だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
 彼女の祝詞(ことば)に従うかのように晴れ渡った空を見て……一同はあんぐりと口を開け、外を眺めていた。
 途中でハッとなり、シュヴァルツは真剣な表情で思考する。

(あれだけの雨雲と雨を一瞬にして消しただと? いや、違う……これはただ消したんじゃァねェ、ここら一帯の雨雲と雨を全て水の魔力で掌握し、魔力へと変換して吸収したのか! 馬鹿だろコイツ……っ、そんな神々の権能と同等の芸当、精霊共も妖精共も勿論、オレサマ達でさえ出来ねェしやらねェぞ!?)

 自然や天候を操るなんて芸当、神々や純血の竜種程の存在でなければ不可能だ。そう、思われていた。
 悪魔(かれ)だってそう思っていた。だがアミレスは、辺りに自身の魔力を浸透させて自身を水に変えた事の応用で、辺り一帯の水を水の魔力に変えて吸収した。
 アミレスが前世で学んで来た様々な知識に加え、シルフより与えられた星王の加護(ステラ)による膨大な魔力と、魔力そのものとの親和性の高さ故に成立した事。反則級(チート)な彼女だからこそ出来た、馬鹿げた芸当だったのだ。
 思わず目を疑うこの異常事態に、シュヴァルツも流石に頭を抱える。強く項垂れて、「はぁぁぁぁぁぁぁ……意味わかんねぇ…………」と小声で叫びながら体中の空気を押し出していた。

 アミレスのサプライズに雨はピタリと止んで、雨雲も霧散する。それらの水量は果てしなく、単純に魔力に変換しても、アミレスの保有する魔力量よりも軽く五倍近い量の魔力になった訳で。
 それらをそのまま放置すると、街の人達が魔力酔いを起こす可能性だってある。だからどうしてもアミレスが吸収するほかなくて。
 もうとっくに溢れ出している水瓶に水を注ぎ続けるようなこの状況。アミレスは、魔力欠乏ならぬ魔力過剰で急速に顔色を悪くした。

「うぐ……ま、って……きもちわるい、むり、つらい……はきそう…………」

 ゴンッ、と勢いよく額を机に叩きつけて青い顔で呻く。ここまで行動すれば、窓の外に意識を向けていた面々とて流石に気づいた。

「王女様、どうしたんだ! 顔色が凄く悪いぞ」

 シャルルギルが心配そうにアミレスの顔を覗き込むと、

「どうなされたのですか王女殿下!? 一体何が……っ!」

 イリオーデもすかさずアミレスに駆け寄る。それに続くようにルーシアンも眉尻を下げて、

「突然具合が悪くなったみたいだけど、何か変なものでも入ってたのかな」

 空になった皿をじっと見つめた。
 死人のような顔で、アミレスは絞り出すように「ぁー……」と濁った声を漏らして、眉間に皺を作った。

「……ずつう、はきけ、いもたれ、ふくつう、はきけ、はきけ、やばい…………」

 拙い片言で、アミレスは何とか症状を伝えた。特に吐き気が凄まじいようだ。
 過剰な魔力が、今も尚彼女に猛威を奮い続けているのだ……いくらアミレスと言えども、自身の許容量を超える魔力を吸収するのは不可能だった。

(王女殿下に一体何を盛ったのだ、この店は!! 今すぐ責任者を問いただして──)

 主を失うやもと言う恐怖からか冷静さを失い、憤りを強く宿した表情で、イリオーデはキッと店員を睨みつけた。しかし、今にも店員に殴り掛かりそうな剣幕のイリオーデを、シュヴァルツが手首を掴み引き止める。
 その見た目からは想像もつかないような力強さに、イリオーデはその場から動けなくなった。

「ッ! 何をするんだ、シュヴァルツ……! この店の者達は王女殿下を手にかけようとしたのだぞ、国家反逆罪だぞ!!」

 認識阻害がなければ正体などとうに明らかになっていただろう。それ程までに、彼等の言い争いは周りの客にも聞こえていた。
 ──当然、個人の特定に繋がるような全ての言葉が曖昧にぼかされた状態で。
 イリオーデはシュヴァルツに手を離すよう訴える。すると、シュヴァルツはため息を一つこぼしてイリオーデを見上げた。

「別にここの人達がどうなろうとぼくはどうでもいいけどさ、冤罪で人が死んだって聞いたらおねぇちゃんが後で傷つくと思うんだけど」
「冤罪……? それは一体、どういう事だ」
「はぁ。おねぇちゃんって本当に見上げたお人好しだよね。たかが部下の求婚(プロポーズ)なんかにここまで自己犠牲発揮するとか、理解不能だよ」
「……あの二人の件と、王女殿下の容態に何の関係があるんだ」

 やれやれ。とシュヴァルツが肩を竦めると、イリオーデは低く怒りを滲ませる声音で、シュヴァルツを追及した。
 シュヴァルツは無言で、呆れた目線をアミレスに向ける。そして小さく指をパチンッと鳴らしてから立ち上がった。
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