だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

261.私は理想に恋をした。

「私だって同じです。ああそうだ、この際折角なんですから友達になりましょう、友達! 恥ずかしながら、こんな身分で対等な女友達というものがいなくて。憧れてたんです、対等な女友達というものに」
「とっ…………友達ですか……!?」

 お友達! 王女殿下と!! そう気分が高揚するのも束の間、そんなの畏れ多いと私は戸惑う。

「で、でも……お相手は王女殿下ですし……」

 王女殿下のお友達になりたい私と、そんなの半端者には畏れ多いとお断りしたい私がせめぎ合う中、私がボソリと呟くと。

「私は確かに王女ですけれど、同時に公女は歳上でしょう? つまりプラマイゼロですわ!」
「プラマイゼロ……」

 王女殿下の小さく桃色に彩られる口元から、予想だにしなかった言葉が出てきた。偏見でしかないのだけど、プラマイゼロなんて言葉、大雑把な人しか使わないと思っていた。
 実は私が思っていたより、プラマイゼロという言葉は格式高い言葉だったのかもしれない。
 なんて少し考え事をしていると、

「……こんなふざけた事を言ってでも、貴女と友達になりたかったのです。駄目、ですか?」

 王女殿下は上目遣いで小首を傾げた。
 かっっ、かわぃぃい〜〜〜〜〜〜〜〜!!
 何これ、なにこれぇ! 王女殿下、こんなに可愛いのにいつもはあんなにかっこよくて綺麗なんてずるいよ! 完璧だよ最強だよ!!
 いわゆる『萌え』というものへの胸の高鳴り。この時、王女殿下が凄く可愛くて、その可愛さのあまり声にならない黄色い叫び声が出そうになった。

「〜〜〜〜っ! は、はぃっ! 喜んで!!」

 心臓があまりにも強く鼓動するものだから、私はほとんど何も考えずに答えてしまった。すると王女殿下はホッとしたように胸を撫で下ろして、

「ふふっ、そう言ってくれて嬉しいわ。私の事は是非とも名前で呼んでちょうだいね?」

 ニコリと笑窪を作っていた。
 ……………………なまえ? 名前って、王女殿下の、お名前? それを私が……私が!?
 ギョッと王女殿下を見ると、期待に満ちたキラキラとした目で私を見つめてくる。でもどうしてか、この期待は不快ではない。

「あ、ああ……アミレス、様」

 悩んだ末に何とかそのお名前を口にする。しかし、

「友達に様なんてつけるの?」

 王女殿下は少し拗ねたように頬を膨らませた。
 仕草の一つ一つが尊い……王女殿下が尊いわ!

「うぅ……アミレス、さん」
「他人行儀じゃない?」

 まだ駄目なの?! で、でもこれ以上の呼び方なんてそんな…………。

「アミレス、ちゃん」

 呼び捨てなんて言語道断。ならばもうこれしかないと、緊張からドキドキする。
 すると王女殿下──……アミレスちゃんは嬉しそうに笑った。

「じゃあそれでこれからはよろしくね、公女……って友達なのに公女って呼ぶのはおかしいわ、何とお呼びしたらいいかしら?」

 これはもしや私の事を名前で呼んでもらうチャンス! アミレスちゃんは私の事もお兄様の事も、公女や公子と呼ぶ。
 せっかく光栄にも友達にならせてもらったんだもの、ここは勇気を出して名前で呼んで下さいと──、愛称で呼んでほしいと伝えるんだ!

「それなら、あの。ローズって呼んでほしいです」

 きゃー! 言っちゃった!

「公子が貴女の事をそう呼んでたわね。いいの? 私もそう呼んでしまって」
「はい! 寧ろそう呼んでほしいです!」
「分かったわ、ローズって呼ばせてもらうね。これから友達として仲良くしましょう、ローズ!」
「……っ! はい……じゃあなかった、うん! よろしくね、アミレスちゃん」

 アミレスちゃんにローズって呼んでもらえた。
 今まで家族にしか呼ばれた事のなかった愛称……友達なんて全然いなくて、呼んでもらいたいと思う相手もいなかったから、家族以外にこう呼ばれたのは初めてだ。
 ああ……嬉しいなぁ。心がポカポカとする。好きな人に名前を呼んでもらえるのって、こんなにも嬉しいんだなぁ。
 これまでたくさんの物語を読んで来たけれど、物語に書いてあった通りだ。好きな人に微笑みかけられたり、名前を呼んでもらえたり……そんな些細な事が全て愛おしくて。
 一目惚れで始まったこの初恋は一生モノの宝物になる。
 そんな、漠然とした確信があった。
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