だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

306.赤熊の百合3

「は……はい……」

 ようやく絞り出した言葉がこれだった。あまりの急展開に、頭が真っ白になっていたのだ。
 よく分からないけれど、私は何かしらの責任を取らないといけないらしい。でも何の? 
 ──はっ、メイシアの頬で遊び過ぎたからその治療費払えって事か! 成程ねそういう事なら勿論払うわ。治療費でも慰謝料でも示談金でもなんでも払うわよメイシア!
 ……でもおかしくない? もしその治療費云々の話だったとして、私の事が好きだとかキスだとか……どうしてそんな言動に出たのか全然分からないわ。

「アミレス様、わたし、頑張りますね」
「……何を?」

 私から離れた彼女は、宝石のようにキラキラと輝く瞳をふんわりと緩め、笑った。それはこれまで見て来たメイシアのどの笑顔よりも、可愛くて力に溢れた──最強の笑顔だった。

「アミレス様に相応しい人間になれるよう、めいいっぱい頑張りますね」
「ん? 私……に相応しい、人間?」
「ひとまず男になれる薬の精製辺りから頑張ってみます。他にも、この国の誰にも脅かせないような地位に上り詰めてみせますね」

 男になれる薬?! ちょっ……ちょっと待って、話が跳躍し過ぎて何の事か分からない! もしかして、国家転覆の話とかされてる?!

「だから……もし、わたしがあなたに相応しい人間になれたなら。その時はどうか──……わたしを、アミレス様のお嫁さんにして下さい」

 えっ………………とぉ……私、今、プロポーズされてます?
 その瞬間、私の中で点と点とが繋がった気がした。まさに脳裏を雷がよぎったかのような、そんな爽快体験だった。

「もしかして……メイシアは本当に私の事が好きなの? その、恋愛対象として」

 これまでの一連の発言……その全てがこの結果に繋がっているのではないか。自意識過剰にも、私はそう考えたのだ。
 自分でも一体何を言っているんだと思うが……流石の私でも、もはやこの答えにしか辿り着けなかった。

「はい。わたしはアミレス様の事が大好きです。あなたを心よりお慕い申しております」

 メイシアは真剣な顔で言い放った。それは友達に向けた言葉ではなく、まさしく、好きな人に向けるようなものだった。

「同性で、望みなんてないから我慢しようと思ってました。アミレス様には結婚願望が無いと聞いて何度も苦い思いをしました。わたしの想いは叶わないんだって……諦めようとしてました」

 でも、とメイシアは続ける。開いた口が塞がらないまま立ち尽くす、私を置いていって。

「ただ、『同性だから』って諦められるものじゃなかった。ほんの少しでも可能性があるのなら、わたしはその僅かな可能性にかけたいんです! あなたの視線も、優しさも、笑顔も、全て独り占めしたいんです! あなたに永遠の愛を誓えるのなら、わたしは何だってすると決めたのです!」

 それはメイシアの覚悟そのものだった。
 私よりも小さな女の子が、こんなにも真剣に恋をしている。皆の恋路を応援したいと言っていた身として、彼女のそれを邪魔する訳にはいかない。
 でも、私は。

「……ねぇ、メイシア。私は、きっと貴女の望むものをあげられないわ。もし私を愛してくれても、私には貴女を愛する方法が分からないから」
「見よう見まねでいいんです。わたしが、わたし達が、これからもたくさんアミレス様の事を愛します。だからアミレス様も同じようにわたし達を愛して下さい。そりゃあ、当然……どうせならわたし一人だけを愛して下さいって言いたい所ですけど、今はまだ、わたしには早いので」

 メイシアはふにゃりと微笑み、そして私の手を取った。かつて漫画やアニメで見た恋する乙女のような表情で、彼女は私を見つめる。
 ……ああ、そうか。さっき、メイシアの笑顔が何者にも負けないような笑顔だと思ったのは、これが理由だったんだ。
 ──恋する乙女は、最強だから。
 私の友達は、どうやら本当に私に恋をしているらしい。

「難しそうだけど、見よう見まねでやってみるわ。でも……まだ結婚とかは考えられないから、求婚(プロポーズ)はお受け出来ない。ごめんね」

 眉尻を下げて、そうお断りを入れるも、

「そうだと思いました。でも、可能性がほんの少しでも残る以上、わたしは諦めませんから」

 メイシアは強かに笑った。
 何だったかしら、そう──シャンパージュの魔女。確かにそう呼ばれるに相応しい……可愛らしくも末恐ろしい、堂々とした風格だった。
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