だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「アルベルト、大丈夫? お水とか必要なら出すよ?」
視界の端に主君のドレスが映る。
こんな情けない姿を晒し続ける訳には……! と頑張って顔を上げたところ、
「お気遣い、感謝致します。俺は大丈夫──で、す……っ!?」
予想以上に、主君のお顔が近くにあって驚いた。
思わず後退っては勢いよく後頭部を負傷する。これに主君は驚き、「だっ……本当に大丈夫?!」と俺の顔を覗き込んできた。
「大丈夫……です。ご心配には及びません」
必死に平静を装うも、やはり後頭部は痛い。そして心臓はずっとうるさい。
こんな失礼な態度を取ったにも関わらず、主君は氷嚢を作ってくださった。その優しさに心打たれつつ、俺は自分の心音に耳を傾けていた。
主君の事を考えれば考える程、大きくなっていく。
赤く染る夕陽を眺める主君の背を見つめては、名前の無い幸福な感情が、胸の奥から湧き上がるのを感じた。
その瞬間、とても繊細な色硝子を光が通ったかのような……瞬くような輝きがチカチカと視界に現れた。
トクン、トクン、と鼓動を刻むごとにその瞬きは広がってゆく。白と、灰と、黒と、赤しかなかった曇った世界が晴れ渡り、虹がかかっていく。
予想だにしない状況に困惑しながらフラフラと立ち上がり、夕陽に透ける主君の銀色の髪に息を呑んだ時。
「ねぇ、アルベルト。貴方も見て! 夕陽がとっても綺麗よ!」
今までで一番強く、心臓が脈打った。
俺の名前を呼びながらふわりと振り向いて、笑う。その瞳と目が合った時──……もうどんな色かも忘れていた色達が、突如として俺の世界に降り注いだ。
雨の後に虹がかかるのではなく、虹からその色が雨として降り注いでいるかのように、世界が虹色に染まっていく。
もう二度と見る事はないと思っていた色彩。
ずっと、ちゃんと見たいと思っていた、貴女様の色。
「────とても、綺麗だ」
夕陽を背に満面の笑みを浮かべている彼女の瞳は、話に聞いていた通り、夕焼けを覆い尽くすような深く美しい夜空の色だった。
その周りにて夕陽を受け輝く銀色の髪は、まさに月の光のよう。
遠い昔に弟と見た満点の星空のような……そんな目を奪われる笑顔に、無意識に感情がこぼれ落ちていた。
仕方無いと諦めていたけれど、本当はずっと見たかったそれを目の当たりにして、俺は涙を堪えられなかった。
見られないようにと後ろを向いて、涙を必死に拭う。それとは別に……もう一つ、後ろを向いた理由があった。
目頭だけでなく、顔が熱くなっていた。きっと俺の顔は、主君への想いで夕陽に負けず劣らず赤く染まっている事だろう。
それを証明するかのように、ずっと高鳴っているこの胸の鼓動。これはきっと──主君への、愛そのものだ。
俺は主君の事を愛している。心の奥底から、アミレス・ヘル・フォーロイト様を愛している。
この名前の無い幸福な感情は、きっと…………ううん。これには、まだ名前をつけないでおこう。簡単に名前をつけて定義づけてしまうには、あまりにも──……愛おしくて、大切だから。
でも、いつか叶うならば。
我が最愛の女神様に、この幸福な感情を捧げたいと、そう願ってしまう。
視界の端に主君のドレスが映る。
こんな情けない姿を晒し続ける訳には……! と頑張って顔を上げたところ、
「お気遣い、感謝致します。俺は大丈夫──で、す……っ!?」
予想以上に、主君のお顔が近くにあって驚いた。
思わず後退っては勢いよく後頭部を負傷する。これに主君は驚き、「だっ……本当に大丈夫?!」と俺の顔を覗き込んできた。
「大丈夫……です。ご心配には及びません」
必死に平静を装うも、やはり後頭部は痛い。そして心臓はずっとうるさい。
こんな失礼な態度を取ったにも関わらず、主君は氷嚢を作ってくださった。その優しさに心打たれつつ、俺は自分の心音に耳を傾けていた。
主君の事を考えれば考える程、大きくなっていく。
赤く染る夕陽を眺める主君の背を見つめては、名前の無い幸福な感情が、胸の奥から湧き上がるのを感じた。
その瞬間、とても繊細な色硝子を光が通ったかのような……瞬くような輝きがチカチカと視界に現れた。
トクン、トクン、と鼓動を刻むごとにその瞬きは広がってゆく。白と、灰と、黒と、赤しかなかった曇った世界が晴れ渡り、虹がかかっていく。
予想だにしない状況に困惑しながらフラフラと立ち上がり、夕陽に透ける主君の銀色の髪に息を呑んだ時。
「ねぇ、アルベルト。貴方も見て! 夕陽がとっても綺麗よ!」
今までで一番強く、心臓が脈打った。
俺の名前を呼びながらふわりと振り向いて、笑う。その瞳と目が合った時──……もうどんな色かも忘れていた色達が、突如として俺の世界に降り注いだ。
雨の後に虹がかかるのではなく、虹からその色が雨として降り注いでいるかのように、世界が虹色に染まっていく。
もう二度と見る事はないと思っていた色彩。
ずっと、ちゃんと見たいと思っていた、貴女様の色。
「────とても、綺麗だ」
夕陽を背に満面の笑みを浮かべている彼女の瞳は、話に聞いていた通り、夕焼けを覆い尽くすような深く美しい夜空の色だった。
その周りにて夕陽を受け輝く銀色の髪は、まさに月の光のよう。
遠い昔に弟と見た満点の星空のような……そんな目を奪われる笑顔に、無意識に感情がこぼれ落ちていた。
仕方無いと諦めていたけれど、本当はずっと見たかったそれを目の当たりにして、俺は涙を堪えられなかった。
見られないようにと後ろを向いて、涙を必死に拭う。それとは別に……もう一つ、後ろを向いた理由があった。
目頭だけでなく、顔が熱くなっていた。きっと俺の顔は、主君への想いで夕陽に負けず劣らず赤く染まっている事だろう。
それを証明するかのように、ずっと高鳴っているこの胸の鼓動。これはきっと──主君への、愛そのものだ。
俺は主君の事を愛している。心の奥底から、アミレス・ヘル・フォーロイト様を愛している。
この名前の無い幸福な感情は、きっと…………ううん。これには、まだ名前をつけないでおこう。簡単に名前をつけて定義づけてしまうには、あまりにも──……愛おしくて、大切だから。
でも、いつか叶うならば。
我が最愛の女神様に、この幸福な感情を捧げたいと、そう願ってしまう。