だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

277.星は流れ落ちる

 ついに戦いが始まった。
 既に一度戦う姿を領民に見られている私とイリオーデとアルベルトは、得意の武器ではあるものの普段とは少し違った戦い方や動きを意識していた。
 だがそれでも、やはり私の従者達は強かった。
 少しやりずらさを感じている筈なのに、二人はそんな様子を一切感じさせぬ戦いを繰り広げていた。

 私・イリオーデ・アルベルト・カイルで正面から来る大軍を相手にし、右翼からの敵はヘブン・ノウルー・ホウミー、左翼からの敵はラスイズ・マノ・オバラが担当する事になった。
 なお、カイルは時々魔法で挟撃対策班に支援したりもしている。
 これだけの人数差がありながら、未だ健闘を演じる事が出来ているのもひとえに皆のお陰である。
 私やイリオーデは一度見られているからあまり魔法を使えないのだけど、その代わりとばかりにカイルやアルベルトやヘブンが魔法を駆使して戦ってくれているようなのだ。

 カイルは……まあ、いつも通りめちゃくちゃな魔法をどんどん連発していた。あんなに初っ端から全開で魔力は大丈夫なのかな……。
 アルベルトは宣言通り影分身をして、その分身達が別々の武器を手に暗殺未遂を繰り返している。しかし困った事に、どの分身も十人ぐらい倒すと投げたボールを取って来た犬のように、褒めて欲しそうに私の元にやってくるのだ。

 こんな状況で毎回言葉を考える余裕もなく、私は最初こそ『流石! 天才!』と褒めていたのだが、回を重ねるごとに『えらい!』とか『すごい!』とか……どんどん適当になっていってしまった。
 アルベルトがそのような事をしているからか、イリオーデが途中から張り合うように気絶した領民達の山を作るようになった。
 イリオーデは毎回褒めて褒めてと駆け寄ってくるタイプではないのだが、事が終わってから褒めて欲しいと無言で訴えて来るので……戦いが終わってから、成果を上げて偉い。と褒めてあげなければ。

 ヘブン達の方は、カイルがたまに様子を教えてくれるのだ。
 なんでもヘブンがノウルーの水の魔力を活用し、鏡の魔力でそれを鏡にしてはありとあらゆる魔法攻撃を反射させ、物理で迫ってくる敵を次々ミラーハウスに閉じ込めるなんて芸当をやっているそうなのだ。
 なんとも恐ろしい話である。その他の敵は次々とホウミーが弓矢で撃ち抜いて、傷口から体に変な植物を寄生させているとか。

 続いてラスイズ達の方はというと……ほとんどオバラの独壇場らしい。風の魔力を活用して身の丈程ある大剣を振り回し、竜巻のようなものさえも起こしているとか。
 オバラを狙った魔法攻撃はラスイズが火の魔力で相殺し、物理攻撃はマノが二本の槍で返り討ちにしているようなのだ。
 本当に、分かってはいたけど強すぎないかしらスコーピオン……こんな人達がチートアイテムを手に入れて強化されたら、そりゃあフォーロイト帝国とハミルディーヒ王国の戦争の代わりとなるテロだって起こせるわよ。
 帝都を混沌の境地に叩き落としただけはあるわ。

「ローズニカ様を返せぇええええ!!」

 ずっと周りを見ていたけど、私も勿論戦ってるよ。
 絶えずこうして領民が斬りかかってくるものだから、

「無理」

 きちんと返事をし、全て一撃で落とす。我ながら律儀というかなんというか……毎度返事する必要、絶対ないよね。
 それにしてもカイルがくれたこの変声魔導具、本当に便利ね。まさかフリードルみたいな声になるとは思ってなかったけど。これがあるから、声を出しても正体はバレなさそうだ。
 アルベルトの影分身やカイルの援護のお陰もあって、案外大軍の相手も何とかやれている。イリオーデも凄い活躍してるし、私の出番はもう無いかなぁ。

「ぐはっ」
「ギャーッ!?」

 後ろから襲いかかって来た人達に、無言で回し斬りをお見舞いする。
 しまった、思い切り胴体切っちゃった……返り血が……。

「……ま、いいか。汚れてもいい服だし」

 覆面にべったりとついた返り血にため息をつき、気を取り直して私も戦いにゆく。
 それにしても、何か違和感を感じる。どうして彼等はこうも無鉄砲……いや、無策に特攻してくるのか。何か作戦があるとは思えない動きで、数打ちゃ当たる戦法のような感じさえもする。
 向こうにはレオがいるのに、そんな事が有り得るのかな。レオならてっきり最短距離でローズを奪還しに来ると思ってたんだけど……今の所、要塞前で特攻して来た人達を返り討ちにするだけで済んでいる。
 とんでもない作戦を仕掛けられているものと思っていたので、少し動揺してしまったぐらいだ。
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