だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
♢♢♢♢
(──確か、この辺りにあった筈なんだけど……あぁ、あったこれだ)
一人で戦う覚悟を決めたレオナードがまず向かった先は、城の物置部屋。その一角で埃を被った箱を取り出し、中を見た。
その中身は拡声魔導具。それは大範囲にその声を届ける事の出来る代物。ディジェル領では主に魔物の行進の際に使われ、魔物の大群を相手取る為の指揮に活躍する。
(これと音の魔力があれば、きっと……)
レオナードは拡声魔導具を手に走り出した。人並みの身体能力と人並みの体力しか持たない彼は、寒さから何度も白い息を吐いて城を囲む外壁の櫓を目指した。
肩で息をしながら外壁内部の階段を駆け登り、櫓にて見張りをする兵士に「どいて」と告げて街を見下ろす。
(外壁と城の破壊で領民達も混乱している。壊れた外壁周辺には人が集まってきてるし……抗議に出ていた人達はこれを好機と城内に侵入しているな)
息を整えながら、レオナードは領民の様子を観察していた。
「れ、レオナード様。一体何が起きて……?!」
「しかしどうしてレオナード様がこちらに?」
レオナードの背中にとにかく疑問をぶつけるのは見張りの兵士。領民による示威運動だけでなく、外壁諸共城を破壊・襲撃されたこの状況にも関わらず、彼等は自らに与えられた役目を全うし、ここで見張りを続けていた。
故に、彼等は今この地で何が起きようとしているのかを全く把握出来ていなかった。
「いいから、今は静かにしてて。これから全部説明するから」
レオナードは深呼吸をして、拡声魔導具を起動する。それを口の前に掲げ彼は口を開く。音の魔力を使用した聞いた者の心に直接届く言葉が、拡声魔導具に乗せられ街中に拡散する。
《───聞け。一度口を閉ざし武器を下ろせ。今は領民同士で争ってる場合じゃないんだ、そんな無駄な事はするな》
領民達はその声を聞いた瞬間、無意識に口を閉ざして武器を下ろした。そして、空から降り注ぐレオナードらしからぬ彼の言葉に耳を傾けていた。
《今から俺達が恥じるべき事実を伝える。我が領にとっての賓客たる王女殿下と、俺の妹ローズニカが何者かによって攫われた。先の轟音──城の破壊を実行した襲撃者達が犯人だと思われる。このような状況で、俺達が何をすべきか分かるか?》
アミレスとローズニカが誘拐された事を知った領民達の顔が青ざめる。帝国唯一の王女と、領地の歌姫の誘拐事件……その事の重大性を彼等も理解したらしい。
《抗議か? 内乱か? 弾圧か? 違うだろ。俺達が今一番やるべき事は王女殿下とローズニカの救出だ! 何があろうとあの二人を助け出し、このような事件を起こした不届き者を法の下に裁く。それこそが、今の俺達がやるべき事だろ!!》
その魔力《ことば》は人々の心に直接届く。どれだけ疑り深い者でも、純粋な者でも、誰もが等しくレオナードの声を聞いていた。
それだけ、レオナードの言葉は人々の心に訴えかけるような感情的なものだった。それが音の魔力で力を増して軽い精神干渉をも起こした為、誰もがレオナードの言葉に意識を集中させていた。
《本来俺にはこうやって皆に語りかける勇気も、偉そうに命令する権利も無い。だけど……それでも今ばかりは俺の行動を許し、支えて欲しい。俺は、何があっても王女殿下とローズニカを助け出したいんだ! 一秒でも早く彼女達を取り戻したいんだ! だから頼む──……俺に皆の力を貸してくれ!!》
曰く、この地で初めに妖精の祝福を受けたのは一人の天才だったと言う。
その者は統治者として君臨し、やがてその地に生きる者達にも自身と同じ様に祝福を与えて欲しいと、仲のいい妖精に頼んだ。
妖精は大好きな人間の為にと土地そのものに祝福を与え、そこに生まれる人間にも祝福が与えられるようにしてあげた。その恩を忘れさせないとばかりに、土地の民が統治者一族に服従するよう祝福に小細工までして。
そのような過去があり、ディジェル領の民はテンディジェルの一族の言葉に無条件で従っていたのだが……それは時を経て効果を失っていた。
しかし。今ここに、始まりの統治者と同等かそれ以上の天才が現れた。その才能をようやく自覚し、ここに活用せんとする者が。
まさに統治者の再来。領民にとって……この地の者達にとって──レオナードは、服従しなくてはならない存在となったのだ。
人々は、静かに跪いた。それは他ならぬレオナードへの服従の証。彼の言葉に従いたいと心より思った、領民達の本能から来た行動。
レオナードは見渡す限り目に映る、何故か跪く領民達に若干戸惑いつつも話を続けた。
《そもそも俺には軍事執行権が無い。だから俺はここに宣言する。型破りで順序が何もかも間違っているけれど……我が父セレアード・サー・テンディジェルに代わり、レオナード・サー・テンディジェルが大公位を継承する!》
彼の覚悟が詰まったその言葉に人々は歓喜した。領民達にとって服従すべき相手が、彼等の悩みの種をも解消して統治者になると宣言したのだから。
それにより示威運動は中止。内乱は未然に防がれ、更にはアミレスとローズニカを救い出す為に領民達はレオナードの下一つとなった。
そう、これはまさに──アミレスが思い描いていた通りの展開となったのだ。
一連の話を聞いて、ログバードは小さく口角を上げる。
「フ……ようやくか、レオ。待ち侘びたぞ」
誰よりも早くレオナードの才能を見抜いていたログバードは、彼の才能がようやく開花した事を知って、嬉しそうな声を漏らした。
(──確か、この辺りにあった筈なんだけど……あぁ、あったこれだ)
一人で戦う覚悟を決めたレオナードがまず向かった先は、城の物置部屋。その一角で埃を被った箱を取り出し、中を見た。
その中身は拡声魔導具。それは大範囲にその声を届ける事の出来る代物。ディジェル領では主に魔物の行進の際に使われ、魔物の大群を相手取る為の指揮に活躍する。
(これと音の魔力があれば、きっと……)
レオナードは拡声魔導具を手に走り出した。人並みの身体能力と人並みの体力しか持たない彼は、寒さから何度も白い息を吐いて城を囲む外壁の櫓を目指した。
肩で息をしながら外壁内部の階段を駆け登り、櫓にて見張りをする兵士に「どいて」と告げて街を見下ろす。
(外壁と城の破壊で領民達も混乱している。壊れた外壁周辺には人が集まってきてるし……抗議に出ていた人達はこれを好機と城内に侵入しているな)
息を整えながら、レオナードは領民の様子を観察していた。
「れ、レオナード様。一体何が起きて……?!」
「しかしどうしてレオナード様がこちらに?」
レオナードの背中にとにかく疑問をぶつけるのは見張りの兵士。領民による示威運動だけでなく、外壁諸共城を破壊・襲撃されたこの状況にも関わらず、彼等は自らに与えられた役目を全うし、ここで見張りを続けていた。
故に、彼等は今この地で何が起きようとしているのかを全く把握出来ていなかった。
「いいから、今は静かにしてて。これから全部説明するから」
レオナードは深呼吸をして、拡声魔導具を起動する。それを口の前に掲げ彼は口を開く。音の魔力を使用した聞いた者の心に直接届く言葉が、拡声魔導具に乗せられ街中に拡散する。
《───聞け。一度口を閉ざし武器を下ろせ。今は領民同士で争ってる場合じゃないんだ、そんな無駄な事はするな》
領民達はその声を聞いた瞬間、無意識に口を閉ざして武器を下ろした。そして、空から降り注ぐレオナードらしからぬ彼の言葉に耳を傾けていた。
《今から俺達が恥じるべき事実を伝える。我が領にとっての賓客たる王女殿下と、俺の妹ローズニカが何者かによって攫われた。先の轟音──城の破壊を実行した襲撃者達が犯人だと思われる。このような状況で、俺達が何をすべきか分かるか?》
アミレスとローズニカが誘拐された事を知った領民達の顔が青ざめる。帝国唯一の王女と、領地の歌姫の誘拐事件……その事の重大性を彼等も理解したらしい。
《抗議か? 内乱か? 弾圧か? 違うだろ。俺達が今一番やるべき事は王女殿下とローズニカの救出だ! 何があろうとあの二人を助け出し、このような事件を起こした不届き者を法の下に裁く。それこそが、今の俺達がやるべき事だろ!!》
その魔力《ことば》は人々の心に直接届く。どれだけ疑り深い者でも、純粋な者でも、誰もが等しくレオナードの声を聞いていた。
それだけ、レオナードの言葉は人々の心に訴えかけるような感情的なものだった。それが音の魔力で力を増して軽い精神干渉をも起こした為、誰もがレオナードの言葉に意識を集中させていた。
《本来俺にはこうやって皆に語りかける勇気も、偉そうに命令する権利も無い。だけど……それでも今ばかりは俺の行動を許し、支えて欲しい。俺は、何があっても王女殿下とローズニカを助け出したいんだ! 一秒でも早く彼女達を取り戻したいんだ! だから頼む──……俺に皆の力を貸してくれ!!》
曰く、この地で初めに妖精の祝福を受けたのは一人の天才だったと言う。
その者は統治者として君臨し、やがてその地に生きる者達にも自身と同じ様に祝福を与えて欲しいと、仲のいい妖精に頼んだ。
妖精は大好きな人間の為にと土地そのものに祝福を与え、そこに生まれる人間にも祝福が与えられるようにしてあげた。その恩を忘れさせないとばかりに、土地の民が統治者一族に服従するよう祝福に小細工までして。
そのような過去があり、ディジェル領の民はテンディジェルの一族の言葉に無条件で従っていたのだが……それは時を経て効果を失っていた。
しかし。今ここに、始まりの統治者と同等かそれ以上の天才が現れた。その才能をようやく自覚し、ここに活用せんとする者が。
まさに統治者の再来。領民にとって……この地の者達にとって──レオナードは、服従しなくてはならない存在となったのだ。
人々は、静かに跪いた。それは他ならぬレオナードへの服従の証。彼の言葉に従いたいと心より思った、領民達の本能から来た行動。
レオナードは見渡す限り目に映る、何故か跪く領民達に若干戸惑いつつも話を続けた。
《そもそも俺には軍事執行権が無い。だから俺はここに宣言する。型破りで順序が何もかも間違っているけれど……我が父セレアード・サー・テンディジェルに代わり、レオナード・サー・テンディジェルが大公位を継承する!》
彼の覚悟が詰まったその言葉に人々は歓喜した。領民達にとって服従すべき相手が、彼等の悩みの種をも解消して統治者になると宣言したのだから。
それにより示威運動は中止。内乱は未然に防がれ、更にはアミレスとローズニカを救い出す為に領民達はレオナードの下一つとなった。
そう、これはまさに──アミレスが思い描いていた通りの展開となったのだ。
一連の話を聞いて、ログバードは小さく口角を上げる。
「フ……ようやくか、レオ。待ち侘びたぞ」
誰よりも早くレオナードの才能を見抜いていたログバードは、彼の才能がようやく開花した事を知って、嬉しそうな声を漏らした。