だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「集まったな、お前達。ようやく叛逆の時が来た──……と、王は仰っております」

 精霊王の右腕たる男、終の最上位精霊フィンが星見の間より姿を見せる。その瞬間、個性の集まりたる最上位精霊達が水を打ったように静まり返った。
 誰もが、星装を身に纏うフィンの圧倒的存在感に言葉を失ったのである。
 “星装”とは──最上位精霊達がその位に就いた際、精霊王より賜る正装の事である。服の一部が星空のように輝く、最上位の精霊にのみ許された正装だ。
 これは基本……滅多にない儀式や、最上位を賜る時に着るものなので、普段最上位精霊達はそれぞれ好みの服装をしているのだ。

「中で王がお待ちです。位階に則り、上位の者より星装に身を包み入室なさい」

 フィンがそう残して星見の間に入ると、その後に続くように星装へと転装し、精霊位階外に位置する時の最上位精霊ケイが入室してゆく。
 その後も続々と、精霊位階一位より順に星見の間に入室する。十分程が経つ頃には全員が星見の間に入り、円を描くように所定の位置に立っていた。
 その中心に佇むのは、精霊王らしい星装に身を包むシルフ。その美しさたるや、天上の神々でさえも嫉妬してしまう程。
 なんやかんやで精霊王を心より慕う最上位精霊達は、普段以上の美しさを放つ精霊王に放心する。

「さぁ、儀式の時だ。これより我々は、神々に叛逆する」

 星雲輝く宙《ソラ》の中に立つように、四方八方が夜空に染まった星見の間。その中心で精霊王が叛逆の狼煙を上げる。

「『我等が父、我等が母たる神々に奏上する。天より運命《さだめ》られし約束を──アナタ達と交わした制約を、星の権能を以て今この時破却する事を宣言する!』」

 精霊王が高らかに宣う。
 その瞬間。星見の間の天井にあたる部分に、一等美しく瞬く星が輝く。

「『終の権能、始動』」
「『時の権能、停止』」

 ほぼ同時。精霊位階より外れた二体の精霊が、制約の破棄に同意する。
 その直後、天井では一等輝く星に寄り添うように二つの星が輝いた。

「『光の権能、暗転』」
「『闇の権能、光輝』」

 次いで精霊位階一位と二位が順に同意し、その権能を天井の星として輝かせる。

「『火の権能、消沈』」
「『水の権能、劫火』」
「『土の権能、風化』」
「『風の権能、膠着』」

 その次は四大属性を司る者達。
 普段は自由気ままに振る舞う最上位精霊達も、今この時だけは至極真面目に、最上位精霊としての役目を果たす。
 こうして、精霊位階上位より順に制約の破棄に同意し、天井には幾多もの彩色を放つ星々が輝く。それは最上位精霊が精霊王に続き宣言すると、一つまた一つと増えてゆく。

「『創の権能、破滅』」

 最後の一体(ヒトリ)、創の最上位精霊が宣言すると──……天井にて、四十の星々が輝いた。
 それはまさしく神々が分け与えた権能そのものであり、精霊達の心臓とも呼ぶべき存在の根幹そのもの。
 とどのつまり……この破却儀式とは、精霊王を含めた最上位精霊達全員の命を賭け、天界との制約に干渉する儀式なのだ。
 これこそが魔界と妖精界では制約の破棄が不可能である所以。制約の破棄が神々の子らである精霊にのみ許される尤もらしい理由である。

「『此処に全ての星の輝きを捧げます。神々よ、我等が望み、我等が願いを聞き届け給え。精霊王は此処に制約の破棄を願い奉る』」

 精霊王の祝詞は、天井の星々から更なる輝きを引き出した。

(……──勝った! 今この時まで神々はボク達に気づかなかった。今更気付こうがもう遅い……妨害は不可能だ。誰にもボク達を止める事は出来ない!!)

 ニヤリ、と勝利を確信して精霊王の頬は笑みを帯びる。
 それは間違えようのない叛逆。子にあまりにも無関心であった親に対する報復そのもの。
 神々があまりにも精霊達に目を向けなかったが故に発生した、大失態である。

「『此処に告げる。我々は──────』」

 精霊王が制約の破棄を実行する。
 その瞬間。精霊界、魔界、妖精界で正体不明の鐘の音が鳴り響いた。
 呪いの鐘のような、祝福のベルのような。聞く者によっては聞こえ方も変わるそれに、誰もが首を傾げる。
 だがどうしてだろう……誰もその鐘の音を不快とは思わなかった。ようやく憎き神々へと仕返しが出来るのだと、その鐘の音を聞いた者達は第六感で理解していたのだろうか。
 一万の時を刻む天界との約束事。
 気の遠くなるような手間手順を踏んでようやく干渉・破棄出来るそれを、精霊達は成し遂げた。

 ───永き刻を超え、自由になる時が来た。星々の輝きを身に宿す精霊達は、ついに神々に叛逆し、自由を手に入れたのだ。
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