だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
269.必要悪の動機
深夜、ディジェル領中心街のある酒場にて、蝋燭の灯りを頼りに密会を重ねる男達がいた。
「おいどうするんだ? もし万が一、皇族まで計画に巻き込んでしまったら……」
「ただじゃ済まないだろうな。だが、元よりおれ達は全てを失う覚悟だ。計画は変更なしで行く」
「……ああ、そうだな。そもそもあの裏切り者が大人しく俺達の言葉を聞き入れたら戦う必要も無いのにな」
「悪いのは裏切り者だ!」
「「「「そうだそうだー!」」」」
男達は酒樽を空にする勢いで酒を呷り、意志を同じくする。
彼等はこの領地の伝統と、領民としての尊厳を守るべく、決死の覚悟を以てある計画を推し進めていた。
示威運動《デモンストレーション》───この計画は、これまでのディジェル領の伝統にない外部からの妃、『ヨールノス・サー・テンディジェル』とそれを迎えた裏切り者、『セレアード・サー・テンディジェル』に対する領民からの最終勧告だった。
これまで、幾度となく領民達はセレアードに直訴してきた。
──何故外部の人間を妃にした? まさかテンディジェル家ともあろう者が、ディジェル領の伝統を踏み躙ると言うのか!
セレアードがヨールノスを妃に迎えてから、何度も何度も彼等はセレアードに直談判していた。
これまでの百年以上の歴史で、ただの一度も無い例外。外部から平凡な人間を迎え入れたセレアードは、領地中の人達から激しい批難を受けていた。
しかしそれでも彼は愛を貫き、逆境に耐えながらここまでヨールノスと寄り添っていたのだが……ついに、領民達の我慢の限界に達する出来事があった。
それは大公位の即位式。現大公ログバードが隠居する為、歳の離れた弟であるセレアードにその位を譲ろうとしている。
領民達とて、セレアードが大公になる事は百歩譲ってまだ許せた。何故ならセレアードもれっきとしたテンディジェルの者だから。
だがしかし、セレアードが大公になる事で外部の人間が大公妃になる事だけは許せなかったらしい。
どれだけ直訴しても聞かないセレアードに愛想を尽かせ、彼等はついに実力行使に出る事にした。
だがそれでも……純粋な彼等はまだ一抹の希望を抱いている。
故に彼等の計画の始まりでは、セレアードのディジェル領民としての誇りと信念を信じて最後の勧告を行う。だがそれでもセレアードが彼等の思いを裏切るならば……実力行使に出るしかないと、彼等も覚悟を決めた。
例え反逆者や殺人者と呼ばれても構わない。ディジェル領の領民としての誇りと尊厳を守れるのならば──、力づくでも伝統を守ってみせると。
そう、彼等は決心したのだ。
「最終勧告が不発に終われば、予定通り城に乗り込み裏切り者と余所者を殺害する。こうする事でしか、最早私達の伝統と誇りを守る事は出来ぬのだ」
「悪いのは裏切り者だ。俺達は領民としての正義を貫くだけだ!」
「あの男が大人しく余所者を追い出せば、我々も事を荒立てずに済むんだが……」
「おれ達だって無闇矢鱈と戦いたい訳じゃねェ。あの裏切り者が賢明な判断をしてくれりゃァな…………おれ達だって内乱を起こそうだなんて考えもしなかったのによ」
来る決戦の日の未明頃。男達はやるせない思いで酒樽を空にした。
そう、彼等だってやりたくて内乱を起こそうとしているのではない。そうせざるを得ないと結論づけてしまったからこそ、彼等は武力蜂起という手段を取る事しか出来なくなったのだ。
「──いいか、オマエ等。オレ達の目的は伝統と誇りを守る事。例え反逆者になろうとも、例えこの命が潰えようとも、オレ達は愛する領地の為に裏切り者に制裁を下すのだ!」
「「「「「おーーッ!」」」」」
大柄な体躯を持つ強面の男が、獲物を天に突き上げて高らかに言い切ると、周りの男達も同じように拳を天に突き上げて叫ぶ。
この場にいる者達など、此度の計画に関わる領民の氷山の一角に過ぎない。
この計画に賛同した領民は全体の三分の二程。老若男女関係無く、兵士や主婦も関係無く。
とにかく余所者が大公妃になる事を許せない者達は志を共にし、最終手段を取る事にした。
相手が、領地内でも突出した実力者──三騎士団の者達であろうとも。
圧倒的兵差の戦いを覆すような実力者が集う敵陣との、勝利の見えない戦いであろうとも。
彼等はその命を懸ける。そこで命を落とそうとも、それが無駄な死ではないと彼等は確信しているから。
(……──もしこの戦いで死のうとも、目的が達成されずとも、領民《オレたち》が命懸けてまで抗議したって事実は絶対に消えない。その事実が、あの裏切り者と余所者を伝統あるこの地から排除するだろう)
決起集会の中心に立つ大柄の男は、ニヤリと鋭く笑う。
この戦いは多数の犠牲を払うものの、どう転がっても彼等にとって望ましい結末に辿り着く。
どちらにせよ……ディジェル領の裏切り者には死か追放しか残されていない。
それこそが、セレアード自身が選んだ道の終着点なのだ。
こうして夜は明けてゆく。
しかしこの半日後、彼等の予想を遥かに上回る事態が起き、ディジェル領は混乱の渦に巻き込まれる事になるのだ──……。
「おいどうするんだ? もし万が一、皇族まで計画に巻き込んでしまったら……」
「ただじゃ済まないだろうな。だが、元よりおれ達は全てを失う覚悟だ。計画は変更なしで行く」
「……ああ、そうだな。そもそもあの裏切り者が大人しく俺達の言葉を聞き入れたら戦う必要も無いのにな」
「悪いのは裏切り者だ!」
「「「「そうだそうだー!」」」」
男達は酒樽を空にする勢いで酒を呷り、意志を同じくする。
彼等はこの領地の伝統と、領民としての尊厳を守るべく、決死の覚悟を以てある計画を推し進めていた。
示威運動《デモンストレーション》───この計画は、これまでのディジェル領の伝統にない外部からの妃、『ヨールノス・サー・テンディジェル』とそれを迎えた裏切り者、『セレアード・サー・テンディジェル』に対する領民からの最終勧告だった。
これまで、幾度となく領民達はセレアードに直訴してきた。
──何故外部の人間を妃にした? まさかテンディジェル家ともあろう者が、ディジェル領の伝統を踏み躙ると言うのか!
セレアードがヨールノスを妃に迎えてから、何度も何度も彼等はセレアードに直談判していた。
これまでの百年以上の歴史で、ただの一度も無い例外。外部から平凡な人間を迎え入れたセレアードは、領地中の人達から激しい批難を受けていた。
しかしそれでも彼は愛を貫き、逆境に耐えながらここまでヨールノスと寄り添っていたのだが……ついに、領民達の我慢の限界に達する出来事があった。
それは大公位の即位式。現大公ログバードが隠居する為、歳の離れた弟であるセレアードにその位を譲ろうとしている。
領民達とて、セレアードが大公になる事は百歩譲ってまだ許せた。何故ならセレアードもれっきとしたテンディジェルの者だから。
だがしかし、セレアードが大公になる事で外部の人間が大公妃になる事だけは許せなかったらしい。
どれだけ直訴しても聞かないセレアードに愛想を尽かせ、彼等はついに実力行使に出る事にした。
だがそれでも……純粋な彼等はまだ一抹の希望を抱いている。
故に彼等の計画の始まりでは、セレアードのディジェル領民としての誇りと信念を信じて最後の勧告を行う。だがそれでもセレアードが彼等の思いを裏切るならば……実力行使に出るしかないと、彼等も覚悟を決めた。
例え反逆者や殺人者と呼ばれても構わない。ディジェル領の領民としての誇りと尊厳を守れるのならば──、力づくでも伝統を守ってみせると。
そう、彼等は決心したのだ。
「最終勧告が不発に終われば、予定通り城に乗り込み裏切り者と余所者を殺害する。こうする事でしか、最早私達の伝統と誇りを守る事は出来ぬのだ」
「悪いのは裏切り者だ。俺達は領民としての正義を貫くだけだ!」
「あの男が大人しく余所者を追い出せば、我々も事を荒立てずに済むんだが……」
「おれ達だって無闇矢鱈と戦いたい訳じゃねェ。あの裏切り者が賢明な判断をしてくれりゃァな…………おれ達だって内乱を起こそうだなんて考えもしなかったのによ」
来る決戦の日の未明頃。男達はやるせない思いで酒樽を空にした。
そう、彼等だってやりたくて内乱を起こそうとしているのではない。そうせざるを得ないと結論づけてしまったからこそ、彼等は武力蜂起という手段を取る事しか出来なくなったのだ。
「──いいか、オマエ等。オレ達の目的は伝統と誇りを守る事。例え反逆者になろうとも、例えこの命が潰えようとも、オレ達は愛する領地の為に裏切り者に制裁を下すのだ!」
「「「「「おーーッ!」」」」」
大柄な体躯を持つ強面の男が、獲物を天に突き上げて高らかに言い切ると、周りの男達も同じように拳を天に突き上げて叫ぶ。
この場にいる者達など、此度の計画に関わる領民の氷山の一角に過ぎない。
この計画に賛同した領民は全体の三分の二程。老若男女関係無く、兵士や主婦も関係無く。
とにかく余所者が大公妃になる事を許せない者達は志を共にし、最終手段を取る事にした。
相手が、領地内でも突出した実力者──三騎士団の者達であろうとも。
圧倒的兵差の戦いを覆すような実力者が集う敵陣との、勝利の見えない戦いであろうとも。
彼等はその命を懸ける。そこで命を落とそうとも、それが無駄な死ではないと彼等は確信しているから。
(……──もしこの戦いで死のうとも、目的が達成されずとも、領民《オレたち》が命懸けてまで抗議したって事実は絶対に消えない。その事実が、あの裏切り者と余所者を伝統あるこの地から排除するだろう)
決起集会の中心に立つ大柄の男は、ニヤリと鋭く笑う。
この戦いは多数の犠牲を払うものの、どう転がっても彼等にとって望ましい結末に辿り着く。
どちらにせよ……ディジェル領の裏切り者には死か追放しか残されていない。
それこそが、セレアード自身が選んだ道の終着点なのだ。
こうして夜は明けてゆく。
しかしこの半日後、彼等の予想を遥かに上回る事態が起き、ディジェル領は混乱の渦に巻き込まれる事になるのだ──……。