だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
 楽しげにご友人と話している姿も、困ったような表情も、観戦中のハラハラとした表情もウズウズとした様子も……主君の全てが、白黒の世界でも魅力的だった。
 そんな時だった。マクベスタ様が謎の黒い剣を出し、騎士君との一騎打ちに更なる緊迫感を齎した。それを危険だと判断したらしい主君が、静かに「おいで、白夜」と呟く。
 御髪と同じ白い剣を抜き、主君はくるりとこちらを振り向いて、

「これお願い」

 言葉も短く、二つの剣の鞘を俺に任せてくださった。
 主君からお預かりした二つの鞘を抱え、ドレスのまま駆け出した主君のお背中を見守る。
 一瞬にして表情も纏う空気も全てが変わり、まるで初めてお会いしたあの雪の日の主君のような──……吹雪の中でも凛と咲く一輪の花のようなそのお姿に、思わず見蕩れていた。
 俺の女神様は本当に美しいな…………と暫く感傷に浸っていると、突然主君が俺の背中に隠れた。どうやらシルフ様とララルス侯爵の説教に辟易しているようだ。

「おいルティ、さっさとアミィを渡せ。従僕なら主の為になる事をすべきなんじゃないか? というかさっきから近いんだよ」
「シルフ様の言う通りです。真の忠臣たるもの、時には主を諌める事も重要なお役目なのですよ」

 お二人に詰め寄られて、思わずたじろぐ。……確かに、その言葉にも一理ある。だがしかし、俺は全面的に主君のお気持ちを尊重し優先したい。

「……えっと、俺は……」

 どうすればいいのかと、主君に視線を送る。
 この後どうするかは主君のお言葉次第。だからどうか、俺に指示をください。貴女様の心の赴くままに、俺は動きますから。

「ルティ、命令よ。私を連れてどこかに逃げなさい。何か……いい感じの所に!」

 命令。その言葉に、俺は不思議と高揚していた。だってそれは、主君の確実なご意思だから。俺が従うべき、唯一にして絶対な言葉だからだ。

「……──御意のままに、我が主君(マイ・レディ)

 俺は主君を抱き抱え、走り出した。
 すると程なくして騎士君が殺人鬼のような形相で追いかけて来たので、とにかく全力で逃げた。一応元殺人鬼の俺よりもずっと凶悪な殺人鬼のように見える、凄まじい形相だった。
 元より、そう易々と捕まるつもりは無かったが……騎士君にだけは捕まりたくなかった。これは単なる俺の意地なんだけど、足が動く限り全力で走り続けた。
 ……それにしても、主君、体軽くない? 前に抱えさせていただいた時も思ったけど、本当に軽い。筋肉がつきにくいとは聞いていたけど、普段の運動量の割に筋肉があまり感じられない。

 だから、まだ執事になったばかりの頃に、効率的な練習メニューとか聞かれたのかな……でも俺の場合、長いこと砦で暮らしてたから自然とこうなっただけだしなぁ。
 あの時は、『特別な事は特に……普通に鍛えていただけです』ってつい普通に答えてしまった。もう少しちゃんと考えを巡らせてから答えるべきだったなと、今更ながらに反省する。

 今日の仕事が終わったら城の大書庫にでも行って、筋肉の作り方でも調べようかな。何か主君のお役に立てるかもしれないし。
 肉体的にも精神的にもまだ余裕があるので、俺は西部地区の大通りを疾走しながら今後の予定を少し立て直していた。
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