だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

288.ある精霊の執着

「王よ、とても嬉しそうですね」
「もう本っ当に嬉しい。アミィって体温低めなんだけど、それもちゃんと肌で感じられて良かったなあ。あの上目遣いの可愛さといったら!」
「そうですか。いずれ我等が姫君となる御方ですし、一度お会いしたいですね」
「出来る限りお前達には会わせたくないんだけど、これからはそうもいかないし……フィンなら別に会わせても大丈夫か。また今度挨拶の場を設けるよ」
「は、有り難き幸せにて」

 エンヴィーと同じく仕事を押し付けていたフィンが、いつも通りの無表情でボクの話に相槌を打つ。
 制約の破棄についての上座会議で、既にアミィの事は最上位精霊達に話した。ボクが星王の加護(ステラ)を与えた精霊の愛し子──それを最上位精霊達はボクと同等の地位や存在と認識し、精霊達の姫……星空の一番星(エストレラ)と呼ぶようになったのだ。
 だからどいつもこいつもアミィをエストレラと呼ぶのである。

 まぁ、それはボクの許可無しにお前達がアミィの名を呼ぶなって言いつけたからなんだけどね。
 なので最上位精霊達はアミィの存在を知っているし、ボクがあの子の為に破棄したいくつかの制約から、ボクがいずれアミィを精霊界に連れ帰ろうかなーと考えている事も察したらしい。
 その為、気が早いと思うけどこうやって姫君と呼んだり、一度会いたいと言い出す奴が増えて来たのだ。勝手に会ったら殺すって脅したから、アミィに勝手に会いに行って迷惑かけるような事にはならないと思うけど。

「まーでも、確かに一度顔合わせの機会は用意しておいた方がいいんじゃないですか? 最上位精霊の中には人間嫌いな奴もいますし、いざ姫さんが精霊界に来た時にじゃなくて、前もって姫さんのいいところを教えておくのはアリだと思いますよ」

 濃い隈を引っ提げて、書類をペラペラと捲るエンヴィーが妙案を口にした。

「エンヴィーの案には一理ありますね。少しでも姫君の負担を減らす工夫は凝らすべきでしょう。時に王よ、姫君はいつ頃精霊界にお越しになるのでしょうか? または、いつ頃完全な精霊化を果たすのでしょうか?」

 ずい、と目と鼻の先まで詰め寄って、フィンが大真面目に問うてくる。それにボクは、少しだけ視線を泳がせた。

「……そのうちかな。向こう百年以内には、多分、来ると思うよ」

 ボクの煮え切らない返事にフィンは眉一つ動かさず、

「具体的な数字を提示して下さいませんと、我々としても準備のしようがないのですが」

 ズバッと更に切り込んで来た。こういう空気を読めない所は昔から全然変わらないなこの男!

「……具体的な時期は分からない。いつ頃アミィが精霊化して、精霊界に来るのか……それはあの子次第だから」
「何故です? 王自ら加護をお与えになった相手なのですから把握しきれない、なんて事はまず有り得ないと愚考しますが」
「うっ……」

 フィンの放つ正論と不可解の眼差しが、ボクの心に攻撃する。

「……だよ」
「申し訳ございません、王のお言葉を聞き逃すなどという罪を犯してしまいました」
「…………たから……ん……だよ」
「王に二度も同じ言葉を繰り返させただけでも許されざる事だというのに、またもや俺は……」

 明らかにボクの声が小さい事が原因なのに、フィンは頑なに非は自分にあると言うしボクを咎めようとは微塵も考えないらしい。
 フィンのこういう盲信的なところ、昔からちょっと苦手なんだよね。
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