だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
 まるで、怪物のようだった。荒々しくも的確に、一瞬で相手の心臓を斬り裂くような剣筋。一切の躊躇無く魔法を使い、悪魔の様に戦場を縦横無尽に駆け回っては、着実に一人ずつ仕留めていく。
 私の知る彼の戦い方からかなり変化した、その戦い方を見て……私は言葉が出て来なかった。兎のように軽々と跳び上がり、鷹のように獲物を確実に仕留める。今のマクベスタは、ただ一点のみを目指して最適化されたような──そんな動きをしていたのだ。
 別に、その事に恐怖は覚えない。ただ……カッコイイと思った。世が世なら、軍神の化身だとか呼ばれて畏怖されるであろう、圧倒的な強さだった。
 それこそ、私が何度もマクベスタに言ってきた、最強の剣士のような姿。きっと、もう既にフリードルよりも遥かに強くなっているだろう。フリードルの今の実力など全く把握していないが、不思議とそう確信している。

「うぐ……くそっ、コイツマジで強ぇ……!」
「後はイリオーデか」

 マクベスタが腹に強い蹴りを入れてディオを倒すと、最後に残ったのはイリオーデだった。
 待っていたとばかりに私兵団の団服〈夏服〉を鮮やかに翻して、イリオーデはマクベスタに斬りかかった。何度か彼等の模擬戦を見て来たから、二人の実力がかなり拮抗するものである事が分かっていたが……やはり、攻略対象のポテンシャルだろうか。
 魔法を躊躇わずに使うマクベスタが、一歩リードしているように見える。だがイリオーデは魔法を使っていない。大公領の模擬戦で披露したあの馬鹿げた魔法を、まだ温存しているようなのだ。
 これは勝負の行く末が分からない。リベンジマッチとは思えないような緊迫した一進一退の攻防に、私達は固唾を呑んでいた。

 その時だった。イリオーデがついに魔法を使った。滅多に魔法を使わないイリオーデが突然魔法を使い、瞬く間に距離を詰めてマクベスタの剣を上空へと弾き飛ばした。
 イリオーデが下から斬り上げた剣筋に沿うように、ほんの一瞬、マクベスタとイリオーデの間にハリケーン並の強さの風が巻き起こった。それが抉るようにマクベスタの愛剣を空へと連れ去ったのだ。
 武器を失い、巻き起こった砂埃で視界も奪われたこの状況……マクベスタは無防備だった。これを好機とばかりに、イリオーデは剣を構え鋭い突きを放つ。
 これは流石に駄目だ、マクベスタが危ない。そう声を上げようとした瞬間。
 晴天の下に、突如として雷鳴が轟く。
 痛いくらい眩しい一閃に、誰もが目を閉じた。

「──な……何、あの剣……?」

 ようやく開いた目に映るのは、マクベスタが握る見覚えの無い長剣(ロングソード)。それはバチバチと恐ろしい音を奏でながら、雷を纏っていた。
 イリオーデの鋭い突きを受け流すように構えられたその剣に、私は唖然としていた。真っ黒の剣身に、金色の鍔。私の白夜より遥かに魔剣っぽい見た目のそれは、不思議と今のマクベスタにとても似合っていた。
 でもさ、それ、一体どこから出したの? そんなの全然持ってなかったよね? 白夜みたいに名前を呼べば来るタイプの魔剣なの?

「……実戦で使うのは、まだ先だと思ってたんだがな。イリオーデ相手だとやはり奥の手を残すのは難しいか」
「……まさか、もう一本剣を持っていたとは。それもただの剣ではないと見受ける」
「よく分かったな。貰い物だが中々に強いぞ、この剣は」
「ふ、いくら剣が強くとも使い手が弱ければ(なまくら)に過ぎない。使い手の実力が剣の実力だからな」

 二人は一度距離を取り、じっと相手を見据えていた。
 彼等の真剣な表情からして……これから先、より激しい戦いになるのは明白だった。そんな戦いをこれ以上続けさせる訳にはいかない。
 マクベスタの友人として、イリオーデの主として。
 私がこの戦いを止める責任がある。怪我するなって言ったのに怪我しそうな戦いを演じようとする二人を止めなくてはならないのだ。
 だがこの緊迫した空気……ただ、試合中止! と言うだけでは決して終われないだろう。どうしたらすぐにでも二人を止められるのか。そう考えた結果、私は──、

「おいで、白夜」

 今日は置いて来た愛剣を喚び出して、それを構えた。
 二つの剣の鞘は、アルベルトに「これお願い」とだけ言って渡した。
 見学していたのに突然剣を構えだした私に、シルフが「アミィ……?」と焦りを口にした。しかしそれを無視して、私は地面を蹴った。
 意図的に殺気を放ち、二人に向かって斬りかかる。突然第三者の殺気を全身に感じたからか、イリオーデもマクベスタも凄まじい速度で反応し、防御体勢に入った。
 そして、その殺気の出処が私だと気づき二人が目を丸くしたところで、私は急停止して殺気を収め、剣を下ろす。
 無事に戦いを止められたと肩を撫で下ろし、ぽかんとする二人に向けて一喝する。

「試合終了よ、二人共。もう、熱くなりすぎ! あのまま続けてたら大怪我どころじゃ済まなかったでしょ!」

 ぷんぷんと怒りながら腕を組む私に、二人がハッとなり謝罪する。

「すまん……お前の前では負けたくなくて……」
「マクベスタ王子が強くて、つい対戦を楽しんでしまいました。申し訳ございません」

 一応二人共謝罪の意思はあるらしい。マクベスタがどこからともなく黒と金の鞘を取り出しそこに剣を収めると、同様にイリオーデも剣を鞘に収めながら頭を下げて来た。
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