だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

276,5.ある歌姫の決心

 どうして、私は何も出来ないのでしょうか。
 なんて無力で無価値な存在なのでしょうか。

 アミレスちゃんの話を聞いて、私は自分自身の無力さに辟易した。
 お兄様から聞いていたから、領民の皆がお父様とお母様の事で怒っているのは知っていた。でも、まさか内乱を起こそうとしていたなんて。
 下手すれば内乱に私も巻き込まれて大怪我を負う可能性があるからって、アミレスちゃんは私を連れ出した。
 そしてあの轟音も、侵入者も全てアミレスちゃん達の仕業なのだと聞いて……私は酷く困惑した。どうしてそんな事をしたの? と。
 だけどすぐにその気持ちを上回る感情が心に生まれた。

「……ごめんね、アミレスちゃん」

 気がつけば、求めていた言葉があっさりと口から溢れ出ていた。私は彼女にそんな事をさせてしまった心苦しさを、今になってようやく感じたのだ。
 アミレスちゃんは私よりも小さな女の子なのに。とっても心優しいお姫様なのに。
 ……私が、彼女を戦場に立たせてしまった。
 いくら高貴なる血筋の方と言えども、事実彼女がとても強くても。彼女は本来国を挙げて守られるべき存在なのに。
 この領地のいざこざに巻き込んで、挙句解決の為に利用し戦わせる事となってしまった。その事が、負い目となって心を抉る。

「私達の問題に、アミレスちゃんを巻き込んでごめんなさい。本当は私達が解決しなきゃいけない事なのに、貴女に押し付けてしまってごめんなさい」

 深く頭を下げて、私は限りなく誠意を込めて謝った。
 どれだけ負い目を感じようとも、今の私にはこうして謝る事しか出来ない。
 彼女が私達を思ってしてくれた事はとても嬉しい事だし、実際とても助かる。だけどやっぱり手放しでは喜べないの。
 だって好きな人が私達の為に戦うと言ってくれたのだ。物語が大好きな身としては胸がときめく状況だと思うけど……でも今は全然胸がときめかない。
 彼女を危ない場所に立たせてしまった負い目が、そのときめきを全て無かった事にしているのだろう。
 今は、彼女への申し訳無さが絶え間なく押し寄せてくる。

「大事な友達を守るのは、当然の事でしょう?」

 そんな私に、アミレスちゃんは優しく微笑みかけてくれた。

「アミレスちゃん……っ」
「だから私達の行動を負担に思わないで。こんなの、私達が勝手にやってる事なんだから」

 涙が溢れ出す。あの日と同じように、彼女は私の事を抱き締めて宥めてくれた。
 アミレスちゃんの優しさに包まれて、罪悪感も浄化されてゆくようで……私は、そんな優しい彼女に感謝の言葉一つも言えない自分が嫌になった。

「ありがとう、私達を守ってくれてありがとう……!」

 彼女を巻き込んだ私にこんな事を言う資格があるのかどうか分からない。
 だけど、私はどうしても今感謝の言葉を伝えたかった。私達を守ろうと思い行動してくれた事が、本当に嬉しかった。
 私とお兄様の事を気にかけてくれてありがとう。助けてくれてありがとう。守ってくれてありがとう。受け入れてくれてありがとう。優しくしてくれてありがとう。
 全身を抉る茨に足を搦めとられ、底辺で身動きも取れずに破滅を待っていた私に……手を差し伸べてくれてありがとう。
 私とお兄様に、希望をくれてありがとう。

 アミレスちゃんへの想いを強くして、また恋焦がれる。
 男装の麗人となったアミレスちゃんに見蕩れたり、衝撃の事実に愕然としたり。とにかくアミレスちゃんが無防備過ぎて心配になってきた。
 アミレスちゃんは自分の魅力を分かってない。街ですれ違えば誰もが振り返り視線を奪われるような美貌に、空より広く海より深い優しさを持つとても魅力的な女の子。
 そんなの、誰だって好きになってしまう。男の人は狼なんだから、アミレスちゃんが手玉に取られないか心配でならないわ。

 どうしてあんなに無防備なのかなぁ……うちの騎士団と渡り合えるぐらい強いのに、どうして? あの無自覚無防備っぷりは…………なんだろう、まるで自分になんて誰も興味無いって言いたげな。
 そんな有り得ない話があるのだろうか。アミレスちゃん程の魅力的な女の子が、全くの無自覚なんて。周りの人達はこれまで一体何をしていたのかな。
 なんて頭を悩ませていたのだけど、アミレスちゃんの騎士と侍女(男性だったらしい)の方々の発言に、私は引い──……唖然とした。
 そして強く思ったのだ。アミレスちゃんを守らないと! アミレスちゃんの純潔は私が守る!! と。

 それから少しして、アミレスちゃんの協力者だという人達を紹介して貰ったり、やたらとアミレスちゃんとの距離が近いルカという声の大きい人も紹介された。
 どうしてこう、アミレスちゃんの周りには容姿の整った男性が多いのかなとモヤモヤしつつ、ついに迎えた戦いの時。
 アミレスちゃんと二人で話していた時に、ルティさんが大軍が迫って来ていると彼女に伝えに来た。
 それまでは普通に話していたのに、その報告を聞いた途端、アミレスちゃんの表情が一変した。冷たく、勇ましい顔つきとなった彼女はその場で何か魔法を発動し、くるりとこちらを振り向いた。
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