だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

281.星は流れ落ちる5

 だが、どうしてだろう。思わず目を細めてしまうような眩しい光が発生したのに、イリオーデから聞いたような音や熱や衝撃波は何一つとして、私達に届かない。
 どうして──? そう、言葉が零れそうになった時。

「───まったく……どうしてこう、君は目を離した隙にいつも危険な目に遭っているんだ?」

 とても聞き覚えのある、温かな声が私の耳に届いた。それはこの場にいる筈のない、大事な大事な……私の、友達の声だった。

「しる、ふ……?」

 ゆっくりと瞼を開き、まだ光にチカチカとする視界を広げる。
 するとそこには、七色に煌めく長髪をふわりと舞わせる、星空の瞳の美青年が立っていた。
 彼はにこりと微笑み、

「うん、ボクだよ。ようやく会えたね、アミィ」

 私をぎゅっと抱き締めた。その声音も、温かさも、全部がよく知るものだった。
 ああ──このヒトは、本当にシルフなんだ。

「本当に……こうして、この手で君に触れ抱き締められる日をどれだけ心待ちにしていた事か」

 覆面越しに私の頭を撫でて、シルフは熱っぽい声を零す。

「これが、シルフ様なのか……?」
「猫じゃない……」

 後方から、イリオーデとアルベルトの困惑が聞こえて来た。私が迷わず呼んだシルフという名に驚いているのだろう。

「猫は世を忍ぶ仮の姿……って格好つけても意味無いか。実のところボクにも事情があったってだけ。その事情がようやく片付いたから、こうして本当の姿で人間界(こっち)に来られたんだ」

 一言喋るだけで空気が変わる。そんな威厳や風格を漂わせる口調に、何だか少し違和感を覚えた。私が知らなかったシルフの一面。きっと、これが本当のシルフなんだ。
 ……というか、爆発は!? こんな事してる場合じゃないよね!?

「ねぇシルフ、今ね、周りの人達が自爆特攻を仕掛けて来てるの! だから早く逃げるか何とかしないと!」

 シルフの美しい顔を見上げて、慌てて訴える。しかしシルフはあまり合点の行かない様子で首を傾げた。
 だが程なくして、シルフは「ああ!」と何かを思い出したように声を上げ、

「アミィが危なかったから、慌てて出て来てよく分からないまま適当に止めたけど、あれって自爆しようとしてたんだね。非効率的すぎて考えもしなかったよ」

 ケロッと言ってのけた。
 止めた……止めたってどういう事?? 純粋な疑問から眉を顰めた時、イリオーデとアルベルトも似たような表情になっていた。多分、同じ疑問にぶち当たっている事だろう。
 言われて見れば、先程自爆特攻を仕掛けて来た人達は一人残らず眠るようにその場で倒れている。爆薬に至ってはそもそも消え失せていた。
 一体何が起きたのか……シルフが何をしたのか、私達には分からなかった。

「ところでさ。アミィ、怪我してるよね? それもかなりの大怪我。ボクが分からないとでも思った?」

 ギクッ!

「お腹にあるこの氷塊は何かな〜? 何で君はいつも無理するのかな〜?」

 ギクギクッ!

「王女殿下……大怪我をされていたのですか!?」
「患部をお見せください。今すぐ応急処置の方を!!」

 ああもうどんどん私の怪我が知れ渡っていく! こうなるから隠しておいたのに!!

「応急処置をするにも、ここは空気が悪いから移動しようか。何処か、治療に適した場所とかないの?」
「でしたら、この戦いでの拠点としている要塞が一番マシでしょう。私共で案内しましょうか?」
「そうだね、案内は頼んだ。ボクはアミィを抱えて…………いや、目立つか。適当に姿を変えてついて行くから」

 そう言って、シルフは何らかの魔法を使用した。すると頭から次第にシルフの見た目が変わってゆく。
 プラチナブロンドの髪に、愛らしい面持ちの女の子。目まぐるしく変化したシルフの姿に、私達はぽかーんとしていた。

「何その姿……可愛い……」
「やっぱりアミィは可愛い方が好きなんだね。アイツの姿にして正解だった」
「アイツの姿……って?」
「部下の男の顔をちょっと借りてるんだ。これなら素顔でいるより目立たないからね」

 シルフはふふんと鼻を鳴らしたが、私はそれにツッコミを入れたくなった。
 ──その見た目でも、全然目立つと思うけどね!
 そんな事を考えていると、どなたかの姿をしたシルフが私の事を軽々抱き上げた。彼の見た目の所為で妙に緊張してしまう。

 イリオーデが先導、殿はアルベルトで私とシルフが真ん中に挟まれる形で歩き出す。薄くなりつつある黒煙の中を抜けると、先程までの戦いが嘘のように、浅い積雪を荒らされた平原はがらんとしていた。
 要塞前ともなると、私達が防衛戦線を張っていたからか誰もいない。倒れた領民達以外には、今も尚カイルと戦うモルスさんぐらいしか動いている人が見えない。
 そう。ここはとても見晴らしがよかった。だからか、要塞に向かう途中の私達にカイルが気づいたのだ。

「誰ぇ!?」

 空中でカイルは叫んだ。ギャグ漫画のように目をかっぴらいて、大きく口を開けているようだ。
 カイルがあんなにも思い切り反応したものだから、勿論モルスさんもこちらに気づいたようで。私達三人は覆面と変装があるけれど、シルフは違う。
 シルフを見てモルスさんは顔を顰めていた。多分、敵が増えた事にげんなりしているのだろう。

「誰アレ。もしかしてカイル?」
「うんそうだよ。でも名前で呼ばないであげて欲しいの、一応正体隠してるみたいだから」
「ふぅん……ボクにはあまり関係無いけどね。君がそう言うのなら、仕方無いからそうしてあげようかな」

 上機嫌に歩くシルフの横顔を眺める。まあ、この顔はシルフのものではないそうだけど。

「……歌? 一体どこから──」

 要塞を目前に捉えた時、どこからか歌が聞こえて来た。とても優しくて、体の真ん中からじんわりと温められるような歌だった。
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