だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
334.ある竜の絶望
『……っ、分かったわ!! 緑、行きましょう』
『あね、うえ……あにうえは、あにうえは……どうなるのじゃ?』
『──大丈夫。大丈夫ですよ、緑……これからもずっと、私達は一緒だから』
『ずっと、いっしょ……ず、っと…………』
緑を強制的に人間体へと変え、自身もまた擬態して、白は行動に出た。
現実を受け止められない様子の緑に、なんと白は自分の権能を使用したのだ。緑の精神に干渉して軽い催眠状態にした。
虚ろな目で白の言葉を繰り返す緑を、白は泣きそうになりながら抱き締めて共にどこかへと転移した。これできっと、緑と白は大丈夫だ。ならば、赤が人間共にやられないように守らないと。そう……振り向いた時。
『ばーか。何勝手に暴れてるの? 馬鹿のくせに、生意気にも青を差し置いてさ』
荒れ狂う赤の隣に、青が立っていた。
『兄なら、弟を置いて勝手に死のうとするなよ。青達はフタゴだから死ぬ時は一緒だって言ったのは赤でしょ』
その青い翼で赤の頭を叩き、青は人間共の前に立ちはだかる。その背中を見て、これまでの一万年で幾度となく目にした小突き合う二体の姿が思い出される。
『独りだけ緑ちゃんの為に死ぬとか、絶対に許さないから。だから──……青も一緒に死なせてよ、兄ちゃん』
その瞬間。青がこちらを振り向いて、何も言わずに瞳を細めた。一万年も一緒にいたんだ。言葉にせずとも青の言いたい事ぐらい分かる。
───ごめんね、兄ちゃん。緑ちゃんの事……青の分もよろしくね。
そう、青は言いたいのだろう。それを理解した時、僕の瞳からは涙が溢れ出していた。何故なら、赤の後を追うように、青までもが理性を放棄したから。
寂しがり屋で格好つけたがりの赤を独りで災害として死なせるぐらいなら、せめて自分だけでも共に災害となろう──、それは……素直じゃない青らしい、最期の決断だったのだ。
『グルゥアアアアアアアアアアアッッッ』
『ギィガァアアアアアアアアッッ!!』
赤と青が吼える。それを僕は、人間体のまま膝をつき、茫然と眺める事しか出来なかった。
僕がもっとちゃんとしていれば。僕がもっと強ければ。緑を危険な目に遭わせる事も、赤と青を死に追いやる事も無かったのに。
僕の所為で──……大事な弟達が、死ぬんだ。
もう取り返しのつかない所まで来てしまった。大事な弟達が死ぬ。僕はそれを止める事が出来ず、ただ指をくわえて眺める事しか出来ない。
その絶望から茫然自失となり、あろう事か死に向かう弟達に安らかな終わりを用意する訳でもなく、辛く苦しい終わりに向かわせてしまっていた。
『……──兄さんっ!』
茫然としていた僕に、人間の魔の手が及んでいたようだ。勇者だのと呼ばれていた人間が、魔剣を振りかざしていたのだが……それを、白が防いだ。
『白、なんで、ここに……』
『兄さんが心配だったからですわ! 急いで戻って来てみれば、案の定、人間に攻撃されていますし!!』
純白の髪を揺らして、白は勇者の攻撃を跳ね返した。白の登場により分が悪いと判断したのか、勇者は顔を歪めて一度退く。
しかし、人間共は未だに僕達を殺す事を諦めていない。
『っ、緑はどうしたんだ!?』
『あの子はこの世界で一番安全な所に連れて行って、私の権能で今日の記憶を奪い弱体化させて眠らせました。ああでもしないと、緑までもが人間達と戦う事になるでしょうから』
『……君も、緑と一緒に逃げてくれと言ったのに』
『嫌ですわ。赤の事で自暴自棄になりかねない兄さんを、独りにする訳にはいきませんもの。しかし、まさか青まで…………』
『二体は僕が看取るから、白はどうか逃げてくれ。人間共は僕達殺す為なら手段を厭わない。君まで危険な橋を渡る必要は無い』
『さっきから言ってますけれど、嫌ですわ』
『なっ──! 何で僕の言う事を聞いてくれないんだ!? せめて、せめて白と緑だけでも生き残って欲しくて、僕は……っ!!』
今まで反抗なんて言葉とは無縁だった白が、ここに来て頑なに首を縦に振らなくなった。
もう赤と青を救う事は出来ない。死とは縁遠い僕達ですらも死ぬ事となる選択肢を、僕が彼等に選ばせてしまったから。
だからせめて、その最期を看取り弔ってやりたいと思った。
『あね、うえ……あにうえは、あにうえは……どうなるのじゃ?』
『──大丈夫。大丈夫ですよ、緑……これからもずっと、私達は一緒だから』
『ずっと、いっしょ……ず、っと…………』
緑を強制的に人間体へと変え、自身もまた擬態して、白は行動に出た。
現実を受け止められない様子の緑に、なんと白は自分の権能を使用したのだ。緑の精神に干渉して軽い催眠状態にした。
虚ろな目で白の言葉を繰り返す緑を、白は泣きそうになりながら抱き締めて共にどこかへと転移した。これできっと、緑と白は大丈夫だ。ならば、赤が人間共にやられないように守らないと。そう……振り向いた時。
『ばーか。何勝手に暴れてるの? 馬鹿のくせに、生意気にも青を差し置いてさ』
荒れ狂う赤の隣に、青が立っていた。
『兄なら、弟を置いて勝手に死のうとするなよ。青達はフタゴだから死ぬ時は一緒だって言ったのは赤でしょ』
その青い翼で赤の頭を叩き、青は人間共の前に立ちはだかる。その背中を見て、これまでの一万年で幾度となく目にした小突き合う二体の姿が思い出される。
『独りだけ緑ちゃんの為に死ぬとか、絶対に許さないから。だから──……青も一緒に死なせてよ、兄ちゃん』
その瞬間。青がこちらを振り向いて、何も言わずに瞳を細めた。一万年も一緒にいたんだ。言葉にせずとも青の言いたい事ぐらい分かる。
───ごめんね、兄ちゃん。緑ちゃんの事……青の分もよろしくね。
そう、青は言いたいのだろう。それを理解した時、僕の瞳からは涙が溢れ出していた。何故なら、赤の後を追うように、青までもが理性を放棄したから。
寂しがり屋で格好つけたがりの赤を独りで災害として死なせるぐらいなら、せめて自分だけでも共に災害となろう──、それは……素直じゃない青らしい、最期の決断だったのだ。
『グルゥアアアアアアアアアアアッッッ』
『ギィガァアアアアアアアアッッ!!』
赤と青が吼える。それを僕は、人間体のまま膝をつき、茫然と眺める事しか出来なかった。
僕がもっとちゃんとしていれば。僕がもっと強ければ。緑を危険な目に遭わせる事も、赤と青を死に追いやる事も無かったのに。
僕の所為で──……大事な弟達が、死ぬんだ。
もう取り返しのつかない所まで来てしまった。大事な弟達が死ぬ。僕はそれを止める事が出来ず、ただ指をくわえて眺める事しか出来ない。
その絶望から茫然自失となり、あろう事か死に向かう弟達に安らかな終わりを用意する訳でもなく、辛く苦しい終わりに向かわせてしまっていた。
『……──兄さんっ!』
茫然としていた僕に、人間の魔の手が及んでいたようだ。勇者だのと呼ばれていた人間が、魔剣を振りかざしていたのだが……それを、白が防いだ。
『白、なんで、ここに……』
『兄さんが心配だったからですわ! 急いで戻って来てみれば、案の定、人間に攻撃されていますし!!』
純白の髪を揺らして、白は勇者の攻撃を跳ね返した。白の登場により分が悪いと判断したのか、勇者は顔を歪めて一度退く。
しかし、人間共は未だに僕達を殺す事を諦めていない。
『っ、緑はどうしたんだ!?』
『あの子はこの世界で一番安全な所に連れて行って、私の権能で今日の記憶を奪い弱体化させて眠らせました。ああでもしないと、緑までもが人間達と戦う事になるでしょうから』
『……君も、緑と一緒に逃げてくれと言ったのに』
『嫌ですわ。赤の事で自暴自棄になりかねない兄さんを、独りにする訳にはいきませんもの。しかし、まさか青まで…………』
『二体は僕が看取るから、白はどうか逃げてくれ。人間共は僕達殺す為なら手段を厭わない。君まで危険な橋を渡る必要は無い』
『さっきから言ってますけれど、嫌ですわ』
『なっ──! 何で僕の言う事を聞いてくれないんだ!? せめて、せめて白と緑だけでも生き残って欲しくて、僕は……っ!!』
今まで反抗なんて言葉とは無縁だった白が、ここに来て頑なに首を縦に振らなくなった。
もう赤と青を救う事は出来ない。死とは縁遠い僕達ですらも死ぬ事となる選択肢を、僕が彼等に選ばせてしまったから。
だからせめて、その最期を看取り弔ってやりたいと思った。