だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

258.鈍色の歌姫2

「……──私達テンディジェルの人間は、代々音の魔力を持って生まれる。私はその魔力が家族と比べて強くて、私自身が昔から歌う事が好きでよく歌ってたの」

 長い沈黙を終わらせて、ローズはぽつりぽつりと語り始めた。

「私が歌ったらね、お兄様もお母様もお父様も伯父様も皆が喜んでくれた。私の歌は聞いた人に強く作用するらしくて、明るい歌を歌えば皆が明るくなるし、暗い歌を歌えば皆が暗くなっちゃうの」

 私は少し驚いたが、黙って頷く事で相槌を打った。
 音の魔力そのものが珍しいし、私は当然それに明るくないのだが……音の魔力とはそんな事も出来るのかと感心する。

「私が元気になる歌を歌えば、皆が元気になった。歌えば歌う程皆に受け入れてもらえるから、私はたくさん歌った。私が歌って、ただ元気になるだけなら良かったけど……その歌がね、ある程度の怪我や病気を治してしまったの」
「歌が怪我や病気を治す?」

 思わず聞き返してしまった。音の魔力の予想外な力に驚愕を隠せない。
 私の言葉に首肯して、ローズは続ける。

「その時私はまだ七歳とかで、何にも知らなかったの。でもそれはきっといい事なんだって思って、たくさんたくさん歌った。喉が枯れるまで、皆に元気になって欲しくてたくさん歌った」

 そう語る彼女の顔には、街で見たぎこちない笑みがあった。

「最初はね、歌う事が楽しくて大好きだったんだ。でも今は、もう…………私が始めた事なのに、歌う事が辛いの。皆は私が歌えば治るからって、多少の怪我は気にしないようになっちゃった。それが当たり前になっちゃった。最近はね、多少どころじゃない重症状態で私の所に来る人までいるの」
「…………まさか」

 嫌な予感に限って、決まって的中してしまうらしい。

「私の歌にはあくまでも少しの怪我を治す力しかないのに、皆は『ローズニカ様なら治せますよね?』って純粋な期待を向けてくるの。当然のように向けられる期待や重圧が本当につらくて…………頑張って歌っても治せなかった時、『何で治せないんですか?』って言われてから……もう、歌う事が怖くなったの。歌いたくても歌えなくなった。それで、街の人達に迷惑かけちゃってるんだぁ」

 街の人達から言われてたのはこの事だよ、とローズは困り顔で不器用に笑う。
 ……歌う事が好きだったのに、領民からの期待がどんどん激化し、ついにはプレッシャーから歌えなくなった。という事なのだろう。
 何と腹立たしい話なのか。堪忍袋の緒が切れるとはこの事を言うのかと思うような、突然燃え盛る怒り。ローズの厚意を当然のものと決めつけて、ローズを傷つけるなんて最低じゃないか。

 内乱を起こす程、伝統と格式を重んじる大公領の領民達。その尊厳を踏みにじりたくないと思っていたが…………ローズからの厚意を履き違え彼女をこんなにも追い詰めた奴等に、そんな温情を与えてやる必要があるのか?
 私は友達と仲間は大事にする主義だ。始まりは彼女自身の行動だったとしても、幼く純粋な彼女を利用し追い詰めた人達にはそれ相応の制裁を与えねば気が済まない。

「……最近は歌ってないんだよね。どうやって歌う事を回避してるの?」
「お兄様が、『ローズは最近喉を痛めたから暫く歌えない』って言ってくれたから、暫くは大丈夫なの。でもこの言い訳もいつまで続けられるか分からなくて」
「公子は貴女の味方なのね。良かったわ、安心した」

 妹大好きなレオナードのファインプレーで、ローズはひとまず事無きを得ているようだ。
 彼女は歌えないと言っているのに、領民は自分勝手にローズに歌えと迫った。それがどれだけローズを追い詰めていると知らないで。
 もしかしたらゲーム本編前にローズが死んでしまった理由に、この領民との軋轢も関わっているのやもしれない。内乱が起きて、ただそれに巻き込まれただけでなく、彼女は戦いの最中で歌う事を強要されて。とかだったらどうしよう。

 ……本格的に、カイルの考えた作戦で行く必要がありそうね。ローズもレオナードも救う為にはやっぱりあの作戦で行くしかないわ。
 出会って数日の相手に肩入れし過ぎだとか言われるかもしれない。でも、過ごした時間とか関係無いのよ。
 彼女は間違いなく私の友達だし、私は友達が大好きだ。友達という存在は絶対に守ると決めてるから。
 だから、こんなにも彼女の笑顔を曇らせた奴等を許せない。勝手に首突っ込んででも一矢報いてやらないと気が済まない。

「ねぇ、ローズ。私と一緒に帝都に行かない?」
「……え?」

 突然の提案に、彼女は目を丸くした。
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