だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「うむ……このような胸騒ぎ、ここ数百年は感じて来なかったからして、我にも分からんのじゃ」
ナトラは申し訳無さそうに言ってしょんぼりと項垂れる。
竜種だと言うのにとても小さく見えるその頭に手を置き、優しく撫でてあげて、
「ありがとう、教えてくれて。未知のものに対する恐怖は誰だって同じだもの、ナトラだって怖いのに、こうして不安を打ち明けてくれてありがとう」
私はナトラを元気づけようと言葉を掛けた。これにナトラはホッとしたように胸を撫で下ろし、少し俯いた。
「……我は、もし何が起きてもお前の味方じゃ。お前を決して死なせぬ。お前の事は、我が護ってやる。じゃから…………」
か細い声が聞こえてくる。
小さくて、されどとても力強い彼女の幼い指が、私の腕にぴたりと絡まる。やがて私の手は彼女自身によって、そのもっちりとした頬に持っていかれて。
「──これからもずっと、我と一緒にいてくれ。我はもう二度と、大事なものを失いたくないのじゃ」
私の手に、ナトラは頬を擦り寄せた。
そのあまりにも切なげな表情と、絞り出したような切実な声。ずっと平気なフリをしていたみたいだけれど、赤の竜と青の竜の件はやっぱりこの子にとってもかなり辛い出来事だったのだろう。
白の竜は今もこの大陸のどこかで封印されていて、黒の竜は行方不明──あの悪魔の話によると、魔界にいるそうだけど。
とにかくナトラが大事な家族を失い、離れ離れになっている事に変わりはない。ナトラは何千何万の時を生きる竜種だけれど、その蓋を開けてみればこの通り、見た目も中身もとても幼い子供のような子だ。
ずっと寂しくて、ずっと辛かったのだろう。
大事な家族の現況を見聞して、人類に憤りを覚えた事だろう。しかし彼女は……家族を破滅へ追いやった人間とは違うからと、私の事を信じて共に来てくれた。
人間社会なんて竜種のナトラには生きづらいだろうに、ナトラは文句一つ言わずに私といる事を選んでくれた。
そんな彼女に、私が出来る事はただ一つ。
「いいよ。死ぬまでは、ナトラとずっと一緒にいるね。仕事とかで傍を離れちゃうと思うけど……愛想尽かして私の事を見捨てたりしないでね?」
最短一年。最長でもあと九十年とかだろうか。悠久の時を生きる緑の竜にとってはとても短い時間しか、人間の私は生きられない。
そもそも、私は来年にはもう死んでいる可能性すらあるのだ。だから約束しよう。
死ぬまでの間、ただ一緒にいるだけの約束なら……きっと私にだって守る事が出来る。ナトラが人類に愛想を尽かさない限り、この契約は不履行にならない。
だから私は約束した。私が生きている間は、ナトラと一緒にいると。
「……うむ。良い答えじゃ。我、お前とずっと一緒にいたいから頑張るのじゃ!」
ナトラは満足気に、にんまりと笑った。
何を頑張るのかは分からないけれど、ナトラが楽しそうだからいっか。
もしかしたら対フリードルや対皇帝の戦いを代わりにやってくれるのかもしれない。だとしたら嬉しいなあ、私にはあの人達と正面切って戦う事すら出来なさそうだし。
ナトラは竜種だから戦闘面においては期待大! だしね。
その後、なんとナトラが自主練習に付き合ってくれたのだ。自主練習の相手が竜種なんて人、多分私以外には世界中捜してもいないと思う。
竜らしい固有の能力や権能なんかは使えないと言っていたが、そういったデバフを補って余りあるその膂力に翻弄された。
分かってはいたが、やはりその力強さは人智を超越している。単純な速さや力では師匠すらも軽く上回る真性の怪物。
本気を出されたら目で追う事なんてまず叶わないような俊敏さに、拳一つで大地を割れるような怪力。
見た目があまりにも可愛らしいから忘れてしまいがちだが──やはりナトラは……この世に五体しか産み落とされなかった魔族の祖、音に聞こえし純血の竜種なのだ。
ナトラは申し訳無さそうに言ってしょんぼりと項垂れる。
竜種だと言うのにとても小さく見えるその頭に手を置き、優しく撫でてあげて、
「ありがとう、教えてくれて。未知のものに対する恐怖は誰だって同じだもの、ナトラだって怖いのに、こうして不安を打ち明けてくれてありがとう」
私はナトラを元気づけようと言葉を掛けた。これにナトラはホッとしたように胸を撫で下ろし、少し俯いた。
「……我は、もし何が起きてもお前の味方じゃ。お前を決して死なせぬ。お前の事は、我が護ってやる。じゃから…………」
か細い声が聞こえてくる。
小さくて、されどとても力強い彼女の幼い指が、私の腕にぴたりと絡まる。やがて私の手は彼女自身によって、そのもっちりとした頬に持っていかれて。
「──これからもずっと、我と一緒にいてくれ。我はもう二度と、大事なものを失いたくないのじゃ」
私の手に、ナトラは頬を擦り寄せた。
そのあまりにも切なげな表情と、絞り出したような切実な声。ずっと平気なフリをしていたみたいだけれど、赤の竜と青の竜の件はやっぱりこの子にとってもかなり辛い出来事だったのだろう。
白の竜は今もこの大陸のどこかで封印されていて、黒の竜は行方不明──あの悪魔の話によると、魔界にいるそうだけど。
とにかくナトラが大事な家族を失い、離れ離れになっている事に変わりはない。ナトラは何千何万の時を生きる竜種だけれど、その蓋を開けてみればこの通り、見た目も中身もとても幼い子供のような子だ。
ずっと寂しくて、ずっと辛かったのだろう。
大事な家族の現況を見聞して、人類に憤りを覚えた事だろう。しかし彼女は……家族を破滅へ追いやった人間とは違うからと、私の事を信じて共に来てくれた。
人間社会なんて竜種のナトラには生きづらいだろうに、ナトラは文句一つ言わずに私といる事を選んでくれた。
そんな彼女に、私が出来る事はただ一つ。
「いいよ。死ぬまでは、ナトラとずっと一緒にいるね。仕事とかで傍を離れちゃうと思うけど……愛想尽かして私の事を見捨てたりしないでね?」
最短一年。最長でもあと九十年とかだろうか。悠久の時を生きる緑の竜にとってはとても短い時間しか、人間の私は生きられない。
そもそも、私は来年にはもう死んでいる可能性すらあるのだ。だから約束しよう。
死ぬまでの間、ただ一緒にいるだけの約束なら……きっと私にだって守る事が出来る。ナトラが人類に愛想を尽かさない限り、この契約は不履行にならない。
だから私は約束した。私が生きている間は、ナトラと一緒にいると。
「……うむ。良い答えじゃ。我、お前とずっと一緒にいたいから頑張るのじゃ!」
ナトラは満足気に、にんまりと笑った。
何を頑張るのかは分からないけれど、ナトラが楽しそうだからいっか。
もしかしたら対フリードルや対皇帝の戦いを代わりにやってくれるのかもしれない。だとしたら嬉しいなあ、私にはあの人達と正面切って戦う事すら出来なさそうだし。
ナトラは竜種だから戦闘面においては期待大! だしね。
その後、なんとナトラが自主練習に付き合ってくれたのだ。自主練習の相手が竜種なんて人、多分私以外には世界中捜してもいないと思う。
竜らしい固有の能力や権能なんかは使えないと言っていたが、そういったデバフを補って余りあるその膂力に翻弄された。
分かってはいたが、やはりその力強さは人智を超越している。単純な速さや力では師匠すらも軽く上回る真性の怪物。
本気を出されたら目で追う事なんてまず叶わないような俊敏さに、拳一つで大地を割れるような怪力。
見た目があまりにも可愛らしいから忘れてしまいがちだが──やはりナトラは……この世に五体しか産み落とされなかった魔族の祖、音に聞こえし純血の竜種なのだ。