だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

315.薔薇の君へ、花車を5

(ばっかじゃねーの。人間が身の程知らずな事するからそうなるんだよ)

 イリオーデから手を離し、シュヴァルツはアミレスの傍に立つ。青白い顔で苦しむアミレスを見てまたもや大きなため息を吐いて、

「自業自得だからね、おねぇちゃん」
「じご、じとく……?」

 冷ややかに言い捨てたかと思えば、シュヴァルツはアミレスの顔を少し持ち上げて──……、

「なっ──────!?」
「え」
「はわわ……」

 その唇を、強引に重ねた。
 体調不良に引き摺られて青くなっていたアミレスの唇を、シュヴァルツの薄桃色の唇が覆う。その光景にイリオーデは言葉を失い、シャルルギルはぽかんと間抜けな顔に。ルーシアンは青少年らしく少し照れているようだった。
 あまりの衝撃にイリオーデが固まる間も、シュヴァルツはずっとアミレスの唇を──彼女のファーストキスを奪い続けていた。

(……流石に舌入れたらマズイか。粘膜接触した方が色々と早いんだけどなァ)

 押し付けるように、舐るように。舌は入れていないものの、シュヴァルツは慣れたように何度もアミレスの唇を蹂躙していく。
 時が経てば経つ程、アミレスの顔に生気が戻ってゆく。唇を介して余剰な魔力がシュヴァルツへと流れ出て行っているのだ。
 だとすれば当然、彼女の体にだって力が入る訳で。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」

 シュヴァルツを勢いよく突き飛ばし、アミレスは顔を真っ赤にして狼狽える。焦る彼女に突き飛ばされたシュヴァルツは、妖艶な表情で舌なめずりをしてから、パッといつもの顔を作った。

「もー、助けてあげたのに酷くなぁい? ぼく人命救助しただけなんだけどー」
「だっ、でも……っ!!」

 テンパるアミレス。顔を真っ赤にして、あうあうと口をパクパクとさせているからかまるで金魚のようだ。

「はじめて、だったのに……っ」

 ぷるぷると震えながら、十四歳の少女は呟いた。

(きゅん? 何、コレ。今スゲェ……胸が…………)

 シュヴァルツが自身の異変に戸惑っていると、ようやくイリオーデのフリーズが解けたようで。またもや彼は凄まじい剣幕になり、シュヴァルツに詰め寄った。

「っ、おい!! 貴様、王女殿下に無体を働きおって……! 殺す! この場でその首落としてやる!!」
「だぁーかーらー、人命救助だって言ったじゃん」
「何が人命救助だ!」
「おねぇちゃんは魔力を過剰に吸収した結果、魔力を処理しきれなくなって有り余った魔力で過度に酔った状態だったんだよ。だから粘膜接触でぼくが余剰な魔力を請け負った。今はアレしか方法がなかったんだから、仕方無いでしょ」
「魔力を、過剰に吸収……?」

 胸ぐらを掴まれても焦る事なく冷静に語る姿に、イリオーデも勢いを削られる。しかしその顔は険しいままで。

「さっき急に晴れたでしょ? あれ、おねぇちゃんの仕業なんだよ。辺り一帯の雨やら雲やらを水の魔力で吸収したんでしょ、おねぇちゃん?」
「な、何で分かったの?」
「そりゃ分かるよ。ぼく、天才だからね。そういう事で、ぼくも仕方無くああしたってワケ。こんな風に殴りかかられる謂れは無いんですけどぉー」

 シュヴァルツの話に一応納得して、イリオーデは強く舌打ちをして乱雑にシュヴァルツを放した。
 イリオーデの追及から一時的に解放されたシュヴァルツは、黙々と胸元のリボンを結び直す。

(……ま、他に方法が無かったワケでもないが。優しい優しいリード君が気を利かせて贈ってくれた魔導兵器(アーティファクト)を肌身離さず持っておかなかったアイツの自業自得だな。オレサマとしてはこっちのが面白れェからこれでいいけどよ)

 シュヴァルツが小さくほくそ笑んだところで、改めてイリオーデはシュヴァルツを見下ろした。まだ尋問を行うつもりのようだ。

「……だとしても、王女殿下の許可無しで勝手に唇を奪うなど……道理に欠けているとは思わなかったのか」
「んー、特には。だってこれに関しては後先考えないおねぇちゃんの自業自得だし。ぼくには非は無いと思うんだよね」
「貴様……っ!」

 あっけらかんと語るシュヴァルツに、イリオーデは怒りを募らせる。握り拳を震わせて、イリオーデはシュヴァルツを射抜かんとばかりに睨んだ。
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