だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
 だから全て断って来たが、しかし領民は強気で肉食、積極的な人が多い。歌う時以外はほとんど城から出ない私とは違い、伯父様の手伝いで出掛ける時が多いお兄様は度々領民の女性に既成事実目当てで襲われた。
 いくらお兄様がかっこいいからってほんっと嫌になっちゃう! 結婚は愛する人とするものなのに、そんな既成事実で無理やり縛るようなやり方を取るなんて!
 そう思っては、だからうちの領民は野蛮だって言われるのよ。と性根の悪い私は心の中でボヤいていた。何だか凄く話が逸れてしまったけど、とにかくうちの領民は本当に面食いで手が早い。

 初日の戦い以降、とにかく注目の的な王女殿下達。流石の領民も王女殿下相手に間違いを起こすつもりはないみたいなんだけど、その侍女と護衛騎士は違った。
 領民の男性達は黒髪美人の侍女の方に、領民の女性達は端正な顔立ちの護衛騎士に、それぞれ熱い視線を向けるようになっていた。
 普通の男性なら、あんなにも分かりやすい好意を向けられると鼻の下を伸ばす事だろう。しかし護衛騎士の方はあれだけの黄色い歓声と熱視線を全て無視。
 妖精の祝福の影響か整った顔立ちの人が多い領民達には目もくれず、護衛騎士の方はずっと王女殿下を見ていた。

 あれは黒だ。真っ黒だ。私の乙女心がそう言っている。どう考えてもあの護衛騎士の方は王女殿下以外に興味が無い。つまり──お兄様の恋敵《ライバル》だ!
 気難しそうな侍女の方も護衛騎士の方同様、ずっと王女殿下の事だけを気にしていたようだった。ただこちらは、領民の男性達から近寄られたりした時には殺意を隠そうともせず、鋭く『こっち見るなクソ共が』と言わんばかりの睨みをきかせ、雄々しい領民達を一瞬で黙らせていた。
 何かあったの? と王女殿下が侍女の方に尋ねると、侍女の方は何事も無かったようにニコリと微笑み「虫けらが湧いておりまして……」と返事した。
 怖い。そしてこちらも確実に真っ黒だ。私の乙女心がそう言っている。つまりこの方も──お兄様の恋敵《ライバル》だ!

 困ったものだ。お兄様はとっても魅力的でかっこいいのだけど、恋敵が強大だ。果たしてお兄様が彼等を超える事が出来るのか……と思い悩んでいる時。
 そんな考えは否応なしに一気に吹き飛ばされた。

「ローズニカ様! 次はいつ頃にお歌を聞かせてくださるのですか?」
「ローズニカ様ー! 可愛いー!」
「また歌を聞かせてください!」
「我等が歌姫、ローズニカ様!」

 高齢な方々や幼い子供。王女殿下達に色目を使わない人達が、私の姿を見てわぁっ、と湧き上がるような期待を込めた目でこちらを見てくる。
 やめて、そんな目で私を見ないで。期待なんてしないで、私を信じないで!
 もう無理なの、もう嫌なの。私は皆の期待に応えられない。皆の信頼に応えられないの。
 だからお願い、そんな風に歌姫《わたし》を呼ばないで──。

 その後、私はどうにも上手く喋る事が出来ず、王女殿下のお相手はお兄様に任せてずっと黙り込んでいた。午後は天気が荒れるからと早めに城に戻り、王女殿下とお別れしてすぐに自室に向かい、ベッドに倒れ込んだ。
 ……さいあくだなぁ。王女殿下の前であんな惨めな姿を見せちゃった。私の所為でお兄様への心象も悪くなっちゃったらどうしよう。お兄様の足を引っ張ってしまったらどうしよう。
 そんな情けない後悔を繰り返していると、

「ローズニカ様、お客様が……」
「お客様?」

 侍女が来客を報せた。ゆっくりと体を起こしながら誰が来たのかと聞き返すと。

「王女殿下が、ローズニカ様に用事があると」

 侍女が思いもよらない名前を挙げた。
 何で、どうして王女殿下が私の部屋に!?
 その瞬間私は飛び起きて、侍女と共に大慌てで準備を始めた。ベッドでごろごろしていたから私の髪はボサボサで、ドレスも皺になっている。
 ドレスを着替え、時間が無いので簡単に身嗜みを整えて深呼吸をする。私はドキドキと鼓動するそれを何とか落ち着かせながら扉を開き、王女殿下を部屋に招き入れた。

「まさか、こんな風に王女殿下と二人きりでお話しできるなんて思いもしませんでした。夢のようです」

 向かいに座る王女殿下を前に、夢心地だと心境をこぼす。すると王女殿下はとても柔らかく微笑んで、

「私《わたくし》も、公女とお話しできて嬉しいですわ」

 また胸がきゅんっと高鳴る言葉を私にくれた。
 ここで私はささやかな願望を抱いた。王女殿下に、名前で呼んで欲しい。今みたいな他人行儀な感じではなく、もっと親しく接してほしいと。

「……あの、王女殿下。私は王女殿下よりも身分が低いので、どうか侍女の方にしているように接して下さい。私は……王女殿下に畏まられるような人間でもないので」
「うーん……分かりました。じゃなくて、分かったわ。その代わり、公女も私には敬語をやめて下さいね?」
「えっ! そ、そんな。私、普段から家族にも敬語なんですよぅ……?」

 予想外の言葉に、私はおろおろとしてしまった。
 まさか王女殿下から敬語をやめろと言われるなんて……王女殿下からの申し出だからちゃんとお受けした方がいいのかな。
 うぅ、どうしたらいいの……?
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