だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
♢第四章・興国の王女

291.ある兄妹の冷戦

 ──困ったな。果たして、僕はどう行動すべきなのか。

 かれこれもう数日間悩み続けている気がする。ただでさえ仕事が立て込んでいて忙しいというのに、何故このような雑事にまで気を割かねばならないのか。
 仕事の合間に本をペラペラと捲りながら、僕は自問自答する。どうしてこんな時間を無駄にするような事ばかりしているのか、自分でも自分がよく分からない。

「……おい、ジェーン。お前の取り寄せたこの本、確かに参考になるのか?」

 本から顔を上げ、書類を次々に捌く秘書の男に文句をつける。すると彼は手を止めてからこちらを見て、

「それは殿下次第ですよ……ふっ、くく……っ」
「お前、何を笑ってるんだ? 何がおかしい?」
「笑ってなど……フフッ、おりませんよ」

 ジェーンは真顔で肩を小刻みに震わせる。
 何だろうか、これはどう考えても馬鹿にされている。僕に仕える『影』の分際で不敬だな。

「いやしかし、殿下……きっと読み込めば参考になりますよ。えぇ!」
「……信用ならないな。先程から読んでいるが、意味不明というか理解不能な内容ばかりだが」
「それは殿下が常識や普通から逸脱してるからですよ」
「つまりは僕が非常識な異常者だとお前は宣うか」
「はは、まさかそんな」

 そんなやり取りに呆れの息を零し、今一度本に視線を落とす。
 ジェーンに命じ取り寄せさせたこの本、『仲良し兄弟の秘訣!〜喧嘩するほど仲がいい〜』。僕は兄妹仲の改善に繋がる参考書を用意しろと命じたので、実際の本の選定そのものはジェーンに任せていたのだが……何だこの本は。
 ジェーン曰く市井で大人気の本だとかいう触れ込みだったが、にわかに信じ難い。

 何だこの項目……【毎朝毎晩の「おはよう」と「おやすみ」はかかさないこと! これさえしておけばとりあえず最低ラインは死守できます。】だと? 僕がこの本の筆者が勝手に決めつけた尺度において最低限の基準にすら達していないと、そう言いたいのか?
 そもそも僕とあの女とでは生活圏が違う。挨拶など交わす機会がないだろう。……ちっ、役に立たんな。
 他にも、【誕生日や記念日のプレゼントは忘れずに。案外弟妹はそういう事ばかり根に持ちます。】だとか、【「ありがとう」と「ごめんなさい」はすぐに言いましょう。人として最低限のマナーです】だとか。
 随分と尊大な物言いだな、この筆者は。

「……プレゼントと言えば。おい、ジェーン。例の物は指示通り置いて来たな?」
「ああはい。殿下に指示されたその日の夜のうちに、東宮の前に置いておきましたよ。翌朝にはなくなっていたので、東宮の侍女が回収したのでしょう」
「この本の指示通りにあの女にプレゼントをくれてやったが、本当に意味があるのか? 全く価値も意義も見い出せないのだが」

 はぁ。と僕がため息をつくと、

「そうは仰っても、殿下こそ喜んでらしたではないですか。毎年毎年、控えめでおしとやかな匿名のメッセージカードつきのプレゼントだけは」

 ジェーンがここぞとばかりにニタリと笑う。相変わらず趣味の悪い男だ……どうしてこんな奴が僕の『影』なのか……。
 いやジェーンの事などどうでもいい。問題は彼の発言だ。

「──お前、どうして、その事を知っている?」

 氷の魔力で冷気を放ち威圧的に詰問すると、ジェーンはあっさりと白状した。
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