だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
29.奴隷解放戦線3
……──それは、地下から脱出した少し後の事。
「……そんなにスミレが心配?」
懸命に走る子供達の列の中、シュヴァルツは隣を走る少女にそう問うた。
少女は藍色の髪で顔に影を落としながら、小さく頷く。
「ふぅん、それなら今すぐスミレの所に行った方がいいよぉ。このままだとスミレは間違いなく怪我をするよ、下手をすれば致命傷になるかもしれないね」
シュヴァルツは何気なくそう話した。その言葉に根拠なんて無い。ただシュヴァルツがそう思っただけの言葉……しかしそれは少女にとっては聞き流せないものだった。
「どう言う事?」
「スミレはとても強いのかもしれないよ? でもさ、相手は大人で男で何より経験豊富な人なんでしょ。どれだけスミレに才能があろうとも……どうしても、今はまだ越えられない壁があると思うんだよねー」
その言葉に、少女の表情は固まった。
しかしシュヴァルツは話す事を止めなかった。陽気な少年は、まだ、言葉を続けるのである。
「だから君が助けに行けばいいと思ったんだぁ。だってほら、君はスミレが心配でー、そして強い魔力を持ってる! これ以上無い選択だとぼくは思うんだけど、どうかなっ?」
どうかなどうかなと瞳を輝かせて、シュヴァルツは少女の顔を覗き込んだ。少女はその赤い双眸を丸く見開き、震わせていた。
程なくして、少女は口を開いた。
「…………あの子の所に行ってくる。恩返し、しなきゃ」
そう呟くと、少女はくるりと踵を返して子供達の列から外れた。何人かの子供にその背を見送られながら、少女は建物の中へと戻ってゆく。
「頑張ってねぇ、メイシア。スミレもちゃあんと無事で帰って来てくれるといいなー……あーあ。ぼくは戦えないからなあ、どうせ戦場じゃあ役に立たないもんなあ、ぼくが手助けに行けたら良かったのになあ」
これで良し! とばかりに何故か誇らしげな顔を作った後、残念そうな表情を浮かべながらシュヴァルツはため息をひとつ。
そして子供達の列からこっそり外れた少女──メイシアは、追っ手の奴隷商の男達を物陰に隠れてやり過ごし、アミレスがいるであろう管理者の部屋目指して一生懸命走り出す。
(──どうか、無事でいて。スミレちゃん)
目先の絶望しか無かったあの空間に、唯一光を届けてくれた人。歳もほとんど変わらないその人がくれた光や温かさは、全てを諦めて絶望していた子供達に、最後の希望を与えた。
それは──メイシアも同様であったのだ。
メイシアは『わたし』を知るという彼女が、それでも普通に笑いかけ手を差し伸べてくれた事に、密かに涙しそうになっていた。
助けてくれた恩、希望をくれた恩、温かさをくれた恩、笑顔をくれた恩…………ほんの少しの間を共にしただけなのに、メイシアはスミレに何度も救われ、恩義を感じていた。
だからこそ、それを果たす為にと、メイシアは勇気を振り絞って道を進んで行ったのだった……。
「……そんなにスミレが心配?」
懸命に走る子供達の列の中、シュヴァルツは隣を走る少女にそう問うた。
少女は藍色の髪で顔に影を落としながら、小さく頷く。
「ふぅん、それなら今すぐスミレの所に行った方がいいよぉ。このままだとスミレは間違いなく怪我をするよ、下手をすれば致命傷になるかもしれないね」
シュヴァルツは何気なくそう話した。その言葉に根拠なんて無い。ただシュヴァルツがそう思っただけの言葉……しかしそれは少女にとっては聞き流せないものだった。
「どう言う事?」
「スミレはとても強いのかもしれないよ? でもさ、相手は大人で男で何より経験豊富な人なんでしょ。どれだけスミレに才能があろうとも……どうしても、今はまだ越えられない壁があると思うんだよねー」
その言葉に、少女の表情は固まった。
しかしシュヴァルツは話す事を止めなかった。陽気な少年は、まだ、言葉を続けるのである。
「だから君が助けに行けばいいと思ったんだぁ。だってほら、君はスミレが心配でー、そして強い魔力を持ってる! これ以上無い選択だとぼくは思うんだけど、どうかなっ?」
どうかなどうかなと瞳を輝かせて、シュヴァルツは少女の顔を覗き込んだ。少女はその赤い双眸を丸く見開き、震わせていた。
程なくして、少女は口を開いた。
「…………あの子の所に行ってくる。恩返し、しなきゃ」
そう呟くと、少女はくるりと踵を返して子供達の列から外れた。何人かの子供にその背を見送られながら、少女は建物の中へと戻ってゆく。
「頑張ってねぇ、メイシア。スミレもちゃあんと無事で帰って来てくれるといいなー……あーあ。ぼくは戦えないからなあ、どうせ戦場じゃあ役に立たないもんなあ、ぼくが手助けに行けたら良かったのになあ」
これで良し! とばかりに何故か誇らしげな顔を作った後、残念そうな表情を浮かべながらシュヴァルツはため息をひとつ。
そして子供達の列からこっそり外れた少女──メイシアは、追っ手の奴隷商の男達を物陰に隠れてやり過ごし、アミレスがいるであろう管理者の部屋目指して一生懸命走り出す。
(──どうか、無事でいて。スミレちゃん)
目先の絶望しか無かったあの空間に、唯一光を届けてくれた人。歳もほとんど変わらないその人がくれた光や温かさは、全てを諦めて絶望していた子供達に、最後の希望を与えた。
それは──メイシアも同様であったのだ。
メイシアは『わたし』を知るという彼女が、それでも普通に笑いかけ手を差し伸べてくれた事に、密かに涙しそうになっていた。
助けてくれた恩、希望をくれた恩、温かさをくれた恩、笑顔をくれた恩…………ほんの少しの間を共にしただけなのに、メイシアはスミレに何度も救われ、恩義を感じていた。
だからこそ、それを果たす為にと、メイシアは勇気を振り絞って道を進んで行ったのだった……。