だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

279.星は流れ落ちる3

「それ止血とは言わんだろ……絶対体悪くするぞ」
「血が止まればこっちのものでしょ? それなりに傷口が大きいから、出血量だけが問題なんだし」
「お前さぁ…………はぁ……」

 凍らされた私の腹部を一瞥し、カイルはため息と共に項垂れた。

「そんで? この後はどうするつもりなんだよ。まさかその怪我であの騎士と戦うつもりじゃねぇだろうな」
「……それなんだけど、あの人とは戦わないわ」
「よーし絶対アイツの前には降ろさ──え?」

 彼の反応が少し気に障ったものの、とりあえず訳を話す事にした。

「さっきの爆発音、貴方も聞いてたでしょ? 煙の上がった場所……確かイリオーデ達がいた場所なの。まだ煙でよく見えないから、ひとまずは彼等の元に向かいたい。送ってくれる?」

 カイルに頼む以外、私がイリオーデ達の元に向かう手段が今はない。だからこのまま送ってくれないかと、覆面の隙間から見えるカイルの瞳に訴えかける。

「そういう事か…………はぁ、オーケイ任せろ。色々と言いたい事はあるが、今はお前の望み通りアイツ等の所に連れてってやる」
「っ! ありがとう、カイル」

 やれやれと言いたげに肩を落とし、カイルは私の申し出を了承してくれた。

「この俺をタクシーにするたァ、高くつくぜ?」
「チートオブチートのタクシーなんて畏れ多いわね」

 翼を羽ばたかせて、カイルはゆっくりと降下していく。土煙と黒煙が混ざり蔓延する場所に飛び込み、煙に噎せながらも私達は地面に降り立った。
 視界が悪く、あまりよく見えないのだが……それでも見渡す限り地面には大勢の怪我人が重なり合い倒れていた。
 ……この中に、イリオーデやアルベルトがいたらと思うと。──少しでも早く見つけて、手当しないと。

「そんじゃ、俺は一旦ここで別れるから。騎士達の目的は俺みたいだし、数も減ったから空飛んで逃げ回ってみる」
「無茶しないでね。貴方も、さっきかなりの攻撃を食らってたんだから」
「へーきへーき。怪我つってもお前よかマシだし。お前こそ大怪我してるんだから無茶するなよ」

 カイルはそう言って私の頭をぽんぽんと叩いた。一体何なんだと眉を顰めていた時、グイッと強く頭を押された。

「ちょっ、何す……!」
「──なぁ、スミレ。これからもさ、たまにでいいからルカって呼んでくれよ」
「はあ? いきなり何言って……というかこの腕どけてよ」
「何となく、こっちで呼ばれたいって思っただけ。チートオブチートタクシーの代金はこれで頼んだ」

 意味不明な言葉を残して、カイルはまた空へと飛んでいった。その際の風で煙が押し流され、少し視界がよくなった。
 それにしても、急になんなの……? いつでもどこでも正体を隠す為……とか? カイルにもようやく危機感が芽生えたのかしら。もう手遅れだと思うけど。

「とにかく二人を捜さなきゃ!」

 本来の目的を思い出し、私は走り出した。
 視界が悪くいつどこから敵が現れるかも分からない状況なので、とにかく周囲への警戒は怠らず、いつでも白夜を振れるよう鞘と白夜をそれぞれ持ちながら走っていた。
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