だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「……ここは、東宮?」
「なんじゃ、誰が我を転移させたのじゃ?」
「私は先程まで書類を纏めていた筈、なのですが」
「あれ、どうして?」
「え? 何で急に皇宮に来てんだ俺ァ……?」
「ぐふぉっ、いってぇ……ベッドから落ちたんか……?」
約一名、まだ起きてすらいなかったようで地面に衝突している者もいたが、他の五名は突然の強制転移にキョロキョロとしていた。
その様子を見て、シルフは唖然としていた。
(どういう事だ? こんなにも高度な空間魔法、カイルみたいな異常者を除いて人間に扱える訳が…………いやまて、その前に。シュヴァルツには全く魔力が無い筈なのに、どうして魔法が使えるんだ? 何なんだ、この子供は。ボクは何を見落としているんだ? コイツは、本当に人間なのか?)
何もかもが異様なシュヴァルツに対して、シルフはようやく違和感を抱いた。それはシュヴァルツが意図的に抱かせぬようにしていたもの。
普通ならば抱くような違和感を相手の認識外──無意識下に押し込む、悪魔の常套手段だった。
シルフはまんまとそれに引っ掛かっていたらしい。
「やあ、朝から呼び出して悪かったな。でもおねぇちゃん関連だ、つったらお前等は納得するだろ?」
アミレス関連だとシュヴァルツが口にした瞬間。彼等に緊張が走る。
「早速だけど本題に入るか。どうやら、ぼく等のお姫様は本気で愛を知らないらしい。そりゃあ何だっていいとは言ったけどさ……だとしてもアイツ、本気で一度も愛された事がない奴の反応をしやがったんだよ」
「……一体、何があったのですか?」
ハイラが詳細を聞こうと前のめりになる。シュヴァルツは、事のあらましを簡潔に話し始めた。
「彼女にどんな風に愛されたいか聞いたんだよ。そしたらなんて答えたと思う? ──ただ一緒にいて、名前を呼んで、一人の人間として見てくれるなら、それ以上は何も望まない……ってさ。どんな愛でもいい、どんな愛でも欲しいなら与えてあげるって言ったのにさ、絞り出すように答えたのがこれだぜ?」
ケッ、と吐き捨てるようにシュヴァルツは言った。それを聞き、六人は目を丸くした。中でもマクベスタとメイシアは戦慄していた。
「そん、な……当たり前のような事を、彼女は愛だと思っているのか? そんな当たり前な事すら、彼女にとっては遠い世界の話だと……そういう事なのか?」
「アミレス様の望まれる愛が、たったそれだけのものだなんて……っ、どうして、アミレス様は多くを求めないのですか?」
メイシアは今にも泣き出しそうな表情をしていた。マクベスタも、悪夢に荒んだ翡翠の瞳をやるせなさから細めていた。
「そんなのぼくが聞きたいぐらいだ。何でアイツはあんなにも欲が無いんだ? それとも、そんな普通の欲すらも持てない環境に生きてたって事なの?」
東宮の一角。一通りの少ない廊下で、彼等は頭を抱えていた。
(人間なら持ってて当然の欲をどうしてアイツはほとんど持ってないんだ……? 不必要な自己犠牲精神は持ってる癖に、なんで必要な欲に限ってアイツには全く無いんだ?)
知性ある生き物なら持ってて当然の欲──原罪とも呼ぶべき七つの欲望。だが、アミレスはそれの大半を持っていないようにも伺えた。
彼女にあるのは欲望にも満たない虚飾のみ。
以前より薄々勘づいていたが、シュヴァルツはアミレスの空虚な自我を目の当たりにして、らしくもなく狼狽えていた。
「そんなにも、殿下の身内ってのは酷いモンなのか? そこらのガキでさえ当然のように与えられてるものを、殿下は…………」
ぐっ、と握り拳を震えさせて、ディオリストラスはあろう事か皇帝への怒りを抱いた。
実の娘にそんな言葉を言わせた一人の父親に、彼は怒りを覚えざるを得なかったのだ。──例え相手が、大国の皇帝であろうとも。
(あんなにも元気で、誰にでも優しいお人好しのガキが……優しさも何も知らずに生きてきたとか、信じられねぇよ)
いつの日か見た、幼い少女の偽善。それを思い出し、ディオリストラスはハッと息を呑んだ。
(どんな危険が待ち受けていようとも目を逸らす事が出来ないからって、死ぬ事を何より恐れてる癖にすぐ一人で無茶しやがるのは……他人の頼り方を、知らないからだったのか。これまで誰にも愛されず、優しくされなかったから……誰かを頼るなんて考えもなく、誰かに頼る方法も分からず、何もかも一人で抱え込もうとしてたのか!)
その顔を怒りに歪め、ディオリストラスは歯ぎしりした。どれだけ本人が否定しようとも、やはり彼は子供好きだった。
本来愛され守られるべき存在が、ああして当然のように自らを犠牲にする方法しか選べなかった事実に、彼は強く怒りを覚えた。
「なんじゃ、誰が我を転移させたのじゃ?」
「私は先程まで書類を纏めていた筈、なのですが」
「あれ、どうして?」
「え? 何で急に皇宮に来てんだ俺ァ……?」
「ぐふぉっ、いってぇ……ベッドから落ちたんか……?」
約一名、まだ起きてすらいなかったようで地面に衝突している者もいたが、他の五名は突然の強制転移にキョロキョロとしていた。
その様子を見て、シルフは唖然としていた。
(どういう事だ? こんなにも高度な空間魔法、カイルみたいな異常者を除いて人間に扱える訳が…………いやまて、その前に。シュヴァルツには全く魔力が無い筈なのに、どうして魔法が使えるんだ? 何なんだ、この子供は。ボクは何を見落としているんだ? コイツは、本当に人間なのか?)
何もかもが異様なシュヴァルツに対して、シルフはようやく違和感を抱いた。それはシュヴァルツが意図的に抱かせぬようにしていたもの。
普通ならば抱くような違和感を相手の認識外──無意識下に押し込む、悪魔の常套手段だった。
シルフはまんまとそれに引っ掛かっていたらしい。
「やあ、朝から呼び出して悪かったな。でもおねぇちゃん関連だ、つったらお前等は納得するだろ?」
アミレス関連だとシュヴァルツが口にした瞬間。彼等に緊張が走る。
「早速だけど本題に入るか。どうやら、ぼく等のお姫様は本気で愛を知らないらしい。そりゃあ何だっていいとは言ったけどさ……だとしてもアイツ、本気で一度も愛された事がない奴の反応をしやがったんだよ」
「……一体、何があったのですか?」
ハイラが詳細を聞こうと前のめりになる。シュヴァルツは、事のあらましを簡潔に話し始めた。
「彼女にどんな風に愛されたいか聞いたんだよ。そしたらなんて答えたと思う? ──ただ一緒にいて、名前を呼んで、一人の人間として見てくれるなら、それ以上は何も望まない……ってさ。どんな愛でもいい、どんな愛でも欲しいなら与えてあげるって言ったのにさ、絞り出すように答えたのがこれだぜ?」
ケッ、と吐き捨てるようにシュヴァルツは言った。それを聞き、六人は目を丸くした。中でもマクベスタとメイシアは戦慄していた。
「そん、な……当たり前のような事を、彼女は愛だと思っているのか? そんな当たり前な事すら、彼女にとっては遠い世界の話だと……そういう事なのか?」
「アミレス様の望まれる愛が、たったそれだけのものだなんて……っ、どうして、アミレス様は多くを求めないのですか?」
メイシアは今にも泣き出しそうな表情をしていた。マクベスタも、悪夢に荒んだ翡翠の瞳をやるせなさから細めていた。
「そんなのぼくが聞きたいぐらいだ。何でアイツはあんなにも欲が無いんだ? それとも、そんな普通の欲すらも持てない環境に生きてたって事なの?」
東宮の一角。一通りの少ない廊下で、彼等は頭を抱えていた。
(人間なら持ってて当然の欲をどうしてアイツはほとんど持ってないんだ……? 不必要な自己犠牲精神は持ってる癖に、なんで必要な欲に限ってアイツには全く無いんだ?)
知性ある生き物なら持ってて当然の欲──原罪とも呼ぶべき七つの欲望。だが、アミレスはそれの大半を持っていないようにも伺えた。
彼女にあるのは欲望にも満たない虚飾のみ。
以前より薄々勘づいていたが、シュヴァルツはアミレスの空虚な自我を目の当たりにして、らしくもなく狼狽えていた。
「そんなにも、殿下の身内ってのは酷いモンなのか? そこらのガキでさえ当然のように与えられてるものを、殿下は…………」
ぐっ、と握り拳を震えさせて、ディオリストラスはあろう事か皇帝への怒りを抱いた。
実の娘にそんな言葉を言わせた一人の父親に、彼は怒りを覚えざるを得なかったのだ。──例え相手が、大国の皇帝であろうとも。
(あんなにも元気で、誰にでも優しいお人好しのガキが……優しさも何も知らずに生きてきたとか、信じられねぇよ)
いつの日か見た、幼い少女の偽善。それを思い出し、ディオリストラスはハッと息を呑んだ。
(どんな危険が待ち受けていようとも目を逸らす事が出来ないからって、死ぬ事を何より恐れてる癖にすぐ一人で無茶しやがるのは……他人の頼り方を、知らないからだったのか。これまで誰にも愛されず、優しくされなかったから……誰かを頼るなんて考えもなく、誰かに頼る方法も分からず、何もかも一人で抱え込もうとしてたのか!)
その顔を怒りに歪め、ディオリストラスは歯ぎしりした。どれだけ本人が否定しようとも、やはり彼は子供好きだった。
本来愛され守られるべき存在が、ああして当然のように自らを犠牲にする方法しか選べなかった事実に、彼は強く怒りを覚えた。