のやり方での地図が書ける事だろう。
 ちなみにこの事自体はイリオーデ達も知っているが、どうやら昼間にやると思われていたようだ。昼間には別にやる事があるのだから、夜にやるのは当然だよね。

 人間意外と睡眠時間短くても問題無いからね!
 実は私、この領主の城──ティニア城の建築様式を知っている。
 何故ならハイラの授業で聞いたからだ。ハイラは本当に凄い。当時は『何でこんな事まで……?』と眉を顰めていたのだが、まさか数年後に役に立つなんて。
 先見の明がありすぎるわよ、本当に。
 そんなこんなでこの建築様式ならではの構造もある程度は分かるので、細かい部屋の内訳とか隠し通路等の捜索をする事がこの散策の主な目的となる。
 そして最後にそれらを地図に起こすと。うむ、責任重大だ。

「ここ不自然ね。この系統の建築だと、この辺に大きな柱がある筈なんだけど……不自然に壁が広がってるわ」

 暫く散策していると、明らかに不自然な場所があった。
 この手の建築ならこの辺に大きな柱がある筈なのだが、何故かここには無い。少なくとも、ここまでは等間隔にあった柱がここには無いのだ。
 そういうものなのだと言われてしまえばそれまでなんだけど、気になる。非っ常〜〜〜に気になる。

「セオリー通りなら、こういう所には隠し通路とか秘密の部屋があるんだけど」

 独り言を呟きながら目の前の壁をまさぐってみると、

「あっ」

 ガコン! と音を立てて壁が動く。押し扉となって、中の隠し通路への道が開かれた。
 マジかよ。ほんとにあるじゃん、隠し通路。
 えーどうしようー……と悩むも、この壁、どう考えても中からしか閉じられないのでは? と気づいて軽く絶望する。
 このままにしておいたら明日の朝確実に大騒ぎになるわよね。好奇心は猫をも殺すと言うけれど、まさか大公領到着当日の夜に隠し通路を発見して、探索せざるを得なくなるなんて。

「まぁ……なるようになれ、よね」

 私は案外、あっさりと覚悟を決めた。何事も為せば成るし、なるようになるのだ。
 何よりオセロマイト王国の地下大洞窟に単身乗り込んだ経験からすると、多分この隠し通路は大丈夫だ。少なくともあの大洞窟よりかは幾分もマシだ。
 一度深くため息をついて、隠し通路へと足を踏み入れた。
 内側から扉を押して、壁を元通りにしてから隠し通路を進む。当然だが人の気配など欠片もなく、寒い風に晒され肌寒さを覚える。

 隠し通路は序盤から下りの階段になっていて、魔石灯《ランタン》の揺れる音と足音が狭い空間の中に響く。
 階段を下れば下る程、肌寒さは加速する。もしかしたらここは、外に繋がっている隠し通路なのかもしれない。
 もし本当に外に繋がっていたらどうしましょう。今の私、どう考えても吹雪の中で活動出来るような格好ではないのだけど。
 かと言ってもう後戻りはできないし。前門の虎後門の狼とはこの事を言うのね。
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