だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
『誰がここまで育ててやったと思ってんだ! テメェを売った所で金になんねぇのによぉ!! 食いもん盗ってくるぐらいはしろよこのドブネズミ!!』

 酷い罵倒だった。聞くに堪えない、醜いもの。こんなものを、あのロイが暴力と共に受けているの?
 あたしには関係無いのに。ただ、通りがかっただけなのに。どうして、あたしは──……見て見ぬふりが出来ないの?

『ドブネズミはどっちなのよ!!』

 扉を開けて、家に飛び込む。するとそこでは鼻血を出し顔中痣だらけなロイに、痩せぎすの不健康な顔の男が馬乗りになっていて。
 あたしに気づいた男は、死んだ魚のような濁った目をギョロリとこちらに向け、

『あぁ……? ガキが首突っ込んでんじゃねェ!!』

 床に落ちていた何かの破片を投げて来た。反射的にぎゅっと目を瞑ってやり過ごして、恐怖に震える手を握り締め一歩踏み出す。

『ガキはどっちよ! 気に食わない事があったからってすぐ子供に手を上げて、物にあたって! 泣いて感情表現するだけの赤ちゃんの方がよっぽどお利口じゃないの!! あなた達はいつもそう……子供をなんだと思ってるの? 子供は親の道具でもなければ玩具でも奴隷でもない! 子供だって一人の人間で、あなた達大人が守るべき存在なんじゃないの!?』

 あたしは力いっぱい叫んだ。
 どうしてか、頭で考えるよりも先に次々言葉が溢れ出てくる。まるで、ずっと昔から……こう思っていたかのように。

『あんたなんてドブネズミ以下よ! 生きる為に必死に足掻いて頑張ってるネズミよりも下の社会のゴミよ! あんたみたいな暴力毒親と比べたら、生きる為に頑張ってるロイの方がずっと偉くて凄いわ!!』
『さっきから、キンキンうるせぇんだよクソガキがァ! 舐めた口聞いてんじゃねぇ!!』

 顔を真っ赤にして、肩をわなわなと震わせる男があたしに向かって拳を向けて来た。
 怖い。殴られたくない。痛いのは嫌だ。罰もお仕置も教育も全部嫌だ。
 だけど、今はそれよりも──!

『っ……水、出て!』
『ぶぐごばぁっ!?』

 ミシェルは天の加護属性(ギフト)とは別に、水の魔力を持っている。そして天の加護属性(ギフト)の影響で魔力量が多いって、確かミカリアが言ってた。
 だからきっと、たくさん水が出せると思ったんだけど……あたしの想像以上の勢いで、たくさんの水が出た。
 目と鼻と口、その全てから大量の水が入ったらしい男は、その場でゴホゴホと苦しそうに咳をしながら四つん這いになる。
 この隙に、ロイを連れて逃げないと!

『ロイっ、逃げよう!』
『……にげ、る?』
『いいから早く! あの男が悶えてる間に!!』

 ボロボロでフラフラのロイに肩を貸し、あたしは一目散にあの男から逃げ出した。
 勿論、逆上した男が追いかけて来たのだが、村まで来たらあたしの勝ちだ。

『──おじさんっ、怖いおじさんに追いかけられてるの、助けて!』

 あたしによくしてくれる村の大人に泣きつくと、ボロボロになったロイの姿とあたしの切迫した表情を見て、大人達は血相を変えた。

『任せな、ミシェル。俺達があの馬鹿を懲らしめてくるからよ』
『おーいヤスさん所の女房! 子供が大怪我してっから手当してやってくれ!』
『あの野郎、やっぱり子供を……っ』

 大人達がついに行動に出た。それによって、ロイの父親らしき男は取り押さえられ、ロイはあたしの家にやってくる事になった。
 山の麓に捨てられていたミシェルを偶然通りかかった老夫婦が拾って育ててくれていたので、元々あたしも居候の身だ。だから今更子供が一人増えようが、おじいちゃん達は問題無いと言ってくれた。
 それから、ロイと一緒に過ごすようになって……ロイは無事、ゲーム通りの幼馴染となったのだ。
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