だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「シュヴァルツ。話が終わったならば、私は姫様にご挨拶してから邸宅に戻りたいのですが……仕事がありますので」
「あっ、わたしも……急にいなくなったからお父さん達が心配してるかもしれないので、家に帰らないと」
「そういう事なら俺も、朝からシフト入ってんだわ。早く戻らねぇとユーキとクラリスにどやされる」

 シュヴァルツによって強制的に東宮に呼び寄せられた面々が、シュヴァルツに帰してくれと頼む。それをシュヴァルツは「いいよぉ」と快諾し、ひとまずアミレスに挨拶だけしにいこうかという話になる。

 ここまでずっと口を閉ざしていたイリオーデが、これ幸いとばかりに黙って早足でアミレスの私室に向かったものだから、その後ろをアルベルトが「あ! 待てよ騎士君!」と言いながら追いかける。しかし、当のイリオーデはというと……振り向く事さえなく、「イリオーデだ」とだけ返して前を行く。
 その背を更にシルフとナトラとマクベスタが追いかけ、シュヴァルツ達も同様にその後ろに続く。やいのやいのと話しながら賑やかに廊下を歩く面々を見つめ、カイルは柔らかく目を細めた。

(一時は俺のガバからどうなる事かと思ったが…………これで、いいよな。アイツの異常性について思い悩むのは俺だけでいい。いくつもの手掛かりを頼りに、謎を解いて真実を見つけるのは俺がやればいい。皆はただ……純粋にひたむきに、よそ見なんてせず真っ直ぐにアイツを愛してくれたらいいんだ)

 ふぅ。と一息つくとカイルは一歩踏み出して、

「……──目指せ、ハッピーエンド!」

 アミレスの元に向かう楽しげな面々を追いかけるように、軽く走り出した。


♢♢


「ただいまぁ、おねぇちゃん!」

 寝台《ベッド》の上に寝転がり、セツの肉球をぷにぷにと触っていた時。扉を開け放ってはぞろぞろとお客様が。
 あれ、何でハイラとメイシアとディオがいるの? マクベスタとカイルはまあいつもいるからいいとして、三人がこんな朝からいるなんて珍しいわね。何かあったのかしら?
 セツを抱え、寝台《ベッド》から起き上がり皆の元まで歩いてゆくと、ハイラが優雅に一礼して挨拶を口にした。

「おはようございます、姫様。こうして朝から姫様にお会い出来ました事、光栄の至にございます」
「おはよう、ハイラ……機嫌がいいわね?」
「……その。可憐な姫様と愛らしい動物の相乗効果はやはり素晴らしいなと思いまして」

 何がどうして、そんな照れるように話すのかが分からないわ。

「確かに、アミレス様ともふもふな動物との相性は素晴らしいです! 可愛いと可愛いが合わさって凄く可愛いです!」
「メイシアまで……。そんなに褒めても何も出ないのに」

 と言いつつも、私は近くの引き出しから白紙の簡易小切手とペンを取り出した。さぁ、いくら欲しい? メイシアにならいくらでもお金あげちゃうわ。
 この流れるようなボケに、すかさずカイルが「いや出てんじゃねぇか」とシンプルなツッコミを入れてくれた。
 流石はカイルね、空気読みプロフェッショナル!

「ごほん。それより、皆どうしたの? そんな風にぞろぞろと。もしかして、私が忘れてるだけで今日ってここで何かあったかしら?」

 不安になって、私の仕事や予定を全て把握しているアルベルトに確認する。私の視線に気づいたアルベルトは首を横に振って、

「いえ、特にはございません。本日の主君のご予定は通常公務と帝都西部地区への視察のみです」

 スラスラと今日の予定を述べた。アルベルトは今や立派な執事となっている。誰がどう見ても完璧で、どこに出しても恥ずかしくない執事だ。

「あっ、だからディオがいるのね! もしかしてわざわざ迎えに来てくれたの?」

 合点がいったと手を合わせたのも束の間、それならメイシアとハイラは何でいるのだろう……と、疑問はふりだしに戻る。

「え? いや、俺は……」
「そうっ! そうみたいでさ! さっきぼく達が外に出た時偶然廊下で会ったんだ。ハイラとメイシアも似たような理由だってさ」

 何かを言おうとしたディオを押し退け、シュヴァルツが説明する。どうやらハイラとメイシアも似たような理由らしいのだ。
 そっか。確かにメイシアも貧民街大改造計画には関わってるし、ハイラだって同様に関係者だ。
 視察と言っても、こんなにも関係者が迎えに来てくれるようなものじゃないんだけどな。月イチで貧民街の様子を見に行くだけの、軽い観光みたいなものなんだけどな。
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