だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
264.鈍色の天才2
「……──公子。貴方は自分が出来損ないだと、本当にそう思ってるのですか?」
例えローズが不幸に遭わずとも彼が自信を持てるように、私はとにかく言葉をぶつける事にした。
貴方自身が知らずとも、私は貴方の才能を知っているから。もしも貴方がある種のコンプレックスからその才能に気づけずにいるのなら、私が無理やりにでもそれに気づかせるまでだ。
「ええ、まぁ……ディジェル領の人間なら持ってて当然の肉体を持ってない、いわゆる異端者なので」
「もしかして、今までそうやって謗られて来たのですか?」
「そんな事は無いですよ。皆俺の体の事は分かってますから、わざわざそれを口にする事は無かったんです。ただ……『レオナード様は体が弱いんですから』って最初から何も期待されず、ただ失望され続けているだけで」
────は?
その時、私は言葉も出なかった。ここの領民はどれだけこの兄妹を蔑ろにすれば気が済むんだ?
レオナードは天才だ。彼の才能が日の目を見ないなど国家の損失と言っても過言ではない程の天才だ。もしその代償で彼の体が平凡的なものだったのだとしても……それを補って余りある才能があるのに。
何故、本来持つべきものを持たないというだけでレオナードが失望されなければならないの?
そう領民への怒りが煮え立った瞬間。私はある事に気がついた。
……──アミレスと一緒だ。私《アミレス》も、本来持つべきものを持たない所為で、不遇な扱いを受けてきた。
家族から見放され、それでも認められようと努力すれば野蛮だなんだと罵られ、訳も分からず疎まれてきた。
氷の魔力を持たず、水の魔力を持って生まれた事は特に後悔はしてないし、寧ろ感謝している。
だから私はもうこの事は吹っ切れたけれど、レオナードはきっとまだ吹っ切れてないんだ。
まだ、それを欠陥だと思っているんだ。
ならば同じ境遇にある人間として、決してそんな事はないと教えてあげないと。お節介だなんだと言われても構わない。ここで彼にこれを伝えなければ絶対に後悔するから。
「公子、貴方は私《わたくし》が帝都で出来損ないの野蛮王女と呼ばれている事はご存知ですか?」
「……え? 知らない……です。帝都では王女殿下ともあろう方が、そんな風に呼ばれているんですか!?」
まるで相談を始めた時のレオナードのように、私は切り出した。王女らしく振る舞うのも忘れ、私自身の言葉として。
「はい。こちらはご存知かと思いますが、私は皇族でありながら氷の魔力ではなく水の魔力を持って生まれました。つまりは出来損ない、皇族の恥晒しなのです。公子は私をさも出来た人間のように語りますが……元々は、私も貴方が言うような出来損ないなんですよ」
信じられない、とでも言いたげな顔ね。
驚きから言い淀むレオナード。おずおずと、彼は口を開いた。
「……でも、王女殿下はあんなにも強くて、聡明で。出来損ないなんかじゃないですよ」
「そりゃあ、私は人生の半分以上の時間を努力に費やしましたから。家族に認められたくて、周りを見返したくて……例え野蛮だ偽善者だと罵られようとも、私自身の意思を曲げるような真似だけはしたくなかったので、とにかく努力の日々を過ごしてきたのです」
「努力…………」
俯いて、レオナードはボソリと呟いた。
「それしか、私には出来なかったから。本来持つべきものを持たずに生まれ、冷遇されるのなら……そんなもの関係無いぐらい強くなって周りを黙らせてやろうと。私の事を容易に害せないようにしたんです。その結果が、野蛮王女という呼び名です。そんな私を、貴方は出来損ないだと思いますか?」
「……いいえ。とても、凄い方と思います」
「ありがとうございます。そう、例え元が出来損ないであったとしても本人の努力や才能次第でどうとでもなるのです。私がそのいい例でしょう」
私はホットミルクの入っていたコップを机に置いて立ち上がり、レオナードの前で膝を折った。俯く彼の顔を覗き込む形で、私は更に続ける。
「いいですか、公子。貴方は出来損ないなどではありません。寧ろその逆、天才なのです。貴方が短所だと思っているそれは短所なのではなく、貴方の長所が突出しているが故の代償だったのです」
とある日に私も師匠から言われた。『姫さんの魔力が水の魔力なのは、きっとその戦闘に関する才能が溢れてるから、強くなりすぎないようにっていうバランス調整なんすよ』って……これを聞いて、私は水の魔力と向き合えた。
それが真実であろうが偽りであろうが関係無い。師匠がくれたあの言葉のお陰で、アミレスとして私は自身の欠陥と向き合い受け入れる事が出来たのだから。
それを彼に告げ、師匠が私に他の誰にも負けないぐらいの才能があると教えてくれたように、更に彼に伝えたい。
貴方自身もまだ知らない、その天賦の才能を!
例えローズが不幸に遭わずとも彼が自信を持てるように、私はとにかく言葉をぶつける事にした。
貴方自身が知らずとも、私は貴方の才能を知っているから。もしも貴方がある種のコンプレックスからその才能に気づけずにいるのなら、私が無理やりにでもそれに気づかせるまでだ。
「ええ、まぁ……ディジェル領の人間なら持ってて当然の肉体を持ってない、いわゆる異端者なので」
「もしかして、今までそうやって謗られて来たのですか?」
「そんな事は無いですよ。皆俺の体の事は分かってますから、わざわざそれを口にする事は無かったんです。ただ……『レオナード様は体が弱いんですから』って最初から何も期待されず、ただ失望され続けているだけで」
────は?
その時、私は言葉も出なかった。ここの領民はどれだけこの兄妹を蔑ろにすれば気が済むんだ?
レオナードは天才だ。彼の才能が日の目を見ないなど国家の損失と言っても過言ではない程の天才だ。もしその代償で彼の体が平凡的なものだったのだとしても……それを補って余りある才能があるのに。
何故、本来持つべきものを持たないというだけでレオナードが失望されなければならないの?
そう領民への怒りが煮え立った瞬間。私はある事に気がついた。
……──アミレスと一緒だ。私《アミレス》も、本来持つべきものを持たない所為で、不遇な扱いを受けてきた。
家族から見放され、それでも認められようと努力すれば野蛮だなんだと罵られ、訳も分からず疎まれてきた。
氷の魔力を持たず、水の魔力を持って生まれた事は特に後悔はしてないし、寧ろ感謝している。
だから私はもうこの事は吹っ切れたけれど、レオナードはきっとまだ吹っ切れてないんだ。
まだ、それを欠陥だと思っているんだ。
ならば同じ境遇にある人間として、決してそんな事はないと教えてあげないと。お節介だなんだと言われても構わない。ここで彼にこれを伝えなければ絶対に後悔するから。
「公子、貴方は私《わたくし》が帝都で出来損ないの野蛮王女と呼ばれている事はご存知ですか?」
「……え? 知らない……です。帝都では王女殿下ともあろう方が、そんな風に呼ばれているんですか!?」
まるで相談を始めた時のレオナードのように、私は切り出した。王女らしく振る舞うのも忘れ、私自身の言葉として。
「はい。こちらはご存知かと思いますが、私は皇族でありながら氷の魔力ではなく水の魔力を持って生まれました。つまりは出来損ない、皇族の恥晒しなのです。公子は私をさも出来た人間のように語りますが……元々は、私も貴方が言うような出来損ないなんですよ」
信じられない、とでも言いたげな顔ね。
驚きから言い淀むレオナード。おずおずと、彼は口を開いた。
「……でも、王女殿下はあんなにも強くて、聡明で。出来損ないなんかじゃないですよ」
「そりゃあ、私は人生の半分以上の時間を努力に費やしましたから。家族に認められたくて、周りを見返したくて……例え野蛮だ偽善者だと罵られようとも、私自身の意思を曲げるような真似だけはしたくなかったので、とにかく努力の日々を過ごしてきたのです」
「努力…………」
俯いて、レオナードはボソリと呟いた。
「それしか、私には出来なかったから。本来持つべきものを持たずに生まれ、冷遇されるのなら……そんなもの関係無いぐらい強くなって周りを黙らせてやろうと。私の事を容易に害せないようにしたんです。その結果が、野蛮王女という呼び名です。そんな私を、貴方は出来損ないだと思いますか?」
「……いいえ。とても、凄い方と思います」
「ありがとうございます。そう、例え元が出来損ないであったとしても本人の努力や才能次第でどうとでもなるのです。私がそのいい例でしょう」
私はホットミルクの入っていたコップを机に置いて立ち上がり、レオナードの前で膝を折った。俯く彼の顔を覗き込む形で、私は更に続ける。
「いいですか、公子。貴方は出来損ないなどではありません。寧ろその逆、天才なのです。貴方が短所だと思っているそれは短所なのではなく、貴方の長所が突出しているが故の代償だったのです」
とある日に私も師匠から言われた。『姫さんの魔力が水の魔力なのは、きっとその戦闘に関する才能が溢れてるから、強くなりすぎないようにっていうバランス調整なんすよ』って……これを聞いて、私は水の魔力と向き合えた。
それが真実であろうが偽りであろうが関係無い。師匠がくれたあの言葉のお陰で、アミレスとして私は自身の欠陥と向き合い受け入れる事が出来たのだから。
それを彼に告げ、師匠が私に他の誰にも負けないぐらいの才能があると教えてくれたように、更に彼に伝えたい。
貴方自身もまだ知らない、その天賦の才能を!