だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「過去を悔やんでも仕方無いですね。とりあえず……今は舞踏会に向けて準備をしなければ」

 上納品のチェックが終わったので、そろそろ本業に戻らねば。
 これはあくまでも、法務部を通すと時間がかかるからと(わたし)の権限で処罰を与えた結果、(わたし)が処理しなくてはならなくなった追加の案件ですからね。
 本業は勿論別にありますとも。えぇ。相変わらず陛下に仕事を押し付けられるので、本業は山のようにありますとも。果たしてもう何日寝ていないでしょうか。
 ──あの人、僕を過労死させたいのかなぁ……。

「はぁ……ため息をつくと幸せが減ると言いますけど、どうして仕事は減ってくれないんでしょうねー……」

 たいへん行儀が悪いが……懐より下位万能薬(ジェネリック・ポーション)を取り出して、時間短縮の為に歩きながらそれを飲む。
 すれ違った文官がこちらを二度見していましたが、恐らく(わたし)が顔の布をつけたまま飲食をしているからでしょう。(わたし)が顔につけているのは布ですから、飲食も自由なんですよね。
 絶対仮面とかよりこっちの方がいいですよ。風で靡くのが嫌なら魔導具の一種の布を使えばいいですし。仮面なんて邪魔でしょう、あんなもの。夏場なんて熱が籠って暑そうですしね。

「……おや。これはフリードル殿下ではないですか。この辺りにいらっしゃるとは珍しいですね」

 首をポキポキと鳴らし、腕をグルグル回しながら歩いていたら、前方にフリードル殿下を見つけた。(わたし)の声に気づいたフリードル殿下はゆっくりと振り向いて、

「ケイリオル卿に用事がありまして、丁度捜していた所です」

 足早にこちらへと歩を進めた。
 ふふ。やはり……内容がなんであれ、彼女やフリードル殿下に頼りにされるのは嬉しいですね。二人共、なまじ何でも自分一人で出来てしまうが故に、大人を頼る事を知らないので…………こうして、少しでも他人に甘える事を覚えていただけるのはとても喜ばしい変化だ。
 あとは、まあ。単純に舞い上がってしまう。(わたし)が少しでも彼等の親代わり──とまではいかずとも、頼れる存在になれているのなら、これまでの四十年近い波乱万丈な人生も無駄ではなかったと、そう思えてくる。

(わたし)に何か用事があるのでしたら聞きますよ。どうかされましたか?」
「実は……二つ、用件がありまして。比較的良い情報と比較的悪い情報、どちらから話しましょうか」
「比較的良い情報と比較的悪い情報……?」

 おや? 珍しい。フリードル殿下がこんな冗談(ジョーク)紛いの言い方をするなんて。
 彼女への愛情を思い出してからというものの、フリードル殿下がかなり変な方向に変化していっている気が…………ちょっと面白い上に、良い変化なので道を正す気は全く無いですけども。
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