だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

335.ある竜の懺悔

『──廻れ、生命の環。平等に公正に幸福と不幸を。矢をつがえよ、槍を穿て、剣を構え、盾を取れ。これは我々の聖戦である』

 空中にて輝く、僕達をも丸々飲み込んでしまいそうな、巨大な黄金の魔法陣。
 そこから顕現するのは、いつか見た天使のような姿をした強大な魔力の塊。それは大きな額に何重にも輝く魔法陣を出現させ、僕達への殺意を空間を裂く程の熱の光線として放った。

『天使よ、聖なる裁定を下せ』

 子供の声と共に、その光線は僕達を貫こうとした。しかし、それは直前にて防がれる。

『……──人の子よ。あなたのその力は、人の身にはあまりにも分不相応なものです。その力に焼かれてあなたが死に絶える前に、私が奪ってさしあげましょう』

 白がその光線を受け、吸収した。それに子供は目を丸くして少し動揺を見せるも、『天使よ────』ともう一度あの魔法を使おうとする。だが、それを白が許さなかった。

『はぁ……まさか、こんな人間がいるなんて。こんな者がいては、兄さんと緑の生活が脅かされかねないですね』

 白が、おもむろに語り出す。

『本当は私も共にいたかったのだけど、仕方無いですね。泣き虫な兄さんと緑が離れ離れになって毎日泣くぐらいなら……私が犠牲になった方がずっといいですわ』
『待って……白、何を言って──っ!?』

 その瞬間。白はあろう事か、僕をどこかへと転移させようとした。権能を使えば回避出来なくもないが、そうすれば白にどのような影響が及ぶかも分からない。だから、僕は何も出来なかった。

『ここは私に任せてくださいな。だから兄さんは、私の代わりに緑と共にいてあげてください。緑を……私達の可愛い妹を、どうか、よろしくお願いします』

 転移させられる直前。白の優しい声が耳に響いた。
 視界が真っ白に光り、やがて目がまともに機能するようになった時、僕は見知らぬ場所にいた。そこは一万年の記憶の中にも無い、とても寂しい空間。

 ──何年、その場所にいたのだろう。何とかしてその空間を抜け出した時……僕は絶望した。
 まだ生きている筈の白と緑の気配が感じられない。後にそれは封印と弱体化の影響だと冷静に考えられたのだが、この時は、僕が訳の分からない空間に閉じ込められている間に……白まで、人間によって死に追いやられてしまったのだと思ったのだ。

 絶望の中。あと少しで理性なんて吹き飛んでしまいそうな憤怒の中。僕は、人間体になって情報を集めたりもした。そのお陰か、白は死んだのではなく封印されたのだと知る事が出来た。
 だけど、それを知ったところで僕には何も出来ない。
 白が封印された場所も、緑が眠るという場所も知らない。知ったところで、あの白にかけられた封印を解く事が出来るかも分からないし、白の権能で眠った緑を目覚めさせてあげられるかも分からない。
 僕は、最愛の弟妹達を──誰一体(ヒトリ)として守れなかったのだ。

『あ、あ────うぁああああああああああああああッッッ!!』

 どれだけ泣いても、赤と青は生き返らない。
 どれだけ叫んでも、白と緑を助けられない。
 僕は……僕は、どうしてこんなにも無力なんだ。原初の存在だ、最古の竜だ、最凶の災害だなんだと言われても、大事な弟妹(キョーダイ)すら守れない。僕は酷く無力で、とても愚かな存在だった。
 もはや、あれはただの憂さ晴らしだった。本当はあのまま人間界で本能のままに暴れたかったけど、もし白や緑に被害が出ては……僕は本当に正気を保てなくなる。
 だから、二体に影響がなさそうな場所──魔界に行った。
 とにかく暴虐の限りを尽くし、目につく全てを破壊した。何も考えてなかった。とにかく悲しみのまま、憎しみのまま暴れていた。

『このクソ災害野郎が! 何勝手に魔界で暴れてやがる!!』

 そんな時、あの男が僕の四肢の一つを吹き飛ばした。
 反射的に放った呪いがあの男を蝕むも、男はそんなの気にもとめず僕の頭部を殴った。素手で。
 いくら悪魔だったとしても、そんな命知らずで馬鹿な事をする奴がいるのかと……あの時僕はとても驚いた。やや冷静になるぐらいには驚いた。
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