だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「何か怪我とかは無いか? もしあるならば言って欲しい、僕で良ければ治すよ」
「……あんた、まさか治癒魔法を使えるのか?」
「あぁ……こう見えて、前までは司祭だったんだ。だから多少は治癒魔法も扱えるよ」

 男は平然と言ったが、一般的に治癒魔法と呼ばれるものは希少属性でもある光の魔力を持ち、尚且つ膨大な魔力と治癒魔法への適正が無ければ扱えない……学のない俺でも知ってるぐらい有名な代物だ。
 光の魔力を持つ者のほとんどが席を連ねる国教会等であっても、治癒魔法を扱える者は三割にも満たないとまで言われる、あの治癒魔法だぞ?
 それをたまたま扱える奴と、こんな所で偶然出会うなんて──。

「っ、なら頼む! この先暫く進むと噴水広場に着く、だからそこにいるガキ共に治癒魔法を使ってやってくれ!」

 男の肩を両手で鷲掴みにし、俺は頼み込んだ。
 ……奴隷商の奴等の憂さ晴らしや暇潰しに巻き込まれて傷を負ったガキが、あの中には大勢いる。
 少しでもあいつ等の体や心から傷が消えるように、俺は目の前に現れた貴重な人間に頭を下げた。

「えっ、君じゃないのか?」

 男は驚きを顔に出した。それもその筈だ、ぶつかった相手が怪我をしているかもしれないからそう提案したのに、突然ガキ共がどうのと言われたんだ。
 俺が相手の立場なら間違いなく、は? ってこぼす自信がある。
 だが俺はこう頼む事しか出来ない。深く頭を下げて、もう一度頼み込む。

「頼む!」
「…………まぁ、乗りかかった船だ。別に構わないよ」
「本当か!?」

 バッと顔を上げると、男は眉尻を下げながら、人の良さそうな笑みを浮かべていた。

「この先の噴水広場に行けばいいんだな?」
「あぁ、ガキ共をよろしく頼む! ……そうだ、あんた名前は何て言うんだ? 大した事は出来ないが、後で礼がしたい」

 俺が名前を尋ねると、男は途端に困ったように目を逸らした。顎に手を当てて「うーむ……名前、また名前かぁ…………」と呟きながら。
 少し待つと、男はようやく名を教えてくれた。

「……僕の事はリードと呼んでくれ。せっかくだ、君の名前も教えてくれないか?」
「俺はディオリストラスだ。呼び辛いだろうからディオでいいぞ、リード」
「そうか、ならディオと呼ばせてもらうよ」

 俺達は短く握手を交わした。その後リードにガキ共の事を改めて頼み、俺はまた走り出した。
 いくらあのガキが強かろうと絶対に安全だとか絶対に無事だとか、そう言い切る事は出来ない。どれだけ別の事を考えていても、一抹の不安が頭をよぎる。
 ああクソッ! あのガキが無事だと良いんだが……!!
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