だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
カイルによる特殊メイクを落とし、替えのドレスに着替え、わざとらしく無意味な手当ての跡を残し、私はセツと一緒に部屋を出た。部屋の前には私よりもずっと早く着替えを終えたらしいイリオーデとアルベルトが立っていた。
二人共、着ていた服は汚れたままなので仕方なく着替えた模様。
イリオーデは以前私が押し付けたお洒落なコートに、ソードベルトを腰に巻いて愛剣を帯びていた。やっぱり凄く似合う……彼の誕生日に有無を言わさず、『いつかどこかのタイミングで着てくれたらそれでいいから!』と言って押し付けて本当によかった。見られる日が来て本当によかった。
アルベルトは相変わらず女装しているのだが……なんとハイネック縦セーター、ふわりと広がるスカート、黒髪に映える柔らかい色合いのストール、前に流した三つ編みというザ・未亡人スタイルだった。何だ、未亡人の化身か……とてもじゃないが、現職執事の成人男性とは思えない。
「……二人共超似合ってるよ。私が画家なら、間違いなく貴方達の姿絵を後世に残すわ」
本当は口の動くがままに感想を述べたかったのだが、なけなしの王女のプライドがそれをなんとか阻止する。
「……っ!」
「お褒めに与り恐悦至極。王女殿下にお喜びいただけた事が、私にとっての最も良き褒美にございます」
ぱぁあああっと輝くアルベルトの顔。私の言葉を噛み締めるように少し俯きモジモジとするアルベルトとは打って変わって、イリオーデは端正な顔に微笑みを描き顎を引いて頭を下げた。
「皆様お着替えや手当ての方はお済みですか?」
「ああ、はい。お待たせしました」
その時丁度城の侍女がやって来て、私達を食堂に案内すると言って歩き出した。その道中、カイルが破壊した吹きさらしの道を見て、思わず二度見した。
食堂に着くと、そこには既にテンディジェル一家がいた。どうやら、実際に攫われた私達からも話が聞きたいらしいのだ。
さてどうにかしてはぐらかさないと。初っ端から騙す気満々ライアーな私は、いつもの笑顔で着席した。
さあ、どこからでもかかって来なさい! 私の二枚舌が火を吹くわ!
「まず始めに。我々領民と領地の問題に賓客たる王女殿下を巻き込んでしまった事、ここに深くお詫び申し上げる」
まさかの初手謝罪。
あんぐりとする私に向け、大公が深く頭を下げた。それに続くよう、セレアード氏とヨールノス夫人も頭を下げる。更にはレオとローズだけでなく、壁際に控える侍女や兵士達までもがこちらに頭を見せるのだ。
流石に気圧され、私も少しオロオロとする。
「い、いえお気になさらず。私は至って無事ですから」
ローズのお陰だけどね!
「しかし……我々が問題から目を逸らし、解決を先延ばしにしていたが為にこの事件は起きてしまった。この罪は重く、我々は当然の裁きを受ける所存にて」
「罪だなんて、そんな」
「帝国の宝たる唯一の王女殿下。例え結果的に無事だったとしても、貴女様を危険に晒してしまっただけでも我々には償いようのない罪なのです。ですのでどうか、我々を裁いて下さいまし。我々は、その罰を粛々と受け入れます」
大公の決意は固いようだった。私がどれだけ気にするな、と言っても聞いてくれないだろう。
……ここはもう、彼等の望むままに罰を与えた方がいいのかもしれない。そうする事で彼等の罪悪感が少しでも和らぎ、思い詰めないでくれるのなら。
何より王女としての体裁もある。ここで彼等を罰しなければ、きっと私がとやかく言われる事になるだろう。
それはとても面倒だ。こんな自分勝手な理由で彼等に罰を与えるなど、どうかしてるのは重々承知の上だ。とにかく今は……彼等を後悔や罪悪感から救おうじゃないか。
「──分かりました。貴方達に罰を与えます」
告げると、どこかホッとしたような表情をしながらも、セレアード氏とヨールノス夫人は固唾を呑んでいた。
「とは言えども。私《わたくし》には特殊審判権などございませんし、貴方達にもっともらしい罰を与える力もございません。なので、私《わたくし》なりに考えた罰を与える事を了承なさい」
特殊審判権というものは特権階級に与えられた権利で、なんと法の裁きを待たずに自己判断でその場で相手を処罰する事が出来る代物なのだ。
現在、帝国でこれを与えられているのはケイリオルさんただ一人だと言う。
え? この前勝手にその場で処罰を下してなかったかって? あの時は一応領地の領主の了承のもと行った事だから、ギリギリ黒寄りのグレーでモーマンタイなのだ。各領の領主には、領地で起きた一定基準までの犯罪に対して処罰執行権がある。
以前の毒殺未遂事件に関しては、被害は出ていない上、一定基準にギリ含まれるものだったので……私がその場で迷わず処刑を選んだのだ。
ただ、今回に関してはその一定基準など軽く超える事件だった。私の誘拐事件とか、そもそも大規模な争いとか。そんなもの、私には扱いきれない。
閑話休題。なので、この場で彼等を責任者として処罰する事は出来ない。やるなら法的制裁しかない為、かなりの手間暇がかかる。
その点、私が与えようとしている罰は処罰でも法的制裁でもないので問題無いのである。あくまでも越権行為にならない範囲での罰にとどめるつもりなのだ。
二人共、着ていた服は汚れたままなので仕方なく着替えた模様。
イリオーデは以前私が押し付けたお洒落なコートに、ソードベルトを腰に巻いて愛剣を帯びていた。やっぱり凄く似合う……彼の誕生日に有無を言わさず、『いつかどこかのタイミングで着てくれたらそれでいいから!』と言って押し付けて本当によかった。見られる日が来て本当によかった。
アルベルトは相変わらず女装しているのだが……なんとハイネック縦セーター、ふわりと広がるスカート、黒髪に映える柔らかい色合いのストール、前に流した三つ編みというザ・未亡人スタイルだった。何だ、未亡人の化身か……とてもじゃないが、現職執事の成人男性とは思えない。
「……二人共超似合ってるよ。私が画家なら、間違いなく貴方達の姿絵を後世に残すわ」
本当は口の動くがままに感想を述べたかったのだが、なけなしの王女のプライドがそれをなんとか阻止する。
「……っ!」
「お褒めに与り恐悦至極。王女殿下にお喜びいただけた事が、私にとっての最も良き褒美にございます」
ぱぁあああっと輝くアルベルトの顔。私の言葉を噛み締めるように少し俯きモジモジとするアルベルトとは打って変わって、イリオーデは端正な顔に微笑みを描き顎を引いて頭を下げた。
「皆様お着替えや手当ての方はお済みですか?」
「ああ、はい。お待たせしました」
その時丁度城の侍女がやって来て、私達を食堂に案内すると言って歩き出した。その道中、カイルが破壊した吹きさらしの道を見て、思わず二度見した。
食堂に着くと、そこには既にテンディジェル一家がいた。どうやら、実際に攫われた私達からも話が聞きたいらしいのだ。
さてどうにかしてはぐらかさないと。初っ端から騙す気満々ライアーな私は、いつもの笑顔で着席した。
さあ、どこからでもかかって来なさい! 私の二枚舌が火を吹くわ!
「まず始めに。我々領民と領地の問題に賓客たる王女殿下を巻き込んでしまった事、ここに深くお詫び申し上げる」
まさかの初手謝罪。
あんぐりとする私に向け、大公が深く頭を下げた。それに続くよう、セレアード氏とヨールノス夫人も頭を下げる。更にはレオとローズだけでなく、壁際に控える侍女や兵士達までもがこちらに頭を見せるのだ。
流石に気圧され、私も少しオロオロとする。
「い、いえお気になさらず。私は至って無事ですから」
ローズのお陰だけどね!
「しかし……我々が問題から目を逸らし、解決を先延ばしにしていたが為にこの事件は起きてしまった。この罪は重く、我々は当然の裁きを受ける所存にて」
「罪だなんて、そんな」
「帝国の宝たる唯一の王女殿下。例え結果的に無事だったとしても、貴女様を危険に晒してしまっただけでも我々には償いようのない罪なのです。ですのでどうか、我々を裁いて下さいまし。我々は、その罰を粛々と受け入れます」
大公の決意は固いようだった。私がどれだけ気にするな、と言っても聞いてくれないだろう。
……ここはもう、彼等の望むままに罰を与えた方がいいのかもしれない。そうする事で彼等の罪悪感が少しでも和らぎ、思い詰めないでくれるのなら。
何より王女としての体裁もある。ここで彼等を罰しなければ、きっと私がとやかく言われる事になるだろう。
それはとても面倒だ。こんな自分勝手な理由で彼等に罰を与えるなど、どうかしてるのは重々承知の上だ。とにかく今は……彼等を後悔や罪悪感から救おうじゃないか。
「──分かりました。貴方達に罰を与えます」
告げると、どこかホッとしたような表情をしながらも、セレアード氏とヨールノス夫人は固唾を呑んでいた。
「とは言えども。私《わたくし》には特殊審判権などございませんし、貴方達にもっともらしい罰を与える力もございません。なので、私《わたくし》なりに考えた罰を与える事を了承なさい」
特殊審判権というものは特権階級に与えられた権利で、なんと法の裁きを待たずに自己判断でその場で相手を処罰する事が出来る代物なのだ。
現在、帝国でこれを与えられているのはケイリオルさんただ一人だと言う。
え? この前勝手にその場で処罰を下してなかったかって? あの時は一応領地の領主の了承のもと行った事だから、ギリギリ黒寄りのグレーでモーマンタイなのだ。各領の領主には、領地で起きた一定基準までの犯罪に対して処罰執行権がある。
以前の毒殺未遂事件に関しては、被害は出ていない上、一定基準にギリ含まれるものだったので……私がその場で迷わず処刑を選んだのだ。
ただ、今回に関してはその一定基準など軽く超える事件だった。私の誘拐事件とか、そもそも大規模な争いとか。そんなもの、私には扱いきれない。
閑話休題。なので、この場で彼等を責任者として処罰する事は出来ない。やるなら法的制裁しかない為、かなりの手間暇がかかる。
その点、私が与えようとしている罰は処罰でも法的制裁でもないので問題無いのである。あくまでも越権行為にならない範囲での罰にとどめるつもりなのだ。