だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「俺達さ、この世界に嫌われてるみたいなんだよ。ごめんな、俺もアイツも……これ以上はお前等に何も言えない。言いたくても言えないだけで、わざと隠してる訳じゃないんだ。だから許してくれ」

 カイルが顎を引いて謝罪すると、誰かが「世界……」とボソリと零した。その直後、

「「「────神々の仕業か!!!!」」」

 シルフ、ナトラ、シュヴァルツの三名が、血走った目で激しい怒りを露わにした。その時放たれた圧倒的な威圧感にその場にいた人間達は等しく恐怖を抱き、膝をついた。
 それもその筈。普段は本人達が意図的に抑えているそれ──……精霊王と純血の竜種と高位悪魔の魔力やオーラが怒りと共に同時に解き放たれたのだ。
 寧ろ、自我を保てているだけでも凄いというもの。

(なん……っ、だ、これ!? 頭痛てぇ、足潰れる……っ! 息も、出来なくなりそ…………っ!!)

 流石に不味いと思ったのか、カイルがあわあわとしながらも何とかシルフ達を落ち着かせようとする。

「っ、三人共落ち着けよ! アイツはともかく、俺なんてどちらかと言えば神々に愛されてる側だし。なんでこうも世界に嫌われてるのか……俺達も実はまだ分かってないんだ。だからそうやって決めつけるのはよくないって! あと、そろそろ足腰潰れそうだからマジで落ち着いてくれ!!」

 カイルの必死の訴えに、シルフ達はハッとなり、静かに魔力やオーラを抑えた。
 だがそれでも。この王城敷地内の魔導具がほぼ全て故障し、皇宮や王城では、人ならざる者達の濃い魔力を浴びて体調不良を訴える者も続出した。僅か一分足らずの出来事でも、相当な被害を彼等は出していた。
 この中だと……魔力に耐性のないディオリストラスとイリオーデがその被害を受け、蹲り顔色を悪くしていた。
 普段から魔法を扱う事の多い、カイル、アルベルト、マリエルは慣れからそれを耐え……保有魔力量が多いが故に、メイシアとマクベスタも何とか耐えていた。
 だが、全員少なからずこの三体の影響は受けていた。その証拠に、今だってカイルの足は僅かに震えていた。

「……ごめん、取り乱した。必要なら治癒魔法かけてやるけど、いる?」

 最初に落ち着きを取り戻したのはシルフだった。特に顔色の悪いディオリストラスに声をかけ、彼が小さく頷いたのを確認し、その場で治癒魔法を発動した。

「原因が分かんないとか言うけどさぁ、世界に嫌われてるとかどう考えても神々案件だろ。マジでクッソ胸糞悪ぃんだけどぉ」
「…………あの若造共は好き勝手【世界樹】をいじくっておるからの。十中八九あやつ等が原因じゃろうな」

 シュヴァルツが苛立ちを表に後頭部を掻きむしると、その横でツインテールを指で梳くナトラが不機嫌に頬を膨らませた。
 シルフの治癒魔法でなんとか全員の体調が回復する。よっこらせ、と立ち上がったカイルが話を切り出した。

「俺等の話よりもさ、今はアミレスの事だろ? 結局、シュヴァルツは何で俺達を呼び寄せたんだ?」
「……作戦会議だよ。彼女がぼく達の予想を遥かに上回る無欲っぷりだったから、どうしたものかっていう話し合い」

 仏頂面のシュヴァルツが軽く疑問に答える。

「あー、つまりはあれか。俺が前に言ったアイツの事をめっちゃ愛してやれよってやつを実践する為に作戦会議しようぜって事か?」
「わざわざお前に言われなくても元々そのつもりだったけどね。でもまぁ、今回はそんなところ。流石のぼくも戸惑うレベルだったから、情報共有して作戦会議したかったんだよ」

 なるほどな〜、とカイルは腕を組み何度か頷く。

「じゃあとりあえずはアイツの体に教えてやらねぇとな。お前の求める愛は特別でもなんでもない普通のものなんだぜって」
「「おい言い方!」」

 誤解を招きそうな言い方に、思わずシュヴァルツとシルフがツッコむ。しかしカイルはそれをスルーし、更に続ける。

「ただ一緒にいて、名前を呼んで、一人の人間として扱う……──ふむ。まあこれ自体は俺達からすりゃ簡単だな。俺は多分無理だから、お前等に任せるけどよ」
「どうしてお前は無理なんだ? ……お前が、一番アミレスと親しいというのに」

 マクベスタの鋭い視線がカイルに向けられる。

「何でって、そりゃあ……俺、女も恋愛も嫌いだし」

 ケロッとした様子でカイルが言うと、その場にいた全員が「は?」と声を重ねた。それだけ、誰もが予想だにしない言葉だったのだ。
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