だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「……いるよ。もうずっと、昔から」
「……え? マジで?」

 ディオが狐につままれたような顔をする。

「しつこく聞いといて、そんなに意外?」
「いや、だって……そんな素振り無かったろ、お前」
「はは。じゃあそれだけ俺の演技力が高かったって事だ」
「〜〜〜あぁもうっ、それって俺の知ってる奴か?」

 お菓子を没収された時のメアリーとシアンのように、ディオはどこか拗ねたような言い方をした。

「まあ、そうだね。というかどうしたの? もしかして……俺が秘密にしてたからって拗ねてるの?」

 自然と綻んだ口元を律して、俺は話を続ける。ディオはギクリ、と肩を跳ねさせて視線を僅かに泳がせる。

「別に、拗ねてなんかねーし。お前が俺の知らねー所で恋愛してようが? 俺には関係ねーし」

 そして開き直ったかのように、ディオは文句を垂れるようになった。ちなみにこれは、五割ぐらい機嫌が悪い時の兆候である。
 図星だったらしい。相変わらず、こういう所は子供みたいだ。

「それはどうか分からないよ?」
「はあ? どういう事なんだ?」

 ディオは訝しげに眉を顰めた。
 今にもちぎれてしまいそうなぐらい痛む心臓。もう、今この時この鼓動が止まってしまってもいい。だからせめて、これだけは俺自身の口から伝えておきたかった。

「だって、俺が昔からずっと好きなのは──……他でもない君だから」

 ああ、言ってしまった。
 本当は言うつもりはなかったのに。シャンパージュ嬢のひたむきな恋心に触発されて、勢いのままここまで来てしまった。
 ……もう、後戻りは出来ないな。
 かつてない程に目を点にして、あんぐりと口を開いているディオを見て、俺は来る所まで来てしまった事を強く実感した。

「え、っと……つまり、あれか。お前が、俺を……好きと。それは、あのー…………キスしたいだの、そういう意味合いで?」

 正直、否定されたり嫌悪される覚悟もあった。
 だけどディオは……明らかに動揺しながらも一つずつゆっくりと丁寧に噛み砕いて、理解しようと務めてくれていた。
 それが本当に嬉しくて、そんなディオだからこそ好きになったんだ。と腹の底から湧き上がるような喜びと愛おしさに目頭が熱くなってきた。

「方向性で言えば、その通りかな。でも俺はこれまでずっと気持ちを隠し通して来たんだよ? そういった欲は今の所、特に無いかな」
「なる、ほど。ぁー……これ、どう反応すりゃいいんだァ……?」

 これは心から困惑している時の表情だ。

「…………なァ、ラーク。正直、俺、今どうしたら分かんねぇんだ」
「……うん」

 ディオが真剣な声音で口を切ったから、俺も真剣にその話を聞く。膝の上で作った握り拳が、僅かに震えているけれど……それすらも気にならないぐらい、ディオの言葉に集中していた。

「男が好きだって言うのに偏見はないが……それでもいざ告白までされて、俺も今まで通りに出来る程無神経じゃねぇよ。だから悪ぃ、今まで通りにお前に接する事は……多分、無理だ」
「……大丈夫だよ。最初から覚悟してたから」

 突然告白して困らせているのは俺なのに、ディオはあまりにも誠実だった。眩い程に誠実なディオの姿に、俺は告白した事への罪悪感を覚える。
 こんなにも良い奴なのに。こんなにも、いい人なのに。俺の身勝手な気持ちの所為で困惑し懊悩する羽目になってしまっている。
 それが凄く、申し訳なかった。

「だから頼む、時間をくれ。色々と整理する時間と、お前の気持ちにちゃんと答えを出す為の時間。今の俺には、家族だから無理……って答えしか出せねぇ。でもそれだとお前に失礼だろ。だからちゃんと、お前の事を考えて答えを出す為の時間をくれ」

 ディオは真剣な目でそう言い切った。
 どう考えても、気持ち悪いだとかで一蹴した方が楽なのに。それでもディオは、そうやっていつも、相手の事ばかり考えて行動するよね。
 どこまでも誠実で、優しくて、不器用なその言葉に──視界が潤み、声が震える。

「〜〜っ、ほん……とに、そういうとこだぞ、ディオぉ……っ!!」

 みっともなく泣き出す俺を、ディオはギョッとしたような顔で慌てて宥めようとする。

「ちょ、泣くなって何歳だよお前!」
「にっ……じゅ、ご……」
「ああそうだな同い歳だな!!」
「おれ、だって、はっさいとかの……ときから、ディオのこど、すき…………だっら、がら……っ」
「八歳?! おま──はちっ、え?! 何年…………ちょ、え?!?!」

 何で告白した時より驚いているんだ。昔からずっと好きだったって言っただろ。
 あーそうだよ、十七年近くずっと、ディオに片想いしてたんだよ俺は! くそっ、そんなに驚く事か!!
 ……なんて、脳内で喧嘩腰になっても意味は無い。意味は無いって分かってるんだけど、思わずにはいられない。

 ……──やっぱり。どうしようもないくらい、この不器用な男が大好きなんだな、俺は。
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