だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

278.星は流れ落ちる2

 あの時の模擬戦とは違う、本気の戦い。一瞬でも気を抜けば殺されてしまいそうな、死の恐怖との戦い。
 相手は騎士団という集団で明らかに不利に思えたが、私の威圧にたじろいだ人達は簡単に倒せたからまだ楽ではあった。
 ただやはり、モルスさん達精鋭はそう簡単にいかなかったので……騎士団員十名強を同時に相手にするなんて状況に陥っていた。

 相手の攻撃を躱し、いなし、弾き、隙をついて攻撃する。怪我しすぎたら皆に怒られるから、怪我だってしないよう気をつけていた。
 かつてない程に全神経を尖らせて、周囲の些細な動きにさえも注視する。気配を感じ、殺気を感じ、死角からの素早い突きも何とか避けた。
 今、私は心からフォーロイトでよかったと思った。
 フォーロイトじゃなかったら、ここまで戦う事が出来なかっただろうから。
 フォーロイトじゃなかったら、死ぬ事以外への恐怖心を捨てられなかっただろうから。

「ッ、何者だ! 何故、我々を同時に相手取れるんだ!」

 模擬戦にもいた、団員のカコンさんがくわっと叫ぶ。
 私がたった一人で彼等の相手をし、かつ着実に一人ずつ倒していっているからだろう。

「さあ──」
「そりゃお前等よりうちのリーダーのが強いからに決まってんだろ?」

 さあな。と答えようとした時、上空から声が降ってきた。まるで、カイルと初めて会ったあの雪の日のように。

「なっ……!?」

 あんた怪我してるのに何戻って来てるのよ!? 私が何の為にあんたを逃がしたと思って……!!

「仲間を犠牲に逃げ出したというのに、のこのこ戻ってくるとはな」
「そりゃあ仲間なんでね。応急手当も済んだんで、仲間の援護に来たって訳だ」

 華麗に着地したカイルの手には、相変わらず狙撃銃が握られている。相手は近距離戦を得意とする騎士なのに、遠距離の武器は相性が悪い。
 それなのにカイルは、モルスさんの前に堂々と立っていた。

「なあ、お前忘れてねーか?」
「は……?」
「俺、チートキャラなんだぜ?」

 心配と不安から明らかに動揺する私に向け、カイルがニヤリと笑う。
 その瞬間。カイルが目にも止まらぬ速さでモルスさんの後ろ──その後方に控えていた騎士団員達の眼前に躍り出た。彼の背には翼が生えており、それで高速移動を可能にしたのだと分かる。

「残念ながら、俺ァ狙撃手(スナイパー)でもただの魔導師《ウィザード》でもないんだわ」

 カイルはその場で鋼の剣を作り、それに風を纏わせ騎士団員達の前で一薙。
 するとそこでは竜巻のような強風が巻き起こり、騎士団員達をいとも容易く空へと吹き飛ばした。

「さっきの仕返しだバーーーカ! お前等も撃ち落とされる痛みと恐怖を味わえ!!」

 何とも大人気ない事を大声で叫び、カイルは狙撃銃型サベイランスちゃんを構え、

「よし、今すぐぶっぱなせ!」
《承認。使用制限解除(プル・ザ・トリガー)──追尾型魔力圧縮弾、発射》

 凄まじい速度と熱を伴う魔力の塊を発射した。なんと四発も。
 ねぇ、カイルさん。毎度の事ながら貴方は何を作ってるの?? 本っ当にチートすぎないかしら!?
 呆然とする私とモルスさんと副団長のザオラースさん。
 遠くの空中では、四名の騎士団員がカイルの放った銃弾に見事撃ち抜かれ、自由落下していく姿が目に入る。
 ザオラースさんが落ちてゆく彼等を青ざめた顔で見ていた。しかし、どうやらカイルが死なないように配慮したらしく、彼等は一命を取り留めてはいるようだ。

 そんな仲間達の元に駆け出そうとして、どこか躊躇う様子を見せた彼に、モルスさんが「行け。あいつ等を頼んだぞ、ザオラース」と命じる。
 ザオラースさんは「っ、はい!」と駆け出して、すれ違いざまにカイルを仇を見るような目で睨んでいた。
 ザオラースさんがこの場から離脱し、いよいよ残るはモルスさんと数名の団員だけとなった。
 こんな状況でも決して冷静さを欠かないモルスさんの横をカイルは悠然と歩いて、私のすぐ傍まで戻って来た。
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