だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

263.鈍色の天才

 ローズと一日中レッスンに励んだ大公領生活四日目。
 やはりその道のスペシャリストらしく、ローズのレッスン時の熱量は凄まじかった。
 姿勢から指導が入り、恋人かのような体の密着具合で彼女は手取り足取り教えてくれた。体が密着する度に鼻をくすぐる香水の香りや、柔らかなローズの体温に、私は女でありながらノックアウトされてしまいそうだった。
 そんな誘惑にも耐えながらのレッスン……一日中歌うなんて人生初なので、少し喉がガラガラになってしまった。

 勿論、無理のない範囲でのレッスンだったので、適宜休憩として喉にいいハーブティーを飲んだり、昼食ではスタミナ系のガッツリした料理を食べた。
 昼食が終わったら、レオナードに呼び止められた。しかしローズが、「アミレスちゃんは私と先約があるんですぅー!」と私の腕に彼女の細腕を絡ませてレオナードに宣言していた。
 ぽかんとし、こちらに手を伸ばしたままその場で固まるレオナードを尻目にローズは、「行こう、アミレスちゃんっ」と私の腕を引っ張って歩き出した。その横顔がとても明るくて、この兄妹実はそんなに仲良くないの……? とちょっと不安になってしまった。

 ちなみに、ローズのアミレスちゃん呼びには昨夜の夕食時その場にいた人全員が驚いていた。
 誰もが固唾を呑んで様々な視線をローズに向けたものだから、「私がローズにお願いしたんです」と言うや否や、私が彼女を愛称で呼んだ事にもテンディジェル一家は目が飛び出そうな程たまげていた。
 急に仲良くなった私達。それに一番驚いていたのはレオナードだった。

 腕を組んで仲良く歩く私達を羨ましそうに見て来た彼に、妹さんを取っちゃってごめんね……と申し訳無い思いになった。やめないけど。対等な女友達と過ごす時間が楽しくって!
 シスコンのレオナードには悪いけれど、大公領にいる間はローズを貸してちょうだいね! ……なんて、シスコン相手に酷な事を考えていたからだろうか。

「王女殿下。このような夜中にどうされましたか?」

 夜中に気分転換がてら城内を散歩していると、レオナードとエンカウントしてしまった。
 これまでの四日間で城内の地図はあらかた完成し、イリオーデも欲しかった情報を手に入れてくれたので、アルベルトに頼んでそれらをまとめてスコーピオン達に共有してもらった。

 だから後は内乱発生と計画始動を待つのみ。それまではローズを内乱で守り、レオナードを内乱にどう巻き込むかを考えよう……と、今日はのんびり考えながら散歩していたのだ。
 そしたらまさかのレオナード本人と遭遇。嘘をつくのもなんだかなぁと思い、

「眠れなくて、ちょっと散歩してましたの。公子はどうされたんですか?」

 正直に答えてレオナードに質問返しをする。

「俺も似たようなものです。でもまさか、王女殿下にお会い出来るなんて思ってなかったので、嬉しいです」

 レオナードはローズとそっくりな柔らかい微笑みを作った。……意外ね、シスコンの彼からローズを奪ってしまったのに、案外好意的な態度だ。
 せっかくこんな夜中に会ったんですから、立ち話もなんですし……と自然に談話室のような場所に向かい、レオナードが用意してくれたホットミルクを手に暖炉に当たりながら談笑する。

 レオナードの話は大体ローズの事だった。ここ二日間やけにローズと仲が良くないかとか、ローズと何してるんだとか…………ほらね! やっぱり気になってるんじゃないのこのシスコンめっ!
 シスコンがちゃんとシスコンらしい事を聞いて来たので、何故かテンションが上がる私。
 しかし歌のレッスンだって事は絶対に言えない。だって恥ずかしいし。ならばどう話したものかと悩んだ末、私はおもむろに人差し指を立てて口元に当てて、

「ひ、み、つ、です♡」

 恥じらいつつも色っぽい感じにはぐらかしてみた。
 こうも思い切り秘密だと言われてしまえば、流石に追及しづらいのだろう。彼もそれ以上は何も言わなかった。
 眠くなるまで、と決めて何気ない話を続ける。三十分ほど経った頃だろうか、レオナードが深刻な面持ちで「……相談したい事があるんですが」と切り出した。

「ローズから、王女殿下に相談したら悩みが少し解決したって聞いて……つまらなくて、長い話ですけど大丈夫ですか?」
「勿論大丈夫ですよ。力になれるかは分かりませんが、愚痴の聞き役ぐらいにはなれるかと」
「ありがとうございます」

 ぺこりと一度頭を下げてから、レオナードは顔を上げて話し始めた。
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