だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「俺があんな言い方をした所為で……俺が音の魔力なんてものを持っていた所為で、軽い精神支配を受けたらしい領民達はとんでもない手段に出たみたいなんです」
「とんでもない手段、とは?」
「……口にするのも恐ろしいのですが、いわゆる自爆特攻です。俺からの指示は無かったけど、襲撃者を確実に排除する為にそういう話になった。と領民達から聞きました」

 一瞬、体が硬直した。だがそれと同時に安心してしまった。あの自爆特攻がレオの指示によるものではなく、領民達の自己判断によるものだったと知って……レオがあんな無慈悲な事をした訳ではないのだと、無意識のうちに肩を撫で下ろしていた。

「俺がもっとちゃんと考えて発言しておけば……襲撃者達を逃す事もなく、領民達を死なせずに済んだのに」

 違うわ。貴方の所為じゃない。こんなやり方でしか貴方達を救う方法を見つけられなかった私の所為なの。
 私達が殺さないように気をつけていればいいなんて、そんな甘えた事を考えていたから。死なない程度に痛い目に遭って欲しいなんて余裕ぶった事を考えていたから。
 だからあんなにも多くの人を死なせてしまった。悪人だって分かってる海賊達を殺した時とは訳が違う……大なり小なり恨みがあれども、それでも無辜の民と呼ぶべき人達を死なせた。

 いくら氷の血筋(フォーロイト)と言えども、流石にこればかりはかなり堪える。
 もっといい方法があったかもしれないと考える度に、後悔が私の首を締め付けて声を奪っていく。呼吸が、私の体と共に小さくなっていく。
 いつの間にか俯き、下唇を噛みながら自分のマメだらけの手のひらを見つめていた。

「……──もしもやたらればの話をしても過ぎた事でしょう。これは誰の責任でもなく、関わった全ての人間の責任です。一人が責任を感じ、罪悪感や後悔を抱え込む必要など無いのです」

 突然の事だった。イリオーデが、レオを慰めるような言葉を口にしたのだ。
 思わず私までそれに慰められたような気分になる。
 ゆっくりと彼の横顔を見上げると、イリオーデがこちらに気づいたようで、何も言わずただ柔らかく微笑んでくれた。
 レオも私と同様に、イリオーデの言葉に少し気分が明るくなったようで、悔恨に沈んでいた顔には僅かながらも生気が戻っていた。

「ランディグランジュ卿の言う通り……確かに他にもやりようがあったかもしれんが、全てはもう過ぎた話。これから領民と向き合い、領地を立て直す事がワシ等の役割だ。分かっておるな、レオ」
「…………はい。俺の所為で死んでしまった人達の為にも、帝都に行くまでの間は領民と向き合い領地の為に働きます」
「ならば良い。お前だって原因の一端なのだ、セレアードも手伝え」

 大公に話を振られ、セレアード氏は少し肩を跳ねさせた。しかしすぐにもその表情を真剣そのものに塗り替え、「勿論」と首肯していた。
 どうやらこれで話は終了。私達は一度部屋に戻される事となった。
 今後の事──争いの事後処理や死んだ人達の集団葬儀、そして即位式をどうするのか……等々、一度補佐官達を招集して会議を開くとの事だった。
 なのであくまでも賓客、あくまでも部外者の私達は一時待機という風に伝えられ、部屋に戻ってお待ち下さいと言われたのだ。

「はぁ……無事に計画は成功したのに、全然嬉しくない……」

 寝台(ベッド)の上でセツをもふもふとしながら、ボソリと愚痴を零す。そこでアルベルトが紅茶を入れてくれたので、紅茶の香りを楽しんでなんとか落ち着こうとする。
 やさぐれモードの私は、アルベルトの入れてくれた絶品の紅茶にいとも容易く絆されてしまった。ハイラの入れてくれる紅茶とはまた違った美味しさがあるのよね、アルベルトの紅茶って。

「はい、騎士君の分」
「イリオーデだ。紅茶はありがたくいただこう」

 いつもと変わらぬ二人のやり取りに、クスッとなる。お陰で少しは曇る気持ちが晴れるようだった。
 更に、セツも私の事を心配してくれているようで、つぶらな瞳でこちらを見上げて来るではないか。寂しそうな鳴き声まで漏らして……可愛いなあ、おまえは。

「よーしよしよし……」
「ワゥン!」

 ティーカップを置き、両手で撫で回してあげるとセツは嬉しそうな声を上げる。本当に人懐っこい子である。何やら私限定らしいけど。

「──ねぇちょっとアミィ、どういう事? 何でボク以外の動物をそんなに可愛がってるの!」
「シルフ!」

 うわびっくりしたぁ。急に背後に現れないでよ……そもそも何をそんなに怒ってるのさ。

「セツだよ。可愛いでしょう?」
「ガァルルルルル……ッ」
「アミィ、その犬に騙されてるよ。その犬めちゃくちゃ威嚇してくるじゃないか」
「あれ、本当だ」

 セツの前足をひょいっと上げて、手を振るように動かし紹介したのだが……セツがシルフに向かって敵意を剥き出しにしている。
 まるで仇でも見るような目で、シルフを睨み低く唸っているのだ。

「何だよこの犬生意気だな。何か気に食わない気配もするし……無性にぶん殴りたい」
「ゥウ……アォンッ!」
「何だよやるのか? 言っておくけれど、アミィの家族(ペット)の座は譲らないからね」
「グゥルルルルル……」

 どうしてこの二体の間では会話が成り立っているのか。それにしてもシルフは大人気ないわね……犬相手に何を対抗してるのか。
 暫く会わないうちに、シルフも何だか随分と雰囲気変わったなぁ……。
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