だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
♢♢
うっ……何だろう、体が重く感じる。
金縛り? 私が? だけどそんなもの、いくらでも対処出来る筈だし…………もしかして病気とか?
風邪引いたのかなぁ。領地に入ってからというものの、妙に背中がゾワゾワするし。
じゃあこれって風邪なのかなー……明日から忙しいのになー……と、夢の中で考える私。
ところで、何でこんなに夢の中ではっきりと思考出来てるんだろう。もしかして久々にあの悪魔が? と思ったものの、あの時とは感覚が明らかに違う。
じゃあこれは一体…………。
「んっ、おも……!」
少しずつ瞼を開ける。薄らと明るくなる視界で、何か、物陰が動いている。
悪意や敵意を持つ何かであれば、流石に気づけるから恐らく刺客などではない。ならば今、私の視界に映るこの物体は一体──。
「ワフッ!」
……うん? なん…………何だろう、この音。というか声。まるで動物のような……。
「──犬?」
「ワンッ! ゥワンッ!」
え、犬いるやん。
目が覚めたら、体の上には随分と愛くるしい犬がいた。それも、私の身長の半分程はある大きさの犬。
いやどこからやって来たのよ。……というか何か懐かしいわねこれ、猫シルフもこんな感じで現れてたなぁ。
「……もしかしてシルフだったりする? また私に恥ずかしい事させようとしてる?」
「クゥン?」
体を起こし、目の前の真っ白な犬の顔を撫でる。当時を思い出して警戒する私の問いかけに、犬は私の言葉を理解しているかのように首を傾げた。
シルフじゃないの? でも何でかな。この犬を触ってると、
「妙に安心出来るんだよなぁ……何でだろう」
言うなれば、そう。実家のような安心感。
それにしても人懐っこいなぁこの子。撫でても抱き締めても全然暴れないし、寧ろ受け入れてくれてるような気がする。
うむ、実によいモフモフだ……。
心無しか、この犬から懐かしい匂いがする。でもそれが何の匂いかは分からなくて、ただただ心落ち着く匂いだと言う事だけが、答えとして心に残る。
「ねぇ、あなたはどこから来た子なの? これまでの数日間では見なかったから、この城の子……って訳でもなさそうだし」
犬のつぶらな瞳を見つめ、その頭を撫でながらもう一度問いかけてみる。
その際犬の頭に謎の塊を発見した。怪我してるのかな、と焦り毛を掻き分けてみたところ、そこには小さいが角のようなものが。
わ〜〜っ、角だぁ! 犬に角生えてる〜〜っ! なんというファンタジー。
「クゥ〜……ワォンッ! ワンッ!」
犬は天を仰いで吠えた。その後、褒めてと言わんばかりのキラキラした瞳でこちらを見てくる。
ふとナトラを思い出しながら、私は犬の頭を撫でつつ考えた。
──いやどこから来たか全然分からん。可愛いからとりあえず撫でてるけど、何も分からん。
「あ。ちょっと待って。角が生えた犬と言えば……狛犬、とか?」
頭で豆電球が光った。そこで思い出したのがこれだった。確か狛犬って頭に角が生えてるのよね……あんまり詳しくないけど。
仮にこの子が狛犬だったとしよう。いや狛犬だったらもう少し獅子っぽい見た目の筈だけど、とりあえず狛犬という事で。
何でこんな所に狛犬がいるの? 狛犬って神社を守る霊獣とか神使でしょう、何でこんな所にいるの? もっとこう……せめて霊験あらたかな所にいなきゃでしょう!
「ゥウ…………ワンッ」
「あっ、ちょっともう……まだ顔洗ってないんだから舐めちゃ駄目だってば」
私の悩みなど知らぬ存ぜぬとばかりに、犬はとても懐いてくれている。
はぁ、もう、いいか。この子がどこから来た何の犬なのか分からないけれど……そんなのもうどうでもいいや。
こんなにも懐いてくれてるんだから、せっかくだし飼ってあげたいな。猫も好きだけど犬も好きなんだよねぇ、私。
「ローズとレオにあなたの事聞いて、大丈夫そうだったらあなたを引き取ろうと思うのだけど……私のペットになってくれる?」
「ゥワンッ!」
「ふふ、ありがとう。じゃあ名前も考えなきゃ」
犬は元気のいい返事と共に、とても尻尾を振っていた。多分これは喜んでくれているのだろう。
それにしても真っ白だな……真っ白……外は一面の銀世界……。
「──よし、あなたの名前は雪ね。よろしくね、セツ」
「ゥウワォーーンッ!」
「ちょ、おもっ……!!」
名前を気に入ってくれたのだろうか。セツは尻尾を凄まじい速度で振り、飛びついて来たのだ。
寝起きの私にそれを耐えられる訳がなく、そのまま寝台《ベッド》に体を沈ませた。そして、セツに顔中がベトベトになるぐらい舐め回される。
しかし我ながら安直な名付けだな……真っ白で外が雪景色だからセツって。この子が喜んでくれてるから別にいいか。
その後数分間セツと戯れた後、私は顔を洗って寝間着のまま日課の素振りを行う。その間セツは大人しくおすわりして待ってくれていた。とても利口な犬である。
その後は隣の小部屋に備え付けられた浴槽で軽く汗を流し、自分でドレスを着て髪を整える。乱れた布団やシーツもひとまず現状復帰させ、一息つく。
やっぱりこういうのも自分がやると楽よね。
どこに行こうとも、そこの侍女が世話を焼きたがるのだが……人に触れられるのが苦手だと適当に話すと、大抵誰もが手を引いてくれるのだ。
表向きには、連れの侍女ことルティに全て任せてる事になってるけどね。
ハイラがいなくなってから何かと自分の世話を自分でやる事が増えたので、今や私も、ある程度自分一人でこなせるようになった。
なら別に、信頼の置けない人に自分の世話をさせる必要無いよね。
世話される事には慣れてるし、異論は無いんだけど……立場上どうしても誘拐やら暗殺やらの可能性がある以上あまり自分のテリトリーに他人を踏み込ませたくないというのもある。
とは言いつつも。一国の王女ともあろう者があんなだらしない格好で就寝し、起き抜けに素振りしてるなんて事実を世間に知られたくないだけなんだよね。
刺客対策とか……素振りの音が外に漏れないようにと、実は毎晩こっそり結界を張っていたりもする。
この旨はイリオーデ達にも伝え、『だから絶対に不寝番とかしないでね』と釘を刺した。こんな真冬なのに、あの人達は放っておいたら一晩中部屋の前とかで不寝番するからさぁ。
やるなって命令しなきゃ止められないのよ……。
うっ……何だろう、体が重く感じる。
金縛り? 私が? だけどそんなもの、いくらでも対処出来る筈だし…………もしかして病気とか?
風邪引いたのかなぁ。領地に入ってからというものの、妙に背中がゾワゾワするし。
じゃあこれって風邪なのかなー……明日から忙しいのになー……と、夢の中で考える私。
ところで、何でこんなに夢の中ではっきりと思考出来てるんだろう。もしかして久々にあの悪魔が? と思ったものの、あの時とは感覚が明らかに違う。
じゃあこれは一体…………。
「んっ、おも……!」
少しずつ瞼を開ける。薄らと明るくなる視界で、何か、物陰が動いている。
悪意や敵意を持つ何かであれば、流石に気づけるから恐らく刺客などではない。ならば今、私の視界に映るこの物体は一体──。
「ワフッ!」
……うん? なん…………何だろう、この音。というか声。まるで動物のような……。
「──犬?」
「ワンッ! ゥワンッ!」
え、犬いるやん。
目が覚めたら、体の上には随分と愛くるしい犬がいた。それも、私の身長の半分程はある大きさの犬。
いやどこからやって来たのよ。……というか何か懐かしいわねこれ、猫シルフもこんな感じで現れてたなぁ。
「……もしかしてシルフだったりする? また私に恥ずかしい事させようとしてる?」
「クゥン?」
体を起こし、目の前の真っ白な犬の顔を撫でる。当時を思い出して警戒する私の問いかけに、犬は私の言葉を理解しているかのように首を傾げた。
シルフじゃないの? でも何でかな。この犬を触ってると、
「妙に安心出来るんだよなぁ……何でだろう」
言うなれば、そう。実家のような安心感。
それにしても人懐っこいなぁこの子。撫でても抱き締めても全然暴れないし、寧ろ受け入れてくれてるような気がする。
うむ、実によいモフモフだ……。
心無しか、この犬から懐かしい匂いがする。でもそれが何の匂いかは分からなくて、ただただ心落ち着く匂いだと言う事だけが、答えとして心に残る。
「ねぇ、あなたはどこから来た子なの? これまでの数日間では見なかったから、この城の子……って訳でもなさそうだし」
犬のつぶらな瞳を見つめ、その頭を撫でながらもう一度問いかけてみる。
その際犬の頭に謎の塊を発見した。怪我してるのかな、と焦り毛を掻き分けてみたところ、そこには小さいが角のようなものが。
わ〜〜っ、角だぁ! 犬に角生えてる〜〜っ! なんというファンタジー。
「クゥ〜……ワォンッ! ワンッ!」
犬は天を仰いで吠えた。その後、褒めてと言わんばかりのキラキラした瞳でこちらを見てくる。
ふとナトラを思い出しながら、私は犬の頭を撫でつつ考えた。
──いやどこから来たか全然分からん。可愛いからとりあえず撫でてるけど、何も分からん。
「あ。ちょっと待って。角が生えた犬と言えば……狛犬、とか?」
頭で豆電球が光った。そこで思い出したのがこれだった。確か狛犬って頭に角が生えてるのよね……あんまり詳しくないけど。
仮にこの子が狛犬だったとしよう。いや狛犬だったらもう少し獅子っぽい見た目の筈だけど、とりあえず狛犬という事で。
何でこんな所に狛犬がいるの? 狛犬って神社を守る霊獣とか神使でしょう、何でこんな所にいるの? もっとこう……せめて霊験あらたかな所にいなきゃでしょう!
「ゥウ…………ワンッ」
「あっ、ちょっともう……まだ顔洗ってないんだから舐めちゃ駄目だってば」
私の悩みなど知らぬ存ぜぬとばかりに、犬はとても懐いてくれている。
はぁ、もう、いいか。この子がどこから来た何の犬なのか分からないけれど……そんなのもうどうでもいいや。
こんなにも懐いてくれてるんだから、せっかくだし飼ってあげたいな。猫も好きだけど犬も好きなんだよねぇ、私。
「ローズとレオにあなたの事聞いて、大丈夫そうだったらあなたを引き取ろうと思うのだけど……私のペットになってくれる?」
「ゥワンッ!」
「ふふ、ありがとう。じゃあ名前も考えなきゃ」
犬は元気のいい返事と共に、とても尻尾を振っていた。多分これは喜んでくれているのだろう。
それにしても真っ白だな……真っ白……外は一面の銀世界……。
「──よし、あなたの名前は雪ね。よろしくね、セツ」
「ゥウワォーーンッ!」
「ちょ、おもっ……!!」
名前を気に入ってくれたのだろうか。セツは尻尾を凄まじい速度で振り、飛びついて来たのだ。
寝起きの私にそれを耐えられる訳がなく、そのまま寝台《ベッド》に体を沈ませた。そして、セツに顔中がベトベトになるぐらい舐め回される。
しかし我ながら安直な名付けだな……真っ白で外が雪景色だからセツって。この子が喜んでくれてるから別にいいか。
その後数分間セツと戯れた後、私は顔を洗って寝間着のまま日課の素振りを行う。その間セツは大人しくおすわりして待ってくれていた。とても利口な犬である。
その後は隣の小部屋に備え付けられた浴槽で軽く汗を流し、自分でドレスを着て髪を整える。乱れた布団やシーツもひとまず現状復帰させ、一息つく。
やっぱりこういうのも自分がやると楽よね。
どこに行こうとも、そこの侍女が世話を焼きたがるのだが……人に触れられるのが苦手だと適当に話すと、大抵誰もが手を引いてくれるのだ。
表向きには、連れの侍女ことルティに全て任せてる事になってるけどね。
ハイラがいなくなってから何かと自分の世話を自分でやる事が増えたので、今や私も、ある程度自分一人でこなせるようになった。
なら別に、信頼の置けない人に自分の世話をさせる必要無いよね。
世話される事には慣れてるし、異論は無いんだけど……立場上どうしても誘拐やら暗殺やらの可能性がある以上あまり自分のテリトリーに他人を踏み込ませたくないというのもある。
とは言いつつも。一国の王女ともあろう者があんなだらしない格好で就寝し、起き抜けに素振りしてるなんて事実を世間に知られたくないだけなんだよね。
刺客対策とか……素振りの音が外に漏れないようにと、実は毎晩こっそり結界を張っていたりもする。
この旨はイリオーデ達にも伝え、『だから絶対に不寝番とかしないでね』と釘を刺した。こんな真冬なのに、あの人達は放っておいたら一晩中部屋の前とかで不寝番するからさぁ。
やるなって命令しなきゃ止められないのよ……。