だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「ローズから、王女殿下に相談したら悩みが少し解決したって聞いて……つまらなくて、長い話ですけど大丈夫ですか?」
「勿論大丈夫ですよ。力になれるかは分かりませんが、愚痴の聞き役ぐらいにはなれるかと」

 ありがとうございます、と告げて俺は口を切る。

「実は……俺は本来、公子だなんて呼ばれていい立場の人間じゃないんです。俺はディジェル領の人間としては不出来な人間…………血筋だけの人間、それが俺でして」

 これは別に話さなくてもよかったんだけど、何せこの内容が後の相談に繋がるので……王女殿下に聞かせる話ではないと思いつつも、淡々と語った。

「ディジェル領の人間が妖精の祝福で強靭な肉体を持つ事はご存知ですよね」
「えぇ。実際に戦って、それは実感しました」
「この領地に生まれてくる人間は妖精の祝福で、強靭な肉体を持って生まれるのです。ですが……俺は違っていて」

 こう話したところ、王女殿下がどういう事だとばかりに小首を傾げた。
 可愛いなぁ…………と思いつつ、どうすればより簡単に俺の体の事を彼女に伝えられるかと悩んでいた時、視界の端に火かき棒を見つけた。
 丁度いいなとそれを手に取り、袖を捲って露わになった腕に叩きつける。
 熱が宿っていないだけマシだけど……うん、痛い。俺の体はごく普通のものだからちゃんと痛いなあ。

「なっ……! 何をしてるんですか公子!?」
「大丈夫ですよ、ただの打撲です。それにこれぐらいの怪我、ディジェル領の人間ならすぐ治りますから」

 とは言ったものの。俺はディジェル領の人間でありながら、出来損ないの烙印を押された者。
 治る筈の無い痣を不安げに凝視する王女殿下の表情が、みるみるうちに暗くなってゆく。彼女は、全然治らない俺の腕を訝しげに見ていた。

「……この怪我は治りませんよ。だって俺は、普通の人間(・・・・・)ですから」

 にこりと笑ってネタばらしをすると、王女殿下はハッと息を呑んだ。

「俺はテンディジェルの人間ですが……残念ながら、強靭な肉体も強力な自然治癒力も持ち合わせず生まれた、ディジェル領の出来損ないなんです」

 俺はあくまでも明るく話す。王女殿下に余計な心配などをかけないようにと、平然と淡々と語り続ける。

「原因不明の半端者……それが、俺なんです。おかしな話ですよね。妹のローズはドジだから戦えないけど、その体はきちんとディジェル領の人間らしい強靭な肉体です。外から来た母さんはともかく、父さんも伯父様も強靭な肉体を持ってるんですが、俺だけは。何故か外の世界の人達と同じ平凡な肉体なんです」

 何故か話が進むにつれて険しくなる王女殿下のお顔。何をそんなに深刻に考えていらっしゃるのか……やっぱりこんな話、急にされたから困っちゃったのかな。
 確かに重い話だからなぁ。だから少しでも重く聞こえないよう明るく話してるんだけど……。

「まあ、だから俺は至って普通の人間……というか出来損ないの普通以下の人間でして。それなのに、ローズと一緒にいる為にと伯父様の仕事を手伝ってただけで周囲から秀才だとか持て囃されるようになって。それが理由で、噂だとフリードル殿下の側近候補だとかに選ばれてるらしいんです」

 こんな面白くもない話を長々としていたのは、王女殿下に『相談』するにあたって、前提として俺の事を知っておいて貰おうと思ったからだ。
 ……決して、下心とかで俺の事を知って貰いたいという訳ではない。
 キリッと顔を作っては、「ここで相談したい事がありまして」と更に続ける。

「フリードル殿下がお求めなのはきっと、強靭な肉体を持つディジェル領の民です。それなのに、多少記憶力がいいだけの出来損ないの俺が側近になるなんて畏れ多くて……いくら俺でも身の程は弁えてますし。なので王女殿下には是非とも、角の立たないお断りの方法について何か助言頂ければと……!」

 俺はじっと王女殿下を見つめていた。
 王女殿下はどこか驚いたような、困惑するような複雑な表情になっていた。どうしたんだろうか、そんなに難しい相談だったのかなこれ。
 でもまぁ、王女殿下からすれば、実の兄の側近になりたくないからどう断ればいいか教えろ……って相談内容だもんな。そりゃあ困惑するよね。
 申し訳無い思いのまま王女殿下の返答を待つ。彼女は、暫く間を置いてからゆっくりと口を開いた。

「……どうしても兄様の側近になるのが嫌なら、兄様が口出し出来ない理由を作るのが一番でしょう。公子が大公になる──とか」
「俺が、大公に……ですか」

 あー……やっぱりそれしかないのかな。一応、側近候補の噂を聞いた時に考えなかった訳ではないけど……フリードル殿下の妹の王女殿下までもがそう言うのなら、これしかやっぱり方法は無いのかな。

「はい。さしもの兄様でも、大公ともあろう存在を側近にする事は無いかと」
「成程、一応このまま順調に行けば、俺もいずれ大公になるらしいんですけど…………まあ、その。フリードル殿下の側近選びには間に合いませんし、そもそも俺みたいな出来損ないが大公になんて……」

 大公位は世襲制なので、どれだけ俺が出来損ないでも俺はいずれ大公位に即位する事になるだろう。
 原則として、大公位は“テンディジェルの男”が即位するもの。
 現大公の伯父様が、三十年程前に立て続けに戦死したお爺様達に代わって大公になり、その次が伯父様の弟の父さん。父さんの息子は俺しかいないので、父さんの次は自動的に俺が即位する事になる。

 そういう決まりだから、俺はどうせいつかは大公になる。でもそれはあくまでもまだ先の話であって……フリードル殿下の側近選びには間に合いそうにもない。
 いっその事、父さんの即位式に乱入して代わりに即位しちゃう? ハハハハ、俺にそんな度胸があったらとっくに何か行動を起こしてるよねー……。
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