だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「だから〜〜えっと、あれだ。人間、出来の良い芸術品は愛でるだろ?」
「まぁ……そうだが、それとこれになんの関係がある」
「お前達みたいな顔の良い人間はな、顔面国宝なんだよ」
「顔面国宝」

 思わず言葉を繰り返したが、全く意味が分からない。

「俺はな、そんな国宝級顔面の男を鑑賞するのが好きなんだ。その中でもマクベスタ、お前の顔が特に好きなんだよ。あっ、勿論人柄とかも込みだからな!」

 頼んでもないのに、カイルは不必要な謎の補足をした。先程まで脛を抱えてのたうち回っていたのに、今や随分とすました顔で親指を立てている。妙に鼻につく男だな、本当に。
 ……こんなのに、オレは負けてるのか。そう思うと酷く自分が小さく虚しい存在に思えてくる。

「オレはお前の事が嫌いだがな」

 世の不公平から来る八つ当たりと、先程から感じる悪寒から、オレの口からはついつい本音がまろび出てしまった。
 初めてこれを面と向かってカイルに伝えた後、結局カイルにそれについて謝れたのは三ヶ月後とかだった。だがカイルはそんなの忘れていたかのようにケロッと謝罪を受け入れ、その上で『そういうところもお前らしさじゃん。素直になるのはいい事だし、気にすんなよ』とか宣ったから。
 それ以来、オレはカイルに率直な気持ちを伝えるようにしている。気色悪い事に、カイルはそれで喜ぶので……多分問題は無いのだろう。
 果たして友人との距離感がこれで合っているのか、中々に疑問ではあるが。

「嫌よ嫌よも好きのうちって言うし、無関心じゃないだけ全然いーよ。そうだマクベスタ、俺結構恋バナとか好きなんだけど……どうよ、恋愛相談乗ろうか?」
「何故お前にオレの色恋について相談しなくてはならないんだ。そもそも、オレは彼女に気持ちを伝えるつもりなど無い」
「えー、なんでさぁー。絶対伝えた方がいいって。俺実はお前の事めちゃくちゃ応援してんだけどー」

 また変な事を言い出した男に呆れを覚え、オレは踵を返し歩き出した。すると、カイルは当然のようについて来る。

「うるさい。だいたいお前はどうしてそこまでオレに構うんだ?」

 ピタリと足を止め、振り向く。オレのすぐ後ろで目を丸くしているカイルに、問いかけた。

「……そりゃあ、お前の事が人として好きだからだよ。好きだからこそ、お前には後悔して欲しくない。大事な事を何も言えないまま相手が死んだりいなくなったりすると、結構辛いモンだぜ?」

 まるで自分にもその経験があるかのように、カイルはぎこちなく笑う。
 そう言えば、以前にもシュヴァルツから似たような事を言われたな。言いたい事は言えるうちに言っておけ、とか。
 ……──何度も何度も見た、彼女が死ぬ悪夢。あれのいずれかがもしも現実になったとして、オレは果たして自分を保てるだろうか。

 気持ちを伝えていた伝えていないに関わらず、きっとオレは、悲しみと懺悔の中迷わず後を追うだろう。
 オレが未だに生きているのは彼女の存在あってこそ。彼女のいない世界など、もはや意味が無い。オレが存在する必要性も無い。
 だからこそ、カイルの意見には賛成しかねる。何故ならそもそも──彼女が死んだ時点で、もう全てが終わりだから。

「仮に、もしそうなったとして。オレは気持ちを伝えていなかった事よりも、彼女を守れない無価値な存在だった事の方が辛いだろうな」
「あー……お前はそういう人間だったなぁ。悪ぃ、さっきのは忘れてくれ」

 カイルはあっさりと引き下がった。しかしその後、鮮やかに片目のみ閉じて、

「あぁでも、恋愛相談ならいつでも受け付けてるから! 困った事があればいつでもウェルカム、俺が力になるぜ!」

 またしたり顔で親指を立てている。情緒不安定だな、カイルは。
 やはり……この男の相手など真面目にしてはいけないのだ。真面目に相手にしてはこちらが負ける。否が応でも相手のペースに飲み込まれてしまう。

「はぁ…………」

 距離感や付き合い方が分からない異色の男を前に、様々な感情から来るため息が漏れ出る。
 それを目敏く聞いた件の男は前のめりになり、「どしたん、話聞こうか?」と言ってはどんどん首を突っ込んでくる。
 お前の所為なんだけどな。という言葉はぐっと飲み込み、オレはカイルを無視して早足に歩き始めた。

「ちょっ、ちょぉっと待ってくださいよぅ〜!」

 癪に障るふざけた口調で、カイルは後ろを追いかけて来る。
 さて。早く戻って、シュヴァルツに突然呼び出されて中断されてしまった、親善使節としての仕事を片付けなければ。
 せっかく昼からは彼女と出かけられるんだ……何が何でも、仕事を片付けないと。
 ──ふっ……こんなにもやる気が湧いてくるのは、果たしていつぶりだろうか。
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