だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
 俺達の父さんは外の世界で骨抜きになった母さんを守る為に必死だった。
 反対する領民を説得させたり、とにかく領地に貢献して認めて貰おうとしたり。子供の世話がまともに出来ないぐらい、うちの両親はとにかく忙しかったのだ。
 そのくせ、俺が渡した草案は頑なに使おうとしない。あれを使えば大なり小なり領地に貢献して領民に認めて貰えるよって話しても、父さんは気まずそうに眉を顰めるだけ。

 正直、子供ながらにうちの父親は馬鹿なんじゃないかと思っていた。何でそんな回りくどい手段を取るのか、最短距離を進もうとしないのか。
 貴方のその変なこだわりで母さんはいつまでも肩身の狭い思いをして、半端者の俺は領民に認められず、俺の妹と言うだけでローズまでこの地での居場所を掴めずにいた。
 どんな事情があるにせよ、親は子供を守るものだろ? それなのに父さんはいつもいつも母さんばっかり優先して。あまつさえ俺達の居場所は俺達自身で用意しろだと?

 ふざけるな。落ちこぼれの俺はともかく、何でローズまでそんな目に遭わないといけないんだ。
 その日以来、俺の中にあった父親への尊敬というものは消え去った。まぁ、元々大してなかったんだけどね。
 そもそも両親には、ローズを産んでくれてありがとう。以外の感情が無かった。とにかく俺にとってはローズが全てで、可愛い妹の為なら何だって出来ると昔からずっと思っていた。

 だから、俺は決心した。
 ローズが歌姫となったあの日……俺はローズを守る為に頑張ると誓ったのだ。

 それからは水を得た魚のように、俺は活き活きとしていた。明確な人生の指標が出来たからだろうか……人前に出る事も喋る事も回を重ねるごとに慣れたのか、いつのまにか大丈夫になったのだ。
 ローズを守る為にとにかく領民と領地に貢献した。伯父様の仕事の手伝いを沢山して、俺の地位を確立していった。

 幸いにも俺の容姿は肉体と違って人並みには良かったので、どれだけぎこちなくても適当に笑って領民と交流していれば、それなりには受け入れて貰えるようになった。
 どうせ領民はハナから俺を信用してなければ、期待もしていない。だから寧ろ気負いせずに済んで良かった。
 同情も憐憫も軽蔑も疑心も慣れた。
 生来のひねくれた陰気な性格故か、他者から向けられる感情の全てが『クソどうでもいい』で片付けられるようになったんだよね。

 本当にこれって凄い成長だと思う。
 そうやって、俺が出来損ないながらに領地を思い貢献して来た事は案外認められた。どいつもこいつも単純だなぁ、俺が役に立つと分かった途端すぐ手のひら返してさ。
 俺だけならまだしもローズにも同じ事をしてるから本当にむかついた。滅びの歌でも歌ってやろうかって多分五十回は思った。

 そんな狭くてくだらない世界から初めて外に出て、ディジェル人を馬鹿にする人達の巣窟だという帝都に行き、俺は早速その洗礼を受けた。
 帝都怖い。本当に怖い。
 買い物以外は特に帝都にいい思い出が無かったのだが、そんな俺を哀れに思ったのか……神様が鮮烈で淡く美しい思い出をくれた。

 ──それが、王女殿下との出会いなのだ。

 理由は数あれど、領地と領民を愛していた俺は王女殿下の言葉に非常に喜んでいた。
 理想そのものと言っても過言ではない容姿に一目惚れしたのは当然の事、その後彼女が見せた一挙手一投足や言葉の全てが俺をあっという間にその病に罹らせた。

 ……初恋、なんだよなぁ。親愛や敬愛とは違う、紛うことなき恋。
 ひねくれた性格と非常識な理想を持つこの俺が、まさかこんなあっさりと恋に落ちるなんて。
 いやでもあれは仕方無くない? あんな人と出会って恋に落ちるなって方が無理あるよ。俺みたいな夢見がち野郎は尚更!
 十六歳になって初めて誰かに恋をした。しかし俺の初恋は呆気なく閉幕し、終わり告げたかのように思えた。

 しかぁーーーーしっ! 天は俺に味方した!
 王女殿下がうちの領地に来てくれるとかいうまさかの展開に、俺はとても興奮していた。
 彼女に、初恋の人にもう一度会う事が出来るのだと。
 きっと彼女に会えたならローズも元気になってくれるだろう。俺と好みがそっくりなローズも一目惚れする気がするし、もしそうなったら王女殿下の魅力について語り合いたいな。
 この時にはローズが散々利用された挙句歌えなくなってしまっていたので、本当に、王女殿下にもう一度会える事が嬉しかったのだ。

 だって王女殿下に会ったらローズもきっと元気になってくれるから。俺の初恋だからという理由もあるのだが……王女殿下に会う事がとても楽しみな理由は、ローズの件が大部分を占めている。
 俺自身、荒んだ心やひねくれた心が、王女殿下に出会った事で一気に浄化されたんだから。
 王女殿下の存在がローズにとっていい影響になると確信していた。王女殿下と出会ったら、きっとローズも元気になってくれると確信していた。

 その確信は現実となった。
 ローズは案の定、王女殿下に一目惚れしたらしい。俺とほぼ同じ好みだからそうなるだろうね。興奮気味に王女殿下の事を語る姿に、俺は内心とてもホッとしていた。
 あんなにも元気なローズは久々に見た。本当に、ローズを王女殿下に会わせる事が出来てよかった……。
 と、思っていたのだが。

 …………なんか、目を離した隙にローズと王女殿下がすごーく仲良くなってる気がするんだけど。
 ローズが王女殿下の事を『アミレスちゃん』と呼び、王女殿下がローズの事を『ローズ』と呼んでいる。何より二人共、数年来の親友かのように親しげに話しているではないか。
 えっとぉ……何があったの? というか距離近くない? ローズ、お兄ちゃん何も聞いてないんだけど??
 予想外の事態に狼狽し、眠れなかった俺は、ローズの部屋を訪ねてローズから話を聞く事にした。
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