だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

303.青い星を君へ5

「それじゃあ、もしかして今日は一日ハイラとメイシアと一緒にいられるの? 暫く会えてなかったから嬉しいわ!」

 侯爵になったハイラと、次期伯爵のメイシア。私だって王女だし、全員責任や常々仕事が伴う立場なので中々昔のように過ごす事が叶わなかった。
 だから、こうして久々に訪れたチャンスに私は思わず、プレゼントを貰った子供のように喜んでしまった。
 私の言葉に、ハイラとメイシアの表情が固まる。そして何か考え込むように俯いた。

「違うよ、おねぇちゃん。ハイラとメイシアは忙し──……」

 そんな二人を尻目にシュヴァルツが口を開いた途端、

「姫様! 私も、久方ぶりに姫様と一日を共に出来る事がとても嬉しく思います」
「是非、わたし達もアミレス様の視察に同行させてください!」

 ハイラがシュヴァルツの口を勢いよく塞ぎ、にこやかに捲し立てた。それに続くように、メイシアはこちらに駆け寄って来ては私の手を取り、笑顔を作る。
 ハイラによって口を塞がれているシュヴァルツが、鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしているのが少し気になるが……まあいいや。メイシアとハイラと久々に一緒に過ごせるんだから!

「……ねぇハイラ。忙しいんじゃなかったの」
「……姫様があのような表情であんなにも可愛いらしい事を仰っているのに、仕事などしてられません」
「お前等ほんとにブレねぇな。てかそろそろ(コレ)、離してよ」
「ああすみません。余計な事を喋りそうだったので」

 遠くでハイラとシュヴァルツがコソコソと話している。その詳しい内容は分からないのだけど、シュヴァルツの目がジトーっとしているので、あまりいい内容ではない事だけは分かる。

「恋する女ってやっぱ怖いな……」
「確かに怖いね……勢いが」

 カイルが何かを呟いたかと思えば、それに同意するかのように隣でシルフが頷いている。その様子を眺めていると、メイシアがくいっと私の手を引っ張って。

「あの、アミレス様。視察はいつ頃からですか?」
「えっと、確かー……」
「昼過ぎからの予定です」
「だそうよ。昼過ぎから西部地区に向かう予定ね」

 いつからだったかと言い淀んでいた時、アルベルトがスっと横から入って来ては要点だけ告げて、静かにまた後ろに控える。

「そうですか。では、わたしは現地集合という事にさせていただいてもいいですか? 少し、片付けなければならない仕ご…………いえ、準備がありまして!」
「そうなの? 護衛とかそういうのもあるだろうし、昼過ぎに迎えに行こうか? 私はイリオーデとルティを連れて行くだろうから、戦力なら十分貸せるわよ」
「アミレス様直々にお迎えだなんて……! そんな、申し訳ないです」
「いいのよそんなの気にしなくて。正直なところ、私が少しでも多くメイシア達と一緒にいたいだけだもの」
「……っ!?」

 それに戦力なら私だって自信がある。万が一にもメイシアを危険な目に遭わせるような事態にはならないだろう。
 だから安心して欲しい。申し訳ないとか思わず、どんどん私を使ってちょうだいな。

「あ、アミレス様はいつもそう……っ、わたしをどれだけめちゃくちゃにすれば気が済むんですかぁ……!」

 急にどうしたのかしら、この子。耳まで真っ赤にして、頬に両手を当てて……いや、凄く可愛いんだけども。
 すると、メイシアが少し潤んだ大きな瞳で熱っぽくこちらを見上げて来た。錯覚だと思うが、一瞬彼女の瞳孔がハート型に輝いているように見えた。
 十中八九気の所為だけれど、それ程にメイシアの表情が恋する乙女のようだったんだと言えば分かってもらえるだろうか。

「私、何かしてしまったかしら?」
「うぅ……自覚が無いのが恐ろしいです……」

 メイシアはうっとりしたような顔で、批判なのか褒め言葉なのかよく分からない呟きを零す。
 自覚? と首を傾げていた時、ひょこっとマクベスタがやって来て。

「話の途中ですまない。アミレス、もし良かったらオレも今日は一緒に行動してもいいだろうか? 前に西部地区に行ったのは半年近く前だから……オレも、西部地区がどうなっているのか気になるんだ」
「勿論いいよ。マクベスタと出かけるのも何だか久しぶりね。最近特訓も一緒に出来てなくて、ちょっと寂しかったのよ」
「…………すまん。オレの実力では、お前の相手など務まらないからな。暫し自主練習をして、もう少し実力がついてからと思っていたんだ」
「そんな事ないわよ。貴方はとっても強いんだから! 何回も言うようで、耳にタコが出来てしまってそうだけど……貴方はいずれ確実に兄様以上の最強の剣士になれるんだから。そう自分を卑下しすぎるのもどうかと思うわ」

 マクベスタは目を丸くして、その直後、嬉しそうに目元を綻ばせた。
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