だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

300.青い星を君へ2

「……なぁ、どうされたい? 貢がれたい? 慕われたい? それとも誰かに尽くされたい? 誰かに支配されたい? 目と目を合わせて、互いの息を混ぜ合わせて、ゆっくりと唇を重ねたい? もう二度と離れたくないってぐらい抱き締められたい? それとも…………息も意識も全て絶える程、その体を貪り食われたい? 教えてよ。おねぇちゃんが、どう愛されたいのか」

 まるで、一つずつなぞられるかのようだった。
 シュヴァルツの手はずっと私の首元にあったのに、その視線が頭からつま先までゆっくりと動いていたものだから、彼の手に全身を撫でられているような錯覚に陥っていた。

「……ぁ、その……私、は…………」

 先程のシュヴァルツの言葉の中に、しっくりくるものはなかった。
 私は、一体どんな風に愛されたいと思っていたの……?

「永遠のような夜が欲しい? それとも、儚くも眩しい朝? ありふれた平穏の昼でもいい。望むものは何だってぼく達が与えてあげる。お前の願いは全て叶えてあげる。ねぇ、おねぇちゃんが望むものは、どれ?」

 立て続けにシュヴァルツから放たれる問。これについて考えていると……高い高い壁に阻まれているような、そんな気分だった。
 ああ、でも。今少しだけ壁を登る足掛かりを見つけたかもしれない。

「──大層な事は望まない。高望みなんてしないから。ただ……一緒にいて、名前を呼んで、私を一人の人間として見てくれるなら…………もう、それ以上は何も望まないよ」

 シュヴァルツが言った所の、ありふれた平穏の昼というものだろうか……私が欲しい愛は。
 ただそれだけでいい。ただずっと一緒にいて、私の名前を呼んで、私をどこにでもいるありふれた一人の人間として扱ってくれるなら、それで、十分だった。

「……それが、お前が欲しい(もの)なんだな」

 ようやく答えられたのに、シュヴァルツも皆も浮かない顔をしていた。どうして? と理解が追いつかない中、シュヴァルツは私から離れてニコリとわざとらしく笑った。

「オーケイ、よーく分かったから。あっ、じゃあね、おねぇちゃん。ぼく用事思い出したから」
「えっ」
「あとコイツ等全員借りてくね。大丈夫、すぐ返すから。ほら精霊のもイリオーデもルティも着いて来い」

 未だに何が何だか分からないままの私を置いて、シュヴァルツ達は部屋を後にした。

「……どうしちゃったんだろ、シュヴァルツ。皆も様子が変だったけど…………セツはどう思う?」
「クゥーン」

 セツに尋ねるも、セツは先程からずっと、頭をスリスリとしてくるのみ。どうやらセツはシュヴァルツ達の事が眼中に無いらしい。
 というか。よくよく考えたら朝からする話題ではないわよね、これ。朝から重い話をしてしまったわ……だから皆も浮かない顔してたのかしら。
 申し訳無い事をしたなぁと思いつつ、私は皆が戻って来るのを体を小さくして待つ事にした。


♢♢


(──ああもうムカつく、マジでムカつく。こんな胸糞悪ぃ話があるか?)

 奥歯をギリギリと噛み締め、シュヴァルツは先陣を切って歩いていた。
 その後ろを不本意ながらも着いて行くシルフとイリオーデとアルベルトは、どういう意図で連れ出されたのかを知らなかった。
 ただ、今ばかりはシュヴァルツの言う事に従うべきと思ったのだ。
 彼等は、シュヴァルツがアミレスの言葉を聞いてこのような行動に出たと察したのだ。何故なら彼等も、アミレスの言葉には思う所があったから。

「シュヴァルツ、どこまで行くつもりなの? アミィから離れすぎるのも考えものかと思うけど」

 シルフが声をかけると、シュヴァルツはピタリと足を止めてくるりと振り返った。その瞳は完全に据わっていて、外面を取り繕う事も忘れているようだった。

「……アイツからある程度離れないと話し合い出来ねぇだろ。その為にマクベスタを呼んでやろうかと思ったんだ。この際だからナトラもハイラもメイシアもディオも呼ぶか。あと一応カイルも。共有事項はさっさと共有しておくに限るからな」

 シュヴァルツが華麗に指を鳴らすと、彼の周りにいくつもの白い魔法陣が現れ、輝く。その輝きが収まると同時に、そこには強制的に転移させられた六人の男女の姿が。
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