だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

308.赤熊の百合5

「まぁ、戦ってて楽しくなるのは分かるけど……貴方達は強いんだから! 力がある人は、力の使い方をよく考えないといけないのよ。その力は、誰かを守る事も傷つける事も出来る諸刃の剣なんだから」

 ちょっといい事言ったわ、私! と自画自賛する。
 まぁどうせ、何かの受け売りなんだけども。うむ、身も蓋もない。

「そうだな。怪我はないか、イリオーデ。具体的には……感電とかしてないか?」
「いや、特には。そちらこそ、風で肌を切られたりはしていないだろうか」
「大丈夫だ。この通り髪はぐちゃぐちゃだが」
「それは私も同じだ」

 ふっ、と二人が軽く笑い合う。何だかいい雰囲気になって、リベンジマッチはこれにて終了。結果は引き分け扱いとなった。
 その後、マクベスタはイリオーデに飛ばされた愛剣を回収していた。アルベルトから鞘を受け取り、それも静かに鞘に収める。いつの間にか先程の黒い剣は消えていた。
 一体どこにしまったの? と思ったが、マクベスタは早速「お前相変わらず容赦なさすぎだろ!」「もうちょっと手加減しろーー!」と、ディオ達に囲まれているので聞くに聞けなかった。

 私も私で白夜をどうしようかと悩んでいた所、アルベルトがこんな事もあろうかとソードベルトを持って来てくれていたので、それをドレスの上に巻いて、帯剣する。こんなだから剣しか能が無い野蛮王女って言われるのよ、まあ半分事実だから全然いいけども。
 突然、ドレスのまま模擬戦に乱入した私に待っていたのはハイラとシルフからのお小言だった。耳が痛くなる程にぐちぐちぐちぐちと小言を聞かされ続けて嫌になった私は、逃げるようにアルベルトの後ろに隠れた。

「こらっ、アミィ! まだお説教は終わってないんだからね!」
「そうですよ、姫様。そのように執事の後ろに隠れないで下さいまし」

 アルベルトの背中に隠れるというのに、シルフとハイラはお構い無しに詰め寄ってくる。
 当のアルベルトはずっとオロオロとしている。当然か……こんな事に巻き込まれたら、困惑するに決まってるものね。

「おいルティ、さっさとアミィを渡せ。従僕なら主の為になる事をすべきなんじゃないか? というかさっきから近いんだよ」
「シルフ様の言う通りです。真の忠臣たるもの、時には主を諌める事も重要なお役目なのですよ」
「……えっと、俺は……」

 困ったようなアルベルトの視線が降り注ぐ。どうしたらいいのか分からなくなっているのだろう。そんな彼を、私は悪の道へと唆す。

「ルティ、命令よ。私を連れてどこかに逃げなさい。何か……いい感じの所に!」

 今日はもうお説教を聞きたくない。その一心から、私は職権を乱用する。普段滅多に命令なんて言葉を使わない私が急にこんな事を言ったものだから、

「……──御意のままに、我が主君(マイ・レディ)

 アルベルトは目の色を変えて頭を垂れた。シルフ達が口を挟む暇も無いくらいあっという間に、アルベルトは私を抱き抱えて走り出した。
 流石は諜報部の人間と言うべきか……分かってはいたが、アルベルトの身体能力はかなりのもので、瞬く間にあの空き地から離脱する事が出来た。
 そして程なくして聞こえてくる、「あーーーーっ!?」という皆の叫び声。マクベスタを囲んでいた私兵団の面々も、ここに来て私が逃げた事に気づき、私達は貧民街の中で壮大な鬼ごっこをする事になってしまった。

 一体誰が指揮を執っているのか分からないが……イリオーデやマクベスタ、ジェジやエリニティやクラリスといった足の速いハンターを次々と放っては、最短距離で追いかけてくる。
 他にも回り込まれて挟み撃ちされかけたり、あわや追い詰められる寸前まで誘い込まれたり。
 私を抱えつつ貧民街を爆走するアルベルトの姿はたいへん目立っていた。その背を追うようにイリオーデ達も爆走するものだから、それはもう……一種の見世物なんじゃないかってぐらい目立っていた。

「ふふっ、あははははっ」

 ふと、笑い声が漏れ出てしまった。

「どうされたのですか、主君?」
「なんだか楽しくって……こんな風に思いっきり遊んだ事って、これまで全然なかったなって思ったの。だってこれ、いわゆる鬼ごっこでしょう? 人生で一度くらいはやってみたかったんだぁ」

 子供達の遊びの定番、鬼ごっこ。遠い空の下から僅かに聞こえる子供達のはしゃぐ声に、何度思い馳せた事か。外に出られない私には縁遠いもので、自分がそれをする日が来るなど全く考えもしなかった。
 だからこそ。実際に私が走って逃げている訳でも、追いかけている訳でもないのだが……この状況が、本当に楽しかった。立場とか責任とかを忘れて、全力で何かに打ち込める事がこんなにも楽しいなんて。
 自然と頬が緩む。なのに、アルベルトの体に回していた手は興奮からか力が籠る。
 私は今、あろう事か…………この状況を楽しんでいるのだ。
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