だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「実は……俺は本来、公子だなんて呼ばれていい立場の人間じゃないんです。俺はディジェル領の人間としては不出来な人間…………血筋だけの人間、それが俺でして」
おやおやおや? 何か急にかなり重い話が始まったぞ。
「ディジェル領の人間が妖精の祝福で強靭な肉体を持つ事はご存知ですよね」
「えぇ。実際に戦って、それは実感しました」
「この領地に生まれてくる人間は妖精の祝福で、強靭な肉体を持って生まれるのです。ですが……俺は違っていて」
違うって……何が? と私が小首を傾げていると、レオナードが袖を捲りながらスっと立ち上がり、暖炉の横に立て掛けてあった火かき棒で自分の腕を思い切り叩いた。
「なっ……! 何をしてるんですか公子!?」
「大丈夫ですよ、ただの打撲です。それにこれぐらいの怪我、ディジェル領の人間ならすぐ治りますから」
にこやかに語るレオナード。確かにここに来た初日、私達三人でかなりボコボコにした騎士団の面々も、ほんの数日で八割方回復していたようだった。
昨日、城内で大公との会議が終わった直後らしい騎士団長三名とたまたま鉢合わせたのだが……数日前までボロボロだったのに、今やピンピンしていた。
これにはイリオーデやアルベルトも驚いていた。本当に大公領の人間は自然治癒力が高すぎる。それは目の当たりにしたから分かるのだが…………。
そこでふと、違和感を覚える。
確かに大公領の人間ならこれしきの事、取るに足らない怪我なのだろう。だがどうだろう……レオナードの腕に出来た打撲痕はいつまで経っても癒える様子が無い。
どういう事なの? もしかして自然治癒にも時間差があるのかしら? と疑問符を浮かべていると。
「……この怪我は治りませんよ。だって俺は、普通の人間ですから」
声にならない驚きが、吐息となって口から漏れ出る。
「俺はテンディジェルの人間ですが……残念ながら、強靭な肉体も強力な自然治癒力も持ち合わせず生まれた、ディジェル領の出来損ないなんです」
レオナードはつとめて明るく話した。
その驚愕の事実に、私はついに言葉を失った。
「原因不明の半端者……それが、俺なんです。おかしな話ですよね。妹のローズはドジだから戦えないけど、その体はきちんとディジェル領の人間らしい強靭な肉体です。外から来た母さんはともかく、父さんも伯父様も強靭な肉体を持ってるんですが、俺だけは。何故か外の世界の人達と同じ平凡な肉体なんです」
彼はなんでもないように明るく話す。だからだろうか、その姿がとても痛ましく悲哀に沈んで見えて仕方無いのだ。
何か言葉を掛けようにも、言葉が出て来ない。何と伝えたら、私はレオナードの心の膿を取り除けるのだろうか。
「まあ、だから俺は至って普通の人間……というか出来損ないの普通以下の人間でして。それなのに、ローズと一緒にいる為にと伯父様の仕事を手伝ってただけで周囲から秀才だとか持て囃されるようになって。それが理由で、噂だとフリードル殿下の側近候補だとかに選ばれてるらしいんです」
もやもやと考え続ける。その間も、レオナードは「ここで相談したい事がありまして」と話を続けていた。
「フリードル殿下がお求めなのはきっと、強靭な肉体を持つディジェル領の民です。それなのに、多少記憶力がいいだけの出来損ないの俺が側近になるなんて畏れ多くて……いくら俺でも身の程は弁えてますし。なので王女殿下には是非とも、角の立たないお断りの方法について何か助言頂ければと……!」
フリードルの側近……そうだったわ、この人はこのままだとローズを失ってフリードルの側近になって、いずれフリードルに殺されてしまう。
というかちょっと待ちなさいよ、記憶力がいいだけ? 一目見るか一度聞くだけでありとあらゆる事を覚えられる超記憶能力者が何をほざいてるのかしら? 帝国の盾の誇る最強の軍師、作中トップクラスの天才と公式に言われていた貴方が出来損ないですって??
寧ろフリードルの方から頭下げて側近になって下さいってお願いすべき存在が、何をそんなに謙遜しているの?
どういう事なの、どうしてこんなにレオナードは自分を過小評価しているの?
「……どうしても兄様の側近になるのが嫌なら、兄様が口出し出来ない理由を作るのが一番でしょう。公子が大公になる──とか」
とにかく自分を落ち着かせて、今は一応レオナードからの相談に返事する。
というかやっぱりフリードルの側近になりたくなかったのね、貴方……ゲームでもそんな感じの事言ってた気がするし。
「俺が、大公に……ですか」
「はい。さしもの兄様でも、大公ともあろう存在を側近にする事は無いかと」
「成程、一応このまま順調に行けば、俺もいずれ大公になるらしいんですけど…………まあ、その。フリードル殿下の側近選びには間に合いませんし、そもそも俺みたいな出来損ないが大公になんて……」
本当に分からない。どうしてもレオナードはこんなに自分を卑下しているの?
ゲームのレオナードはフリードルの側近としてその辣腕を発揮していた。皇太子の側近としてそれなりに自信に満ちていた筈なのに、まだ側近になってないから、自分に自信が持てないのかし、ら…………。
いや、違う! そうだ、ゲームのレオナードは言っていた。『死んだ妹の分も頑張って生きる事にしたんだ』って……!
つまり彼はローズが死んだ影響で頑張らざるを得ず、才能を発揮するようになったの? 妹《ローズ》の死が、彼が才能を覚醒させるキッカケって事?
最悪だ……彼がフリードルの側近になってミシェルちゃんと出会わなくても大丈夫なよう、ローズの死と内乱を阻止しようとしているのに。
ローズの死が、彼の天才的頭脳を発揮させる為の自信の発露に繋がるなんて。こんな酷い事ってある?!
おやおやおや? 何か急にかなり重い話が始まったぞ。
「ディジェル領の人間が妖精の祝福で強靭な肉体を持つ事はご存知ですよね」
「えぇ。実際に戦って、それは実感しました」
「この領地に生まれてくる人間は妖精の祝福で、強靭な肉体を持って生まれるのです。ですが……俺は違っていて」
違うって……何が? と私が小首を傾げていると、レオナードが袖を捲りながらスっと立ち上がり、暖炉の横に立て掛けてあった火かき棒で自分の腕を思い切り叩いた。
「なっ……! 何をしてるんですか公子!?」
「大丈夫ですよ、ただの打撲です。それにこれぐらいの怪我、ディジェル領の人間ならすぐ治りますから」
にこやかに語るレオナード。確かにここに来た初日、私達三人でかなりボコボコにした騎士団の面々も、ほんの数日で八割方回復していたようだった。
昨日、城内で大公との会議が終わった直後らしい騎士団長三名とたまたま鉢合わせたのだが……数日前までボロボロだったのに、今やピンピンしていた。
これにはイリオーデやアルベルトも驚いていた。本当に大公領の人間は自然治癒力が高すぎる。それは目の当たりにしたから分かるのだが…………。
そこでふと、違和感を覚える。
確かに大公領の人間ならこれしきの事、取るに足らない怪我なのだろう。だがどうだろう……レオナードの腕に出来た打撲痕はいつまで経っても癒える様子が無い。
どういう事なの? もしかして自然治癒にも時間差があるのかしら? と疑問符を浮かべていると。
「……この怪我は治りませんよ。だって俺は、普通の人間ですから」
声にならない驚きが、吐息となって口から漏れ出る。
「俺はテンディジェルの人間ですが……残念ながら、強靭な肉体も強力な自然治癒力も持ち合わせず生まれた、ディジェル領の出来損ないなんです」
レオナードはつとめて明るく話した。
その驚愕の事実に、私はついに言葉を失った。
「原因不明の半端者……それが、俺なんです。おかしな話ですよね。妹のローズはドジだから戦えないけど、その体はきちんとディジェル領の人間らしい強靭な肉体です。外から来た母さんはともかく、父さんも伯父様も強靭な肉体を持ってるんですが、俺だけは。何故か外の世界の人達と同じ平凡な肉体なんです」
彼はなんでもないように明るく話す。だからだろうか、その姿がとても痛ましく悲哀に沈んで見えて仕方無いのだ。
何か言葉を掛けようにも、言葉が出て来ない。何と伝えたら、私はレオナードの心の膿を取り除けるのだろうか。
「まあ、だから俺は至って普通の人間……というか出来損ないの普通以下の人間でして。それなのに、ローズと一緒にいる為にと伯父様の仕事を手伝ってただけで周囲から秀才だとか持て囃されるようになって。それが理由で、噂だとフリードル殿下の側近候補だとかに選ばれてるらしいんです」
もやもやと考え続ける。その間も、レオナードは「ここで相談したい事がありまして」と話を続けていた。
「フリードル殿下がお求めなのはきっと、強靭な肉体を持つディジェル領の民です。それなのに、多少記憶力がいいだけの出来損ないの俺が側近になるなんて畏れ多くて……いくら俺でも身の程は弁えてますし。なので王女殿下には是非とも、角の立たないお断りの方法について何か助言頂ければと……!」
フリードルの側近……そうだったわ、この人はこのままだとローズを失ってフリードルの側近になって、いずれフリードルに殺されてしまう。
というかちょっと待ちなさいよ、記憶力がいいだけ? 一目見るか一度聞くだけでありとあらゆる事を覚えられる超記憶能力者が何をほざいてるのかしら? 帝国の盾の誇る最強の軍師、作中トップクラスの天才と公式に言われていた貴方が出来損ないですって??
寧ろフリードルの方から頭下げて側近になって下さいってお願いすべき存在が、何をそんなに謙遜しているの?
どういう事なの、どうしてこんなにレオナードは自分を過小評価しているの?
「……どうしても兄様の側近になるのが嫌なら、兄様が口出し出来ない理由を作るのが一番でしょう。公子が大公になる──とか」
とにかく自分を落ち着かせて、今は一応レオナードからの相談に返事する。
というかやっぱりフリードルの側近になりたくなかったのね、貴方……ゲームでもそんな感じの事言ってた気がするし。
「俺が、大公に……ですか」
「はい。さしもの兄様でも、大公ともあろう存在を側近にする事は無いかと」
「成程、一応このまま順調に行けば、俺もいずれ大公になるらしいんですけど…………まあ、その。フリードル殿下の側近選びには間に合いませんし、そもそも俺みたいな出来損ないが大公になんて……」
本当に分からない。どうしてもレオナードはこんなに自分を卑下しているの?
ゲームのレオナードはフリードルの側近としてその辣腕を発揮していた。皇太子の側近としてそれなりに自信に満ちていた筈なのに、まだ側近になってないから、自分に自信が持てないのかし、ら…………。
いや、違う! そうだ、ゲームのレオナードは言っていた。『死んだ妹の分も頑張って生きる事にしたんだ』って……!
つまり彼はローズが死んだ影響で頑張らざるを得ず、才能を発揮するようになったの? 妹《ローズ》の死が、彼が才能を覚醒させるキッカケって事?
最悪だ……彼がフリードルの側近になってミシェルちゃんと出会わなくても大丈夫なよう、ローズの死と内乱を阻止しようとしているのに。
ローズの死が、彼の天才的頭脳を発揮させる為の自信の発露に繋がるなんて。こんな酷い事ってある?!